7 かじられた絵本


君にはじめて買った絵本は

せなけいこさんの「いやだいやだ」の連作だった。


貼り絵で作られたやわらかい絵は、どこか僕をほっとさせる。

正方形の形と、頁数のちょうどよさで

生まれた頃からママが読み聞かせてる大切な絵本。


あかちゃんに気に入られた絵本は、ページがぼろぼろになる運命。

あちこちテープを貼った、痛々しい勲章つき。



お気に入りの3冊。


まずは「にんじん」 にんじんすきなこ、だあれ。


ある日、にんじんのページのまん中が、まあるく食いちぎられていた。

まだ離乳食も初期の初期。君はちゃんと消化したのかな。

やぎさんだって紙たべるんだから、きっと大丈夫だよね。


はらぺこの、あのあおむしさんと君は、気が合いそうだ。

まあるく穴のあいてしまった絵本。


つぎは「ふうせんねこ」

片づけるのいやー。ごはんはいやー。

あれもいや、これもいやといっているうちに、どんどんふくらむねこ。

  

ねこはいつしか風船のようにふくらんで、お空に飛んで行っちゃった。

まるで君だね。わがままぐあいも、イヤイヤ期のこどもそのまま。


さいごは「ねないこだれだ」

いつまでも起きているこどもは、おばけにさらわれちゃうぞー。

ああ、君なら確実にさらわれてしまうな。


ちょっと脅かすような声で読んでみても

あかちゃんの君はちっともこわがらなくて。

ふくろうさんがホーホーいう場面で、いつもくすくすわらってる。



おしゃべりができるようになった君は

今はおばけがちょっとこわくなったようす。


この前の晩、あんまりわからないことばかり言うから

あたま冷やしなさいって、廊下にすこしだけ出したんだよ。

そうしたら大泣きになってしまって。


あわてて抱きしめたら

「パパ、おばけでた」って、涙いっぱいで。


すごく気になってちょっと聞いてみた。

「ね、おばけってどんなだったの」

そしたら「ちっちゃかった」って。

ちっちゃいおばけか。ほんとにいたのかもしれないね。

ごめん、こわがらせて。


ね、ふうせんねこも、ねないこだれだも

絵本のおわりは、みんな遠くに消えちゃうんだよ。

悲劇的なんだよ。いいのかい?


僕はもう、君のいない世界は考えられないよ。






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