ミステリアスな佐原さん④

「うーん、わからないな、さっぱり」

佐原さんから渡されたプリントを見て、実可子さんはそう言った。

「そっか、叔母さんでもわからないのか………ありがと」

その声は、少し落ち込んだように何時もより微妙にトーンの違う声色だったが、佐原さんの表情は好奇心に道溢れていた。

「………叔母さんもわからなかった、か。そんなものを私が解けたら、面白いかも」

佐原さんは一人で小さく呟いた。

「じゃ、このプリントの暗号解くのも楽しそうだけど、私は夕御飯の用意してるわー。ハルコも、早く帰りなさいよー」

「ハルトの次はハルコですか?!僕の名前は『春哉』です!ハ・ル・ヤ!!」

僕が大声で実可子さんの発言に噛み付くと、実可子さんは豪快に笑う。

「覚えた覚えた。次会ったときはちゃんとした名前で呼ぶよ。ハ・ル・ナ♪」

だから春哉です!

って、もうダメだなこの人。

「ハルナ」って、もう性別すら疑うぞ。

さっきの「ハルコ」も、言ってなかったけど、あれ確実に女の人に付ける名前でしょ!

と、そんなことを愚痴愚痴思いながらも。

「佐原さん、今日は僕帰るよ。その暗号プリントについては、また明日ね」

僕は佐原さんにそう言うと、玄関でスニーカーを履き、佐原さん家を後にした。

帰り際、佐原さんは椅子に座ったまま、小さく手を振ってくれていたっけ。

佐原さん、今日はよく笑っていたな。

それと僕、今日は何回「また明日ね」と、別れ際の挨拶を言ったんだろ。

なんてことを思いながら、自分の家に足を進めた。


        ☆☆☆


「ただいまー」

僕は、玄関で靴を脱ぎ散らかしてリビングに足を進めながら、そう言った。

僕ん家──佐倉家が住んでいるのは何てことない普通の二階建ての一軒家。

住宅街通りのの中にある家だ。

佐原さん家も住宅街に並んでいるけれども、其所の住宅街は商店街を越えた場所、通称商店街通りに位置る。

僕の家があるのは、今通っている中学校に近い方の住宅街なので、通称学生通り。

同じ住宅街なのに、大した違いだ。

「あー、春哉の兄様にいさま帰って来ました!」

「おー、春哉のにいちゃん帰って来たー!」

リビングに入るなり僕のことを出迎えてくれた二人の幼女ちびっこ

片方は左側にサイドテールを。

もう片方は右側にサイドテールをしている。

この二人は双子の姉妹・日原優ひはらゆう日原陽ひはらはる

左側にサイドテールをしている、丁寧語を使うのが優で、双子のあねの方。

右側にサイドテールをしている、丁寧語で喋らない方が陽で、双子のいもうとの方。

この二人は今年で5歳になる、俺の従姉妹。

今は訳あって、家の母さんが面倒を見ている。

そして、僕がリビングの入り口で双子ちびたちに絡まれていると、玄関の方から「ただいまー」と、声がする。

どうやらそいつは、リビングに入ってくることはなく、二階にある自室に行ってしまったようだ。

そいつの名前は佐倉乃莉母さくらのりは

僕の1つ年下の妹だ。

僕が小学2年生、のりはが小学1年生の頃位まではそれなりに仲が良かったものの、のりはが反抗期に入ってからは滅多に会話を交わすこともなくなった。

容姿は「僕と本当に兄妹なのか?」と疑ってしまうほどに僕と正反対の目立つ容姿。

黒髪ロングの白肌、大きな二重の瞳に、潤った唇、足はスラッと長く体型もそれなり。

所謂「美人」という枠に入る妹。

でも、(俺にだけ)性格も悪いし口も悪いので、僕の中では「可愛いげの無い妹」だ。

そんな妹でも、やっぱり僕が兄なのに変わりはないらしい。

「春哉、のりちゃんに、母さんに顔見せるように言ってきて頂戴」

台所キッチンで作業をしていた母に頼まれてしまう。

内心嫌だが断れる気もしない。

………兄ってめんどくさい。


         ☆☆☆


「春哉の兄様、もう行っちゃうんですか?」

「春哉の兄ちゃん、もう行っちゃうの?」

悲しそうな表情かおをした優と陽にそんなことを言われ「ごめんね」と、一言言って、妹──のりはの部屋に向かう。

「おーい、のりは、兄ちゃんだ。母さんが、一回下に降りてこいだって」

ドアを二回ノックしてから、ドア越しにそう言って階段を降り、一階に行き、リビングに入る。

リビングに入るなり。

「春哉の兄様が来たのですよ、陽ちゃん!」

「春哉の兄ちゃんが来たね、優!」

また双子姉妹ちびっこしまいに絡まれてしまった。

まったく、いつのデジャヴだよ………。

と、僕が困り果てていると台所キッチンから声が掛かる。

「春哉~?さっき電話が来てたわよ。あなたのお友達の『佐原さん』っていう女の子から。電話番号聞いておいてあげたから、後で掛け直しておきなさいねー」

「っへぁ?!」

佐原さんから電話が来た、と聞いた僕は思わず変な声を出してしまった。

「春哉の兄様が変な声を出しました!」

「春哉の兄ちゃんが変な声だしたよ!」

何で一々僕の行動を声に出してるんだよ、この双子ふたりは!

僕は呆れた様に溜め息をついて、リビングを出ていく。

「春哉の兄様、もう行くのですか?」

「春哉の兄ちゃん、もう遊ぶのやめちゃうの?」

リビングから出た僕を追い掛けて両足に絡まってくる優と陽。

僕は二人に一言言った。

「大丈夫、すぐ帰ってくるから」

僕は双子ちびふたりに向けてそう言うと、履き慣れた靴を履いて、玄関の扉を開けた。

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