ミステリアスな佐原さん②

「私が、どうかしたの?」

佐原さんがもう一度聞き直してくる。

彼女こそが、クラスメイト佐原汐里さん。

何度も言うけれど、THE・平凡なクラスメイトの女子。

普通以下でもなく、普通以上でもなく、普通ぴったりな容姿。

人一倍無口でミステリアスだということを除けば、性格だって至って普通。

そんな、佐原さんと、商店街でばったり八会わせた。

「いやぁ、佐原さんが可愛いねって話だよ。だよなー、春哉」

「そこで僕に話を振るなよ、秀。確かに、佐原さんは可愛いけど………って、何言わせてんの!」

返答に困るようなことを聞いてくるな!

言う方も聞いてる方も恥ずかしくて堪んないんだぞ!

「???」

僕達のやり取りを見て、?マークを頭の上に浮かべる佐原さん。

この人もこの人で、鈍感だなぁ………。

「そうだ!春哉くん、あれ渡そうよ。折角佐原さんと会えたんだから」

「あぁ、そうだな、忘れてたよ。教えてくれてさんきゅ」

僕が灯にそう言うと、灯は少し頬を染めて、口を開く。

「ううん、お役に立てたならよかったよ」

灯は少し照れたように笑った。

「佐原さん、これ、明日提出の宿題プリント。先生に渡されるように頼まれたんだ」

僕が佐原さんにプリントを渡すと、佐原さんは受け取り、首を傾げた。

「どうした?佐原さん」

秀が佐原さんの顔を覗き込むと、佐原さんは慌てて作り笑いを浮かべた。

「ううん、何も無いよ」

そう言って手に持っていたプリントを畳むと、佐原さんは歩き出す。 

すると、佐原さんは少し足を止める。

「今日はありがとうね。プリント、私に此方の方まで来てくれて」

そう言って僕達の方に顔を向け、にこりと微笑む佐原さん。

微笑んでいる佐原さんを見るのは、僕の人生で二度目だ。

いつも笑顔でいるようなイメージのある佐原さんだけど、佐原さん曰くあれは全部、愛想笑くうきをよんでいるだけらしい。

と、そんなことはどうでもよくて。

「また明日、佐原さん」

「じゃあなー、佐原さん」

「またね、佐原さん」

僕達はそう言う。

佐原さんも胸元にパーにした手を近づけて、口角を上げ、小さな声で言った。

「また……明日、ね」

ちょうど差し込んだ夕日が佐原さんを照らし、風が吹いて綺麗な黒髪が風に靡く。

その光景はまるで、一枚の絵画のようだった。

ずっと眺めていても良いような、見飽きない美しい光景。

僕が見とれていると、佐原さんは背を向けて足を踏み出す。

佐原さんが二歩程踏み出したところで、秀たちに呼ばれ僕も佐原さんに背を向けようとした、その時。

後ろから声が降りかかってくる。

「佐倉君は、私と一緒に、来てほしいな」

何時もより少し小さめの、照れの入ったような声色。

振り向くと、夕日に照らされた佐原さんが、僕の方をまっすぐ見つめて、手招きしていた。

「春哉ぁ、やっぱりお前、佐原さんと付き合ってるんじゃ………」

相変わらずニヤケ顔の秀。

「そんなのじゃないからな!?」

「まさか、男女交際の域を超えていると?」

「越えてないっ!」

全く………。

お前は、何処のエロ親父だよ!

「はっ、春哉くん!お付き合いするなら、中学生らしいお付き合いをしなきゃだよ!」

「灯までそんなこと言うなよ!」

お前は息子を心配する実家の母親かよ!

「ねぇ佐倉君、早く行くよ、私のい・え・に♪」

「佐原さんまでそんな誤解を招くような言い方をするな!」

春哉達こいつらのせいで突っ込み疲れた………。

僕が疲れ果てた表情をしていると、横から佐原さんが覗き込んできて、クスっと笑う。

「早く行こう、佐倉君」

佐原さんが僕の真っ正面に来て、歩き始める。

「じゃ、僕も行くよ」

秀と灯に言って、僕は佐原さんの隣に向けて足を進めた。

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