15 バースデー
僕は、自分のすべてを賭けて、君を守りたい。
君と、かつての君を。
それは自然に、泉が湧くようにでてくる気持ちだ。
君に出会うまでは、僕はこどもという存在が
どちらかというと苦手で、今でも得意になったわけじゃないけど
でも、君という、絶対的な存在の前では
得意とか苦手とか、そんなものどこかに飛んで行ってしまうんだ。
大きな波がよせてきて、ただ抱きしめたら、そこにいた。
はじめてだったよ、こんな感覚。
ママがこっそり言いに来た。あれは1歳の誕生日だったね。
「こどもが生まれても、あなたが1番よ」
なんて嘘言ってごめんね。こどもが1番になっちゃった。
パパは限りなく1番に近い、2番ね!
生まれた瞬間に知ってたよ。それでいい。
*
あの日君は、元気に生まれてきました。
けれど、すぐに感染症にかかって、命の危険にさらされてしまった。
突然の宣告に青ざめたけど、なぜか僕は大丈夫だと思ったんだ。
どうしてだろう。いつも心配性で自分のことは悪い方に考えてしまうのに。
強い気持ちで、絶対に良くなるって信じてた。
生まれたばかりの赤ちゃんの指を見たら、つめが伸びてたんだ。
命の不思議さと力強さを感じて、僕はずっと新生児室の窓から君を眺めてた。
緊急でNICUに移ることになって、その前に特別に抱っこさせてもらった。
はじめて抱く君は、軽くて、ちっちゃくて、儚くて。
でも同時に、強くて、あたたかくて。
君はつぶらな瞳をあけて、こっちを見ているようだった。
きっとまだ、よく見えてなかったのだろうけど
「行ってくるよ、パパ」
「うん、待ってるね」
確かに、目でそんな会話をした気がするんだ。
ガラス越しに、何度も君に会いに行った。
すごいぞ。ママが搾乳した(でいいのか?)母乳を元気に飲んでいる。
くちゃくちゃのさるみたいな顔で、ちっちゃい足には痛々しく点滴をして。
この子が元気になるなら、僕はいくらでも頑張る。
そして、早くつめを切ってあげたい。
4日間の点滴のおかげで、危機を脱した君。
家に帰ってきた君のつめを切るの、ほんとに難しかった。
できたての桜貝みたいだったから。
*
君の誕生日の前の日にね
たくさんのこどもたちが犠牲になる事件が起きたんだ。
僕と君は、そんな恐ろしいニュースを見ながら
この時代にこどもを育てていかなくてはならない現実に、胸を傷めた。
だから、君が生まれた日の新聞は取って置けなかった。
大切に、大切に、ひとりひとりのことを思おうよ。
あれから大きな病気をすることもなく、すくすく育ったね。
今日は、君の8才のバースデー。
ちょっと甘やかし過ぎてしまっただろうか。わがままなお姫さま。
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