佐原さんと小鳥と鈴と③
その後、実可子さんは校門前に来た救急車で、病院に搬送されて行った。
勿論、同伴者は身内である佐原さん。
佐原さんは、特に動揺することもなく、平然とした
何一つ動揺を見せない佐原さんだったけど、悲しくはないのかな?
佐原さんにとって実可子さんは、唯一の身内っていうか───いつも側に居てくれる人、なのに。
そんな人が怪我をして。
悲しくは、無いんだろうか。
「佐倉君。君ってたしか、汐里と最近仲良かったよね?」
少し考え込んでいた僕に声を掛ける四ノ宮さん。
四ノ宮さんもさっきとは違い、落ち込んだような暗い雰囲気を漂わせている。
佐原さんと仲が良い四ノ宮さんのことだから、多分実可子さんとも面識があったんだろう。
どんな形であれ、知り合いのあんな姿を見て落ち込まない人はそうそう居ないだろう。
「汐里に、連絡いれてあげてね」
そう言った四ノ宮さんの表情は、どこか悲しげだった。
「ねぇ、春哉君。もう帰ろう。このまま学校に僕達がいたところで、何の意味もないんだから」
いつもより落ち込んだ様子の僕を気に掛けたのか、灯がそう提案する。
「だな。早く帰ろうぜ、春哉。俺らがここにいたって、佐原さんの叔母さん───実可子?さんが、助かるわけでも無いんだから」
秀もそれに便乗するかのように、そう提案した。
「そう………だよね。よし、帰ろっか」
僕は言った。
確かに二人の言う通り、今僕達がここにいたって、何かができるわけでもないんだし。
「三人が帰るなら、私も帰ろーっと」
さっきまで暗かった雰囲気を取っ払うかのように、四ノ宮さんが明るい声で言った。
少し前まで酷く落ち込んだかのように振る舞っていた西ノ宮さんだったけど、気を取り戻したのか、何時もの「元気で明るい西ノ宮さん」に、戻ったようだった。
「処で三人の男子君達」
早く帰ろうと足を踏み出していた僕達を、西ノ宮さんが呼び止める。
「君達、どの辺に住んでるの?」
「どの辺………僕は、商店街通りかな。春哉君は反対の通り。秀君は、僕の家の隣だよ」
西ノ宮さんの声に瞬時に反射する灯。
さすが灯だ。
これも多分「女子力」ってやつなんだろうな。
「へー、佐倉君以外の二人は商店街通りなんだぁ。ちなみに私は、商店街通りだよー!」
「何、そんな情報要らないっつの」
そう皮肉に呟く秀。
「何だとこのーっ!君、私と殺り合う気かなぁ?んー?」
明らかに怒りが込められた声で言う西ノ宮さん。
そんな西ノ宮さんを睨み返す秀。
………二人とも、怖いよ…………。
「二人、楽しそうだねー。ね、春哉君」
この二人のこの険悪な雰囲気の、何処が楽しそうだと思うんだよ灯。
「はぁ………4人も揃ってまともな人間って僕だけなのかよ…………」
僕は空しく溜め息を吐いた。
────────その時。
少年・春哉が知らない場所で。
新たな事件が幕を開けようとしていた。
春哉の元に届いた、謎のメール。
そのメールは、既に幕の上がった謎のヒントになるのか、また新たに厄介な謎になるのか。
果たしてどちらになるのかは知らない。
しかし。
これだけは言えるだろう。
佐原汐里は、これを見て必ず今の「プリントの謎」を解ける、と。
このメールがヒントになろうとならなかろうと、それだけは確実に言える。
彼女なら、これがヒントでなくても「ヒント」として捉えるであろうから。
それが彼女・佐原汐里という人物だから。
そのメールは───メールの、内容は───。
「てんはかのじょのとなりにおり、かのじょはわたしといっしょにいる。かのじょはあらたなみちにいき、あらたなみちはてんがつくる。てんになにがあろうと、かのじょはかなしまないであろう」
そんな、内容だ。
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