あの人にプレゼントを
ガラでもない、という自覚はある。
でも――。と思う。諦めるという選択肢もない。好きという感情を拭う方法があれば教えて欲しい。
あの人のためにクッキーを焼いた。先輩はそんな私を見てきっと笑うだろう。それこそガラにもないって。渡した所で、何がどうなる望みもないのに。
先輩が想う人のことを、私はよく知っている。
想い人を憎むことができたら。嫌いになれたら、もっと楽なのにと思う。
その彼女のことを憎めないバカな私がいる。
――ゆかりは結局どうしたいの?
クラスメートの言葉が浮かぶ。私が先輩を好きなのは、ある意味暗黙の了解になっている。
どう、したいん、だろう?
先輩は好きだ。
でもあの人のことを憎めない。
だから、あの人がいない瞬間を見計らって、プレゼントを渡そうとする姑息な私がいる。
「水原先輩――」
声が萎んだ。
先輩は私に気付かず、手を振る。私じゃない――あの人に向けて。私は生徒の流れに紛れて、背中を向ける。
紙袋を握りしめて。
クッキーが砕けたのが感触でわかる。
バカだ。
私は、本当にバカだ。
視界がボヤけて。声すら出なくて。どこに向かうのか目的もないまま、足が止まらなくて。
二人が好きなことに今さらながら気づく。
好きの意味は違ったとしても、私にはどちらも大切で。
――バカだ。私は本当にバカだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録(無料)
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます