8 リー。


君の赤ちゃんことばには、何でも「リー」がついてた。


ママリー、パパリー。おばあちゃんはババリー。

あれ、そういえば、ジジリーはなかったな。

おじいちゃんだけはジーチャンだったね。あれ不思議。


車をゆびさして、ブブリー。ミッフィーは、うさリー。

あの「リー」はいったい、どこから来たんだろう。

ブルース・リーはいいぞ、そのままで。


近所の小学生たちによく笑われた。

「パパリーだって。あははは」

この可愛さがわからないとは。お前らなど、ふん。



こどもの言葉って楽しい。

直してあげないといけないな

君がいつか困ることになるな、と思いながらも

この子だけの言葉があってもいいじゃないかと

ついには、おもしろくて、僕まで喜んで使ってしまう始末。


「いっただったすー」は、いただきます。

「ちょいだい」は、ちょうだい。


「ぶっくり」 は、びっくりのこと。

ママがいつも、体型のこと?  ってドッキリしているのを

見ているのはおかしい。あ、しまった。また怒らせてしまう。


さかさにしてしまう言葉も多いよな。

がんばれーは、「ばんがれー」。

くっついちゃったは、「つっくいちゃった」という具合に。


きっと各家庭に、その家だけの言葉があるんだろうな。

そういうのって、小石のカタチをした宝石なんじゃないかな。


うちでは、牛乳は「モーモー」


電車ずきの君は

クッキーのクリームがはみ出してると「だっせん!」だって。


自動販売機を「じどうはんバイキン」って呼ぶのは

アンパンマンの見すぎだな。



雨の中を、君に乞われて散歩に出る。

お気に入りの傘をさして、水玉模様の長靴で、水たまりに入りたいらしい。


ああ、桜が、雨で散りはじめたね。儚いな。

でも僕は、満開に咲いている時よりも、はらはら散って

川面を流れてゆく、うす桃色の花びらがすきだ。


ちょっと感傷的になっていたら

「パパ、おんぼりー」と、君がぼんぼりを指さした。






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