佐原さんと小鳥と鈴と④
「佐倉君。帰り、遅かったね」
時刻は18:30。
場所は僕の家の玄関。
何時もなら此処で、優と陽の
「佐原………さん?」
他でもない、無口で普通、無難な容姿のクラスメイト・佐原汐里さんがいた。
「佐原さん、どうしているの?」
僕が訳も分からず唖然としていると、佐原さんが手招きをしてリビングに入っていく。
「あ、ちょっ、佐原さんまっ…………」
僕はそう言いながら、慌てて佐原さんの後に続いてリビングに入った。
リビングの中はシーンとしている。
何時もならいるはずの優と陽はおらず、母さんもいない。
妹はいると思うけれど、多分自分の部屋に籠っているんだろう。
とにかく、リビングを含めて家全体が沈黙に包まれていた。
「ねぇ、佐倉君」
佐原さんはその沈黙を破るかの様に僕の名前を呼ぶ。
「私ね。解ったんだ」
佐原さんは僕の返事を聞かず、一人で続ける。
「今回の『プリントの謎』に隠されていた
佐原さんは静かにそう言った。
「………」
僕は何も言わない。
佐原さんは何も言わない僕を、真剣な目で見つめた。
「佐倉君。もしかして、私が叔母さんが怪我をしたのにも関わらず、悲しんでいないことを不思議がったりしてる?そして、軽蔑したりしてる?もしくは、私に同情したりしてる?」
僕は静かに頷いた。
佐原さんの言う通りだ。
僕は、実可子さんが怪我を負ったのに、それを悲しむ様子のない佐原さんを不思議に思い、そして、軽蔑してしまっている。
また、そんな状況に───実可子さんが怪我を負ってしまって実質、唯一一緒に食卓に並べる様な親族が居なくなってしまった状況に置かれている佐原さんに、同情している。
僕が頷いたのを見て、佐原さんは眉間に
「私は同情なんて望んでいない!!」
今までに聞いたことのないような、怒りに満ちた佐原さんの声。
佐原さんは───怒っていた。
そして、佐原さんの瞳からは───一粒の、綺麗な
「………ごめん。感情が高ぶっちゃったよ」
佐原さんは俯いて、慌てて制服の袖で涙を拭く。
「で、佐倉君。今から、謎解きを始めたいと思って。何か言いたいこととかある?」
首をかしげる佐原さん。
そんな佐原さんの目と鼻は赤く、頬には涙の跡がついていた。
「………佐原さん。一つ、聞いてもいいかな?」
「何でも良いけど、どうした?」
「母さん達って、どこにいるの?」
今の今まで気にしていなかったけど、そこは聞いておかないといけない。
佐原さんはそのことか、と呟いてテーブルの上に置いてあった紙を手に取り、僕に見せる。
その紙には
「お母さんはよーじで出掛けてる。ゆーとよーは、幼稚園のお友達とそのお母さん達と一緒に近くの公園に遊びに行ってるから、心配しないでいいよって、母さんが言ってたよ」
と、書かれていた。
この字は、妹のものだ。
「佐倉君の家に来た時、丁度妹さんと会ってね。それで、玄関で待たせてもらってたんだ」
なるほど。
僕の中の疑問が晴れていく。
「これ以上、質問はない?」
佐原さんは首を傾げた。
僕は無言で頷く。
佐原さんは静かに言い放った。
「じゃあ、今から謎解きを始めるよ」
そう言った佐原さんの瞳は、輝きに満ちていた。
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