5 強情な君


君はいつも公園から帰りたがらなかったね。


帰ろうとすると、いつも泣きわめいて

仕方ないから抱えようとすると

ぴちぴちと大きな魚のように暴れて手足をバタつかせるから

重くて手を離したくなる。

本気で蹴るなよ、痛いだろ。ママが 泣きたくなるわけだ。


これじゃ僕はまるで誘拐犯みたいだよ。拉致現場。

僕は、君のパパなんだけどな。



日曜の夕方の公園。お昼ごはん食べてここにきてから

もうずっと君は、はしゃいで遊びっぱなし。

ブランコはもう何十回乗ったかな。

君とノルとブランコは雲の上のようで、すきだけどね。


一緒に揺られながら、目をつむってみようよ。

ここは波の上。空の果て。風に乗ろう。


踏切のすぐそばの公園だから

電車が来るたびにカンカンという合図が鳴る。

君は柵の方に走り寄ってから僕を振り返る。はいはい、肩車ね。


運転手さんに向かって、とびきりの笑顔で手を振るんだ。

また、ちゃんと律儀に返してくれるんだよ、これが。

僕までうれしくなって、腕を思い切り伸ばして振り返しちゃうんだ。


電車好きなのは男の子だけかと思ってたよ。

君がすきな本は「鉄道ジャーナル」だもんね。鉄子になる気かな。



赤いきのこみたいなフードかぶって走り回ってる。

すっごく秋が似合ってるのに

ぜったい枯葉のじゅうたんの上には乗らない。


君はものすごい臆病な小動物みたいで

枯葉を踏むかさっとした音が大きらいなんだよね。

葉っぱをうっかり踏んで怒ってる、変わった女の子。


桜の花見の時も、花が散ってくるたびによけて怒ってたっけ。

誰に似たのかしらってママが言ってたけど、僕じゃないよ。

すこしふくれた顔を見ながら「君に似たんじゃないの?」って小声で言う。

僕の知らない君のちいさな頃。きっと強情だったでしょ。



やっと観念して帰ることになった。ああ、もう背中で眠ってる。

こんな夕方に寝て、変な時間に目覚めて、また大泣きだな。


きっと、ごはん食べながら文句言って、涙ためて

口あけないもんって僕をにらむんだ。

あれ見ると、かわいくてぷって笑ってしまう。


ソファーにすわって、ぽけっと口開けてどっか見てる時

何考えてるんだろうなぁ。そろそろ何か喋ってもいいんだよ。


ミッフィーをいつもだっこして、ちゅーして寝てるから

いつのまにか顔が茶色くなって、おともだちのメラニーみたいになってる。


涙のあとが、いとしい。

今日も存在感いっぱいに生きてたね。


こんな日はいつの日か過ぎ去って、遠くなってしまうんだろうな。






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