5 強情な君
君はいつも公園から帰りたがらなかったね。
帰ろうとすると、いつも泣きわめいて
仕方ないから抱えようとすると
ぴちぴちと大きな魚のように暴れて手足をバタつかせるから
重くて手を離したくなる。
本気で蹴るなよ、痛いだろ。ママが 泣きたくなるわけだ。
これじゃ僕はまるで誘拐犯みたいだよ。拉致現場。
僕は、君のパパなんだけどな。
*
日曜の夕方の公園。お昼ごはん食べてここにきてから
もうずっと君は、はしゃいで遊びっぱなし。
ブランコはもう何十回乗ったかな。
君とノルとブランコは雲の上のようで、すきだけどね。
一緒に揺られながら、目をつむってみようよ。
ここは波の上。空の果て。風に乗ろう。
踏切のすぐそばの公園だから
電車が来るたびにカンカンという合図が鳴る。
君は柵の方に走り寄ってから僕を振り返る。はいはい、肩車ね。
運転手さんに向かって、とびきりの笑顔で手を振るんだ。
また、ちゃんと律儀に返してくれるんだよ、これが。
僕までうれしくなって、腕を思い切り伸ばして振り返しちゃうんだ。
電車好きなのは男の子だけかと思ってたよ。
君がすきな本は「鉄道ジャーナル」だもんね。鉄子になる気かな。
*
赤いきのこみたいなフードかぶって走り回ってる。
すっごく秋が似合ってるのに
ぜったい枯葉のじゅうたんの上には乗らない。
君はものすごい臆病な小動物みたいで
枯葉を踏むかさっとした音が大きらいなんだよね。
葉っぱをうっかり踏んで怒ってる、変わった女の子。
桜の花見の時も、花が散ってくるたびによけて怒ってたっけ。
誰に似たのかしらってママが言ってたけど、僕じゃないよ。
すこしふくれた顔を見ながら「君に似たんじゃないの?」って小声で言う。
僕の知らない君のちいさな頃。きっと強情だったでしょ。
*
やっと観念して帰ることになった。ああ、もう背中で眠ってる。
こんな夕方に寝て、変な時間に目覚めて、また大泣きだな。
きっと、ごはん食べながら文句言って、涙ためて
口あけないもんって僕をにらむんだ。
あれ見ると、かわいくてぷって笑ってしまう。
ソファーにすわって、ぽけっと口開けてどっか見てる時
何考えてるんだろうなぁ。そろそろ何か喋ってもいいんだよ。
ミッフィーをいつもだっこして、ちゅーして寝てるから
いつのまにか顔が茶色くなって、おともだちのメラニーみたいになってる。
涙のあとが、いとしい。
今日も存在感いっぱいに生きてたね。
こんな日はいつの日か過ぎ去って、遠くなってしまうんだろうな。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます