あの人にプレゼントを


 ガラでもない、という自覚はある。


 でも――。と思う。諦めるという選択肢もない。好きという感情を拭う方法があれば教えて欲しい。


  あの人のためにクッキーを焼いた。先輩はそんな私を見てきっと笑うだろう。それこそガラにもないって。渡した所で、何がどうなる望みもないのに。


 先輩が想う人のことを、私はよく知っている。

 想い人を憎むことができたら。嫌いになれたら、もっと楽なのにと思う。


 その彼女のことを憎めないバカな私がいる。

 ――ゆかりは結局どうしたいの?


 クラスメートの言葉が浮かぶ。私が先輩を好きなのは、ある意味暗黙の了解になっている。

 どう、したいん、だろう?


 先輩は好きだ。

 でもあの人のことを憎めない。

 だから、あの人がいない瞬間を見計らって、プレゼントを渡そうとする姑息な私がいる。


「水原先輩――」


 声が萎んだ。

 先輩は私に気付かず、手を振る。私じゃない――あの人に向けて。私は生徒の流れに紛れて、背中を向ける。


 紙袋を握りしめて。

 クッキーが砕けたのが感触でわかる。


 バカだ。

 私は、本当にバカだ。


 視界がボヤけて。声すら出なくて。どこに向かうのか目的もないまま、足が止まらなくて。

 二人が好きなことに今さらながら気づく。

 好きの意味は違ったとしても、私にはどちらも大切で。


 ――バカだ。私は本当にバカだ。

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