ミステリアスな佐原さん③

「佐倉君に、見てもらいたい物があるんだ」

佐原さん家があるのは住宅街の中。

佐原さん家は、普通の二階建ての一軒家だ。

その佐原さん家に着いてから、暫くして。

今日は6月22日、時刻は16時54分。

お茶が出されたと同時に、さっきの言葉を掛けられた。

場所は佐倉さん家のリビング。

佐原さんから「これを見て」と、四つ折りにされた白いプリントを手渡される。

そのプリントは、他でもない僕が、佐原さんに「宿題プリント」と言って、渡した物だった。

そのプリントを手に取り、丁寧に折り目を開くと、そこには宿題の問題とは思えないような文章が乗っていた。

「それ見て驚いたよ。明らかに宿題じゃないよね」

佐原さんはダイニングテーブルに肘をついて呆れた様に口を緩めて笑った。

「これ、いつすり替えられたんだろう………」

正面に座っている佐原さんから視線を外し、テーブルに置いたプリントを見つめる。

そのプリントには、中央の方にたった1文、こう記されているだけだった。

「dmwe/xdp,.jgm-qawbgyeetk_wmzeet.G-gyPKKhkbjd_.」

何て書いてあるのか、さっぱり検討もつかない。

佐原さんも困った様に首を捻っていた。

「まず考えなくちゃいけないのは、このプリントを私に渡した犯人について」

佐原さんの顔つきが、真剣──というよりも、生き生きとしたな顔つきになる。

始まった。

佐原さんの「謎解きモード」が。

今言った「謎解きモード」とは、僕が勝手に付けた名前だ。

佐原さんの「謎解きモード」とは、普段とは少し違う、佐原さんのこと。

謎を目にして、それから解き終わるまで。

その間にしか見れない『普通を通り越して凄い』佐原さんのことだ。

話すよりも、見た方が早いだろう。

僕は紙から佐原さんへと視線を戻す。

佐原さんの目付きは何時もより真剣で、でも少し楽し気に口角を上げていた。

黒髪を耳に掛け、何か考えているのか、天井を見つめている。

「佐原さん、この紙を誰が佐原さんに渡したのかとか、検討はついてるの?」

僕が聞くと、佐原さんは天井から僕に視線をやって自信あり気に笑った。

「勿論。顔や名前まではわからないけどね」

でも次の瞬間、少し気を落としたように視線を僕より下に移して言う。

「でも、まだそのプリントの暗号がさっぱりわかっていない。それにこんなことをした犯人の動機も、さっぱりわからない」

珍しく、謎を目の前にして首を傾げている佐原さん。

僕がそんな佐原さんを見つめていると、玄関から声が聞こえる。

「いやぁー、大変だった大変だったー!夕方の商店街って、人通りが多くてほんっと、めんどくさいわね!」

おぉ、帰って来たのかあの人………。

僕が佐原さんに向けて苦笑いをすると、佐原さんも同じように苦笑いをした。

「あー、ほんっと疲れたー。って、何?ハルト来てたんだ。それならそうと早く言いなさいっ!ほら、そこの玄関にある荷物、全部此方まで運んできて!」

玄関の方を見てみると、ぱんぱんに荷物が入ったレジ袋が五つほど置いてあった。

これを一人で運べ、だなんて、いくら僕が男子だからといえども無茶だろ。

しかも………。

「僕の名前は春哉です、春哉!ハルトじゃありません!!」

僕は皮肉にそう言って、仕方なく玄関にある荷物を手に取り、運び出す。

僕がそんな労働をしている中「あー、疲れた疲れた!」と、此方げんかんまで聞こえるほどの声で言う人も1名いたけど。

僕はその人に呆れを覚えるが、ある意味尊敬もしている。

その人──さっき僕にレジ袋を押し付けてきた人の名前は野沢実可子さん。

佐原さんの、叔母にあたる人らしい。

佐原さん家は、佐原さんと佐原さんのご両親、実可子さんの四人暮らしだそうだ。

佐原さんのご両親は、家に中々帰って来ないらしく、叔母である実可子さんの職場が此処から近いらしく、丁度良いと言うことで、実可子さんが此処に住むついでに、佐原さんの面倒を見ているらしい。

「さあさ、さっさと運んで運んで!」

そんなこと言うなら、実可子さんも手伝ってくださいよ。袋達これ、意外と重いんですから!

──と言いたいのは山々だが、そんなこと、(多分)今の今まで職場で重労働を行ってきた実可子さんに、言えるわけもなく。

僕は御丁寧に、レジ袋の中の荷物まで整理して(させられて)、疲れ果てて佐原さんの真っ正面にあたる席に着いた。

「叔母さん、このプリントを、見て欲しいの」

佐原さんが少し真剣な顔つきで実可子さんを見る。

実可子さんも、さっきまで「疲れた疲れたー」と連呼していた人とは思えないような、真剣な、でも少し楽し気な、そんな表情を見せた。

そんな二人を正面から見て、僕は思った。

───この二人、同じ様な表情かおをするな。

真剣で、でも楽しそうで、生き甲斐を感じているかのような表情かおを。

やっぱり二人は、叔母と姪だけあって、似ている。

血は争えないな。

そんなことを思いながらも、実可子さんを加えた三人での謎解きは、再び幕を開けた。

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