SS

あの子にプレゼントを

「バカなんじゃない?」


 聞いた瞬間、言葉に出てしまった。でも動じずに、彼は見据える。


 私たちは言ってみれば、遺伝子研究サンプルという名の実験動物だ。研究者達からして見れば、私たちがどう足掻こうが関係ない。国家権力とともに捻り潰す【チカラ】をもっている。だからこそ、情報を共有し連携するデバイスを活用して生き延びる必要がある。


 それを考えたら、有事に特化したツールであるとともに、応用性に富んだ兵器であることを選択肢として考えていた。それなのにこのオトコは、機能を限定してペンダントだなんてほざく。


「俺のエゴだって自覚あるよ。でもね、野原。俺はあの子に兵器じゃなくて、繋がりをプレゼントしたいんだ。もう手を離したくないから――」


 戯れ言を、と私はそっぽを向く。それでもこの弟分の言う事を拒否できない自分がいるのだ。

 私は小さく息をついた。


「――水原君がそう思うんなら、いいんじゃない? あの子の能力を考えたら、それこそデバイスに依存する事そのものが無意味だし、ね」


「ありがとう」


 なんてこのオトコは嬉しそうに笑うのか。

 やれやれ、と私はため息をついた。

















 なんて嬉しそうな顔をして、この子は笑うんだろう。


「宗方さん、そのペンダント可愛いね。どうしたの、それ?」

「え?」


 彼女は固まる。慌てて、その手で隠す。学校に不必要な物は持って来ないように、と教師がホームルームで言っていたのを思い出したんだろうか。


「これは……え、あ……その――」


 すっかり萎縮している彼女を尻目に、私は小さく笑む。


「似合ってるね」

「え?」


 遺伝子研究特化型サンプルとは到底思えない、怯えたような目で私を見ながら。


 それは似合ってるはずだ。弟分が無理難題にも近いイメージの中から駄目出しを繰り返し、やっと完成させた一品なのだから。


(あの腹黒王子め)


 思い出すだけでも腹が立つ。

 と、私の言葉をようやく理解してか彼女は――溢れんばかりの笑顔で


「うん!」


 と大きく頷く。なんて嬉しそうな顔で笑うのか。

 ま、悪い気はしないけどね。

 私は、小さく笑んで彼女に背を向けた。

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