クラス豆まき大会!

 ――2/3は豆まき大会開催! さぁ、邪気を払って、恋愛成就! 安産祈願!



 今朝方、送られてきたクラスLINKだった。誰だ、こんなふざけたのを送ってきたのは……?

 そう思いながら、既読スルー。申し訳ないが、クラスの連中とは少し距離をおきた――。


「水原先輩ー!」


 ぶんぶん、手をふるって、何の遠慮もなく入ってきたのは、桑島だった。


「LINK、見てくれましたー?」

「LINK?」


 今日、桑島からは一通も――。


「ほら、ミス原先輩の暮らすLINKですよー」

「は?!」


 慌ててスマートフォンを覗けば、確かに送信元は@yukarinで……。


「yukarin?」

「へへへ。水原先輩に『ゆかりん』って呼ばれるの照れますね」


「運営に通報しとくわ」

「なんでですかー!」


「むしろ、一年生が二年生のクラスLINKに侵入できた?!」

「そこは、トレー先生のお導きと言いますか」

「なんだって?」


 頭痛がしてきた。

 姉さん、何をしてくれるの?


「お待たせしました!」


 間髪入れず、ひなたの声が飛ぶ。


「ひな――?」


 絶句。

 鬼のお面を半分被って。

 両腕には、豆の入った段ボール、4箱を易々と掲げている。ちなみに、教室は三階。階段をその状況で上がっていたことになる。


 ――筋力局所強化の能力スキルを確認。

 ありがとう、デベロッパー。でも、検知するまでもなく、そうだと思うよ!


「みんなで、豆まき! 楽しみです!」


 ひなたが、小さく力コブをつくるポーズ。ふんすっうと、気合いのこもった可愛らしい息をもらす。



「こんなふざけたの、だっけ?」


 クラスメートの野原彩子が、苦笑を混じらせながら言う。うるせぇ。ひながやる気になっているのなら、別問題だ。


「鬼、私が――」

「俺がやるよ」


 ひなたに豆を投げつけさせるなんて、とんでもない。俺はすっと手をのばす。

「いや、僕がやるよ」


 同時にすっと手がのびたのは、俺とクラスメートの一人、金木涼太だった。何かとアイツが、ひなたのことを意識しているのは知っていた。

 刹那――火花が散る。


「だから、僕がやるよ」

「いや、俺が!」

「僕が――」

「じゃぁ、二人が鬼ね。ひなた、OK?」


 そう野原に投げかけられて、ひなたはポカンと口を開けて――おれから、満面の笑顔を浮かべて頷いた。


「ひなた、容赦しなくて良いからね?」

「はい、全力で豆を投げます!」


 いや、ちょっと待って?

 今【筋力局所強化】起動中だったよ、ね――?



 ひゅん。豆が、俺の頬をかすめて、黒板にめりこんだ。

 俺と涼太の視線が、宙を彷徨う。


「ちょ、ちょっと待って!」

「鬼はそとー!」


 ひゅん、ひゅん。ひゅん!


「福はうちー!」


 ひゅん、ひゅん。ひゅん!

 豆が、黒板に、壁にめりこむ。


(……野原、お前は余計なこと言うなよ?! こんなの死んじゃうって――)


「せぇーの!」

「「「「「鬼は外!」」」」

「「「「「福はうち!」」」


 ひゅん、ひゅん。ひゅん!


(ちょっと、待ってって!)


 ひゅん、ひゅん。ひゅん!


「「「「「鬼は外!」」」」

「「「「「福はうち!」」」


 ひゅん、ひゅん。ひゅん!

 なんとか、躱して。涼太に至っては、何が起きたのかきっと理解できていない。


(こ、こんなの……高校生がする豆まきじゃないって!?)


 かといって、満喫して能力スキル起動していることすら気付いていないのだ。そんなひなたに、水を差したくない。


「水原先輩。いえ、鬼さん、覚悟! 愛のお豆、受け取ってください! 愛の数だけ、豆があるんです!」


 重い! そんな豆まき、重すぎる!

 そもそも電流を帯電させた豆なんて、聞いたことない。





■■■




 ――デバッガーの能力スキルを駆使し、この豆まきを鎮圧するまで、残り30分。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る