家族とは、人が生を受けたその瞬間に属することとなる最も根元的な所属集団と言える。
だからこそ、最も大切なものであり、同時に最もその大切さを見失いやすいものでもある。
月並みな話だが、一人立ちし、親元を離れた人間が親と過ごせる時間というのは本当に限られていると言われる。
仮に盆と正月のみ帰省するとすれば、それぞれ五日前後、両者を合わせても十日程度しかない。
つまり、一年でたった十日しか顔を合わせないことになる。
仮に膝下を離れてから両親が三十年息災でいてくれるとしても、顔を合わせる日は合計してたった三百日しかない。
つまり、家を出た人間が家族と共に過ごせる時間は一年あるかどうかわからないのだ。
この物語は長崎の実家にいる母が倒れたという知らせが届くところから始まる。
喪服を持って帰ってこい。
そう言われて実家に戻るのだ。
危篤の母に対面し欲しいものを尋ねたところ、竜眼が欲しいと答える。
私は寡聞にして知らなかったがそのような郷土料理があるらしい。このあたりは本文に詳しいので是非とも本文を読んでお確かめ頂きたい。
母の作る料理は子にとって特別なものである。
「家の味」なんて言葉があるように、料理とは一つの家ごとに違った味がある。
それを受け継いでいくことが家を受け継ぐことなのだとも言えるかもしれない。
主人公は実母に昔教わったとおりに竜眼を作り、振る舞う。
母はそれを喜んで食べるのだ。
その味はやがて子へ孫へ受け継がれていく。
一つの個体としての人間は有限である。
しかし、連面と続く何かは無限の連続性と続く可能性を秘めて持つ。
我々は自分が何を為し、何を残していくのか。そんな葛藤に苦しみ、生を潰している。
受け継がれる何か。
それが、人生の意味に苦しむ人間への一つの解答なのではないだろうか。
コンテストという観点から見ても、長崎という土地をリアリティー豊かに描写し、郷土料理が題材であるという点からも日本の文化を伝える今回のコンテストの趣旨に合致していると感じます。
コンテストにおける有力な候補作の一つのだと思います。
応援しています。