こういう物語を若い人は、なるべく若いうちに触れてほしいなと思いました。
先ずこの『撃ち落とされるまで、あと何分?』は地の文の力が秀逸です。物語の題材が今現在の世界にも起こり得るテロを取り扱ってるんですが、そうした世界情勢にも絡む程の大きな題材なら、地の文のバランスには凄く気を使うのは間違いないでしょう。
地の文には書き手の特色や主観が入り易いという一面があり、どれかの立場の人物をピックアップした文を書けば、片方の立場の人物には『悪い』方の立場であるみたいな空気が流れ出す…
勧善懲悪モノならともかく、テロを狙う側にもそれまでの人生から来る止むを得ない事情が存在するという、このリアルを扱う物語でそうするのは物語の意図がきちんと伝え切れない危険を孕むものだという気がします。
その点この物語での地の文は全ての立場の人物に対して、平等と言える程の公平性を終始保ってくれています。
ここが私が若い人にもオススメ出来る理由なのです!(机ばーん!!)
お仕着せではなく、老若男女全ての読み手に対しても平等な居心地の良い文章。それは正に読み手に自分の見知らぬ世界への扉を開き、その厳しい現実を飾らず、しかしある意味で優しく垣間見させてくれるのです。
だから銃とか外国の街並みとか多彩な人物達の心情とか、すんなり理解出来る!馴染みが無い事にもなんだか詳しくなったような気になれる!心が世界の方に向く!…それは読み手の普段の暮らしにも何かしらの深みを持たせる事でしょう。
全然世界情勢に詳しくない私がそうなったんだから!!
(ここからは特に若い人に向けての言葉)
若い方々、ホントはこういうスリルのある、どこかワルな大人の世界覗いてみたいんでしょ?分かる分かる、私もそうだったから笑。
今のうちに背伸びしちゃいなって。苦く、でも深みとコクのあるコーヒーを、これ飲んだら大人になった気がするみたいな感じでさ。
コーヒー飲んだ時と同じように、この大人な物語読んだ後、あなた自身も結構決まった顔つきになってるかもしれませんよ?
冒頭の無差別攻撃から始まる、抑え切れない負の感情の悲劇。
そして東京から始まる、ちょっとした事件。
そのふたつが思わぬ関係性を見せて絡み合っていく様子が面白く、特に後半の『へぇ、当たった。それなら今、俺、乗ってるよ』のセリフには鳥肌が立った。
ややタイトルの部分に辿り着くまでの流れが長いようにも思うが、13万字という文字数を全く感じさせない、ぐいぐいと読者を作品に惹きつける力はお見事の一言に尽きる。
また、エンタメ作品でありながらも、作中や追記にて書かれているように、敗戦からの復興を果たした日本は今の時代にこそ担うべき役割があるのではないかという問い掛けには考えさせられるものがある。
人類の滅亡までの時間を示す「世界終末時計」なるものがあるが、その時間を止めることが出来るのは、案外自分たちなのかもしれない。
twitterで作者さんをフォローさせていただいているので、流れてくるTLから中東情勢のお話だというのは予備知識はあった。
タイトルに「撃ち落とされる」とあるので、なるほどRPGでヘリコプターを落とす側あるいは落とされる側の戦争アクション的な話なのかな――とか思ってたら全然違った。
超濃厚な軍事サスペンス。
テロ集団とひょんなことからその尻尾を追うことになったアウトローとその仲間による、世界を股にかけた追跡撃。
ひとこと紹介にあげたその三要素が、国境を越えながら見事に絡み合い最後の瞬間へと繋がる、そのストーリー運びは見事としか言うほかありません。
そしてこの話を語る上で欠かせないのがシリア情勢とISの内情。
目を覆いたくなるような事実――今現在、この世界に起こっている悲劇その連鎖の一端が、架空とはいえここには描かれている。
はたして主人公イザは――いや人類は、この悲劇を回避することができるのか。
謎とスリル、多くのアンダーグラウンドのエッセンス、イスラム世界への敬意、そしてこの世界への問題提起を含んだ本作品。
映画館に見に行かなくっても、これはカクヨムで読めるのだ。
オススメです!!
この作品の一番の魅力はやはり実在する言葉を用いてよりリアルに近づけている点と言えます。
やはり、実在する言葉を用いることでより作品に引きつける力があるというのがこの作品のいいところです。
そして、何よりも言いたいのは実在する言葉について本当によく調べていることがよくわかることで、どの言葉もきちんとした箇所で使われており、より一層物語に引き込んでくれました。
最後にかけての展開は緊張感がありはやく読みたいと思わせるほどの完成度で非常にサクサクと読み進めあっという間に読み終わってしまいました。
また、完成度を支えるための様々な要素、登場人物の魅力であったり、舞台の設定であったりと言ったものがやはりきちんとしているからこその最後であると大きな声で言わせてください。
現実的なお話が好きな人ならぜひ読んでみてください。
何ともタイムリーな題材を扱ったサスペンス小説でした。
基本的な内容は、概ねあらすじ通りなのですが、物語の根幹を支えている物語背景のリアリティには脱帽。
そして、それら一つひとつの要素が有機的に接続し合って、無駄なく一本の物語の筋立てを構成している、作者さんの高い作劇技術に感嘆せざるを得ません。
リアリティのある設定が単純に網羅されているわけじゃなく、何と言ってもちゃんとストーリーを描き出す上での意味を持って結び付いているところが素晴らしいのです。
世界各地で連鎖的に動いていた複数のストーリーラインが、物語中盤前後から綺麗に一本のメインエピソードへ収束していく展開の美しさはお見事。
本格派の硬質な社会派ドラマがお好きな方は是非ご一読を!
現代の裏社会や、激変する世界情勢を描いた社会派サスペンス。
あまりこういったジャンルになじみがない人にも、いやなじみがない人にこそ、お薦めしたい作品です。
自分がそういう部類の人間なのですが、そんな私でも脱落せずに(むしろ夢中になって)読めました。
横領事件やペーパーカンパニー、IS、ハイジャックと、話が進むごとにスケールが大きくなっていき、最終章ではずっとハラハラドキドキの展開が続きます。
描かれるシーンはどれも非常にリアルで、こんな事件がいつ自分の身近なところで起こってもおかしくないのだ……と思い知りました。
特に、膨大な資料に裏打ちされているに違いないIS関連の記述は知らないことが多く、頭を殴られるくらいの衝撃がありました。
扱うのが難しいテーマを、見事にエンタメ作品に落とし込んだ作者さんの努力と力量に頭が下がります。
叶うならば、現代日本に生きる人たち全員に読んでほしい、そんな一作です。
ものすごくリアリティのある物語でした。
そこにあるものは現実なのではないかと疑ってしまいます。
作者さんのとてつもない知識量とそれを補うための多くの資料。そしてそれを駆使することのできる実力が文章全体から伝わってきました。
事実最近のご時世ではこの手の話がよくニュースで話題になっています。その現実と小説というフィクションを繋ぎ合わせることで見えてくるものもありました。
今の若き世代にはぜひ読んでもらいたい。なんなら日本人だけでなく、他の国の人にも読んでもらいたいなぁと思ってみたりもしました。いや、まずいかなぁ。
とにかく、誰もに読んでもらいたい。そして世界情勢というものの一端でもいいからこの小説から見通してほしい。
散りばめられた謎や国際的な問題が、登場人物たちのリアルな肉声で語られ、物語が紡がれていく、そんな印象です。
この作品世界の背景にあるのはIS,イスラム国に属している人たちのテロ行為に至るまでの過程。
敬虔なイスラム教徒たる彼らにとって死は終焉ではなく、天国へ至る道筋。
日本人にとってごく当たり前な飲酒喫煙でさえ禁忌とみなされ、これを破れば厳罰に処される。
人間の尊厳さえ踏みにじられた彼らにとって諸外国こそが悪。
これらはニュースなどで語られることがなく、ただ犯行声明と被害状況が告げられるだけです。
この作品はそんな彼らの側までも語った上で、世界各国を舞台にした、ガンアクション、情報戦、時間制限の中での息詰まる闘いが描かれています。
登場人物のリアル、これが読む側に伝播する作品です。