6 フードとホチキス
君は、フードが似合う女の子。
フードかぶせると、きのこの精みたいになって
いたずらっこな感じが、さらにアップする。
何かやらかしそうな瞳に気が気じゃないよ。
でも暑がりだから、かぶせたフードをすぐはずしちゃうんだよね。
君に似合う絵本を選ぼう。
行進している小さなきのこにしようか。
それとも、アリスを見下げるくらいの大きいのにしようか。
アリスのように迷子になってしまったら困るから
ちゃんと抱きかかえて読むよ。
*
君がいちど脱走した日のことを、今でも夢に見る。
ママがお隣に回覧板を持って行った、ほんのわずかな隙に
君はママを追いかけて外に出て行ってしまった。
僕はあの時ソファーに寝転がっていて、まったく気づかなくて。
ママが戻って来て、あれ? って探していた時も
かくれんぼでもしているんだと思ってのんびりしてた。
「パパ、あの子の靴がないの」
ママが真っ青になってるのを見て
事の重大さに気づいた僕は、あわてて外に出た。
まさか、道に飛び出したりしてないよな。
向こうの方から、知らないご婦人に手をつながれて
トコトコ歩いてくる赤いきのこを見つけた時のきもち。
あと少しで、もっと車の往来が激しい道に出る寸前で
気づいてもらえた、奇跡のようなできごと。
ぽかんとしてる君を思いっきり抱き上げて
僕は泣き出しそうな自分を精一杯抑えて、やさしい人にお礼を言った。
よかった。ほんとに、よかった。
夢の中でも、ちゃんと、いつも戻ってくるんだ。
*
ママが、ホチキスの針がないと大騒ぎしていた。
紙をはさむ前にカチッて押しちゃって
針だけがどこかに飛んで行っちゃったんだって。
君が見つけて口に入れたりしたら大変って
僕もあわてて捜すけど、なかなか見つからなくて。
ねぇ、こんなに捜しても見つからないってことは
もしかしてこの子、すでに飲み込んじゃってるんじゃないのかしら。
ママはそう言って、八文字まゆげになってる。
いや、それはないだろう、この子平気な顔してるし。
あ、まさかね。
ふと思って、君の首の後ろにちょこんとあるフードの中を探る。
あった、これだ。ホチキスの針。
えー、ここにちょうど飛び込んだの?
私にくっついてたものね、この子。
いたずらそうに笑ってる君に、ほおずりするママ。
ちょっと迷惑そうにしてるキノコの君。
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