第1話 ミステリアスな佐原さん
「佐原さん………今日は欠席ね」
僕の名前は佐倉春哉。
極々普通の中学生で、平々凡々、無難な日々を過ごす思春期真っ只中(?)の一少年だ。
今日の日付は6月22日。
今日は珍しく、僕の後ろの席の佐原さんが欠席だ。
入学以来、一度も欠席・早退・遅刻の無かった佐原さんが欠席しているなんて、珍しい。
佐原さんこと、佐原汐里さん。
僕と同い年で、今年で13歳になる女子。
少し無口だということを除けば、他の女子とあまり変わらない、平凡な女子。
容姿は黒髪にストレートなセミロング、黒い色の澄んだ瞳、僕とあまり変わらない背丈。
ずば抜けて美人でもなければ、口に出せない程の容姿でもない、普通の女子。
でも、僕はそんな普通女子・佐原さんのとある不思議な趣味を知っている。
ついこのあいだまで僕と佐原さんは、そんなに接点がある訳じゃなかった。
強いて言えば挨拶くらいは交わす仲だった。
でも、つい一週間前のこと。
とある小さな事件がきっかけで、僕と佐原さんは、今まで以上に深く関わることが多くなった。
この話については、長くなりそうだからまた今度、話すことにしよう。
「では、今日の午後は
指名された今日の日直は立つ。
「姿勢、起立、気を付け、礼」
「ありがとうございましたー」
キーンコーンカーンコーン、とチャイムが鳴ると同時にHRが終わる。
各自それぞれ、自分達のグループで授業が行われる教室に移動する。
ちなみにこの学校は、毎回教室を移動して授業を行う体制だ。
「おい春哉、俺らも早く行くぞ」
こいつは荒川秀。
同じ小学校出身で小1の頃からつるんでいる、所謂幼馴染み。
金髪慧眼の長身で、悪目立ちしそうな容姿だが本人は至って真面目に勉学に励んでいる。
まあ結果は──報われていないけれど。
「ねぇねぇ春哉くん、一時限目って数学だよね?」
こっちのやつはもう一人の友人・
中学に入ってつるみ始めた友人。
性格はほんのりとしていて、何よりも女子力が高い。
女子からも羨まれる程だ。
秀とは正反対の容姿で、小柄で華奢な体つき、耳が隠れるほどの黒髪。
こんな容姿だから、灯はよく女子と間違えられる。
男子だということを除けば、男子の中では理想の女子。
「あぁ、一時限目は確か数学だったよ」
僕が言うと、灯はにっこりと安心したように笑った。
「そっかぁ。教えてくれてありがと、春哉くんっ」
本当に可愛いな、灯………。
何で女子に生まれなかったのか、不思議だ。
女子に生まれてたら、絶対モテていただろうな。
「なにぼーっと突っ立ってるんだよ、早く行くぞ春哉」
「あ、あぁ」
秀に呼ばれて教室を後にする。
それから数学科教室に行き、席に着く。
授業開始のチャイムが鳴ると同時に、担当教師が入ってきて、一時限目が始まった。
☆☆☆
「っはぁー、俺、今日も一日よく頑張ったー!」
「何で自分のことそんなに誉めてるの、秀くん。これが当たり前なんだよー」
下校途中。
近場の商店街を通りながら、三人で下校していた。
普段はこの商店街を通る前に、秀と灯とは別の道に行く僕だけど、今日は少し急用があった。
それは──僕の右手に握られているプリント。
「にしても、先生もよく生徒のこと見てるよね。佐原さんと春哉くんが最近仲良くなったこと知ってて、プリント渡すの春哉くんに頼んじゃうんだもん」
そう、今灯が言った通り。
今日僕は、学校を欠席していたさはらさんにプリントを渡してほしいと、担任教師直々に御願いされてしまった。
「無理して頼まれてくれなくてもいいですよ」
と、担任教師は言っていたけど、教師から直々に頼まれておいて「無理です」とか、とても言えるものじゃない。
それで、佐原さん家に向かっていた。
「でも、ある意味幸運なんじゃないかー、春哉ー」
右隣にいる秀がニヤケ顔で聞いてくる。
「なんでだよ?」
意味のわからない僕が秀に聞き返すと、左隣で歩いていた灯もクスッと笑う。
「春哉くん、白けてるねー」
「だから、二人してなんのことなんだよー」
僕が困ったように聞くと、秀がさっきよりもにやけた顔で言った。
「だって、お前と佐原さんって、あれだろ?付き合ってるんだろ?」
ヤバイ、こいつ勘違いしてる。
「いやいや、僕と佐原さん、付き合ってないから!」
僕が否定すると、秀はなーんだ、と言いつまらなそうな顔をする。
そして、同じく灯も勘違いしていたようで少しつまらなそうな顔になる。
「でも、まだ僕も佐原さんも12歳だし、そのさ───『男女交際』をするには、まだ早いよ」
僕が慌てて二人に言い直すと、二人は納得したようだ。
「だよな、春哉だもんな。佐原さんと付き合うとか、そんなわけないか」
「『TEH ・普通』な春哉くんだもんね。佐原さんと付き合うには、まだ早いよね」
何かムカつく言い方するなぁ、この二人!
と、僕が二人に対して苛々していると。
「私が、どうかしたの?」
僕達の後ろから声がかかる。
僕たち男子よりも少しトーンの高い、女子の声。
その声を、僕は知っている。
聞き覚えのある声だ。
この声の持ち主に、僕は用事があったんだから。
僕は後ろを振り返る。
そこには─────
「おはよ。というか、もうこんにちは、だよね」
黒髪セミロングの、黒瞳。
無難な容姿のクラスメイト。
佐原さんがいた。
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