15 バースデー


僕は、自分のすべてを賭けて、君を守りたい。

君と、かつての君を。

それは自然に、泉が湧くようにでてくる気持ちだ。


君に出会うまでは、僕はこどもという存在が

どちらかというと苦手で、今でも得意になったわけじゃないけど

でも、君という、絶対的な存在の前では

得意とか苦手とか、そんなものどこかに飛んで行ってしまうんだ。


大きな波がよせてきて、ただ抱きしめたら、そこにいた。

はじめてだったよ、こんな感覚。


ママがこっそり言いに来た。あれは1歳の誕生日だったね。

「こどもが生まれても、あなたが1番よ」

なんて嘘言ってごめんね。こどもが1番になっちゃった。

パパは限りなく1番に近い、2番ね!

生まれた瞬間に知ってたよ。それでいい。



あの日君は、元気に生まれてきました。

けれど、すぐに感染症にかかって、命の危険にさらされてしまった。


突然の宣告に青ざめたけど、なぜか僕は大丈夫だと思ったんだ。

どうしてだろう。いつも心配性で自分のことは悪い方に考えてしまうのに。

強い気持ちで、絶対に良くなるって信じてた。


生まれたばかりの赤ちゃんの指を見たら、つめが伸びてたんだ。

命の不思議さと力強さを感じて、僕はずっと新生児室の窓から君を眺めてた。


緊急でNICUに移ることになって、その前に特別に抱っこさせてもらった。

はじめて抱く君は、軽くて、ちっちゃくて、儚くて。

でも同時に、強くて、あたたかくて。


君はつぶらな瞳をあけて、こっちを見ているようだった。

きっとまだ、よく見えてなかったのだろうけど

「行ってくるよ、パパ」

「うん、待ってるね」

確かに、目でそんな会話をした気がするんだ。


ガラス越しに、何度も君に会いに行った。

すごいぞ。ママが搾乳した(でいいのか?)母乳を元気に飲んでいる。

くちゃくちゃのさるみたいな顔で、ちっちゃい足には痛々しく点滴をして。

この子が元気になるなら、僕はいくらでも頑張る。

そして、早くつめを切ってあげたい。


4日間の点滴のおかげで、危機を脱した君。

家に帰ってきた君のつめを切るの、ほんとに難しかった。

できたての桜貝みたいだったから。



君の誕生日の前の日にね

たくさんのこどもたちが犠牲になる事件が起きたんだ。

僕と君は、そんな恐ろしいニュースを見ながら

この時代にこどもを育てていかなくてはならない現実に、胸を傷めた。

だから、君が生まれた日の新聞は取って置けなかった。


大切に、大切に、ひとりひとりのことを思おうよ。


あれから大きな病気をすることもなく、すくすく育ったね。

今日は、君の8才のバースデー。

ちょっと甘やかし過ぎてしまっただろうか。わがままなお姫さま。






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