2章 シオン・トゥアハー Ride on the Re:Ga-Xion

承前 サバナ解放軍

 ユートピア大陸南部某所。

 そこにはサバナ解放軍が拠点基地が存在している。

 彼らは非合法組織であり、反連合組織としてテロリストとして認定されている。

 彼らは匿うのは連合に対する背徳であり、反旗として見なされ死罪を初めとする厳重な処罰を与えられる。

 しかし、彼らへの後援者は後を断たない。

 それはこの組織の設立目的に起因する。

 曰く『全ては災害から人類を守るため』。

 サバナ解放軍は過激派と揶揄される組織であるが、目的は人の為を歌った組織である。

 もちろんテロリストの大義名分など、すべからく綺麗事を謳い悪逆の限りを尽くすものである。

 事実、お題を大義にして、連合の基地を襲い最新型のランナーギアや技術を強奪した事件は既に三桁を超えるとされているし、その過程で連合とぶつかりでた死者の数は4桁にも上る。

 しかし、彼らは恐るべき統率力をもって連合軍と一戦を交える事はあっても一般市民への攻撃は一切行わなかった。

 それによって一定数の大衆から支持を得てしまっていたのだ。

 体制に抗う反体制の英雄。悪をなして善を得ようとするもの。必要悪。

 既に大陸1つを滅ぼし人類を滅亡に追い込みかねない第四災害に対して、効果的に見えるプランを提出出来ない連合よりも、簡潔かつ断定的に目的をつげ、それに向けて行動する彼らの喧伝は民衆の目に魅力的に映ったのである。

 何より失われたサバナ大陸の生存者達からすれば、彼らの過激さは自分たちの怒りの代弁者にすら見えたのかもしれない。

 ゆえに後援者が後を絶たない。

 連合が開発した新技術が半年もたたない内にサバナ解放軍に流出してしまっているケースもあるのだという。

 世界連合からすれば、頭痛の種である事ほかない。

 そんな彼らのリーダー格が4人、黒い殺風景な部屋で円卓を囲んでいる。

 緊急会議として急遽招集された彼らの顔は一人を除き訝しげだ。


「小隊からの信号は途絶え、送られてきた衛星情報からも作戦は失敗したといった所のようだ。」


 そう淡々と語る眼帯の女性はホロウ・ネレアネサ。サバナ解放軍強襲部隊を取り仕切る赤毛の女傑である。

『隻眼血鬼』の二つ名で知られる元連合軍のエースパイロットの一人で、ゼウス戦役の後に連合への不信から離反、解放軍に入ったとされている。


「ふむ、せっかくの貴重な『喪失遺産ロストテクノロジー』をくれてやったのに無駄にしおって…あれ1つで一体何機のランナーギアが買えると思ってるんじゃの…。」


 そういう老人の男は解放軍副司令を務めるアルバート・ディカエリだった。


「言うな、アルバート。何分イレギュラーの出撃だった……その上であのH.M.S.Tハムスターのイレギュラーだ。対応できないのは仕方ないと言える。」

「かか、なんじゃ、貴様の責任になるというのにやけに肩を持つじゃ無いか……出撃した兵士の中に思い人の一人でもいたか?」


 そういうアルバートに、ホロウは鉄面皮で答える。


「我が部隊の人間は全て戦友だよ。肩ぐらい持つさ。それに事実を言ったまでだよ、それよりだ。我々はこれからの指針を決めなければならない。『ダナン』をこれからも追撃するのか、来たるべき『ルー』への戦いへと力を蓄えるのかだ……。」


 そう真剣な面持ちで語る横で笑い声をあげる小柄な女性が一人。

 戦場で生きるような強面が揃う会議室で彼女だけが童顔で戦火を知らぬような童顔だった。

 子供と見間違えられてもおかしくない小柄な少女は手に付いたチョコレートを舐めながら言う。


「流石は部下の事は大切になさるホロウ・ネレアネサちゃんだね!でもこうやって資金調達する身にもなってほしいんだよねぇ?ほらほら、怜里ちゃんの営業活動だって無料じゃないんだよ?ちょっとは結果出してもらわないと困るなぁ…。」


 そう言った牧本怜里は不満そうに頬に指を当てて言う。


「金と命を同じに見るのか?貴様は?」

「そりゃそうだよ、金は命より重い!これ、怜里ちゃんの人生哲学なんだよね!勉強になったかなぁ?んっ?んっ?」

「黙っていろ、道化。貴様がサバナでやった事を忘れたわけではないぞ?」


 そう責めるように睨むホロウに怜里は頬を膨らませた。


「だから、わざわざ不利な君たちの方に付いてあげてるんじゃないかー、むー!大体、ホロウちゃんって――」

「――怜里、少し黙れ。」


 その一声で部屋の空気が再び重苦しいものになる。

 声の主は会議室の最後の一人であるサバナ解放軍司令マグナス・リデルである。

 中肉中背の体つきに借り上げた単発、そして連合の軍服に身を包んでいる。


「で、ホロウ、『ダナン』を追い続けるか、それとも『ルー』に備えるか…だったな?」

「はっ、司令。私としては確定している厄災である『ルー』への対応を優先することを進言します。我らは協力者がいるとはいえ、正規軍ではなく、世間的にはどう思われようと反逆者です。そのためいつ、供給が途絶えるかわかりません。故に今は雌伏して『ルー』に備えるべきかと…。」

「ふむ、確かに『ルー』は残る光臨者の中でも最大の厄災になる可能性が高い。規模的にも最小の『ダナン』は捨て置いた方がいいと。我々の軍備も無限ではない事を考えれば、確かにそれは自明の理だな。」

「ほっほっほっ、ならば、マグナス坊、今回は手を引くのかい?」


 アルバートの言葉にマグナスは首を振る。


「それはないよ、アルバート老。奴ら光臨者は全て敵だ。奴が友好を示している?奴は最も小さい?だからなんだという、もし、我々が『ルー』との最終決戦に挑む敵、奴が裏切り後ろから攻撃してきたらどうなる?挟み撃ちではないか!それは人類の滅亡を意味している。サバナを忘れるな、我々はたった1体の光臨者の為にサバナ大陸を失ったのだ!」


 そう語りながら机を叩くマグナス。


「ゆえに、『ダナン』はここで潰す。猫を被っているのならば、その皮を脱ぐ前に殺せばいい。ジャック・リーゲンを呼べ!」


 そう命令を伝えようとするマグナスを遮るようにホロウは口を挟む。


「お待ちください司令、ジャック・リーゲンは我らが持つサバナの英雄。彼が今、解放軍にいるというのが兵士達の士気になっています。彼を送り込むのはいささか危険かと…。」

「だが、我々が『ダナン』に遅れる人員は少数だ。『喪失遺産』のスラスターモジュールもあと6基といった所だろう?ならば、最高戦力を送り込むのが一番の解決策だろう。」

「使えるから全部使うっていうのは財政を取り仕切ってる身としてはやめて欲しいんだけどね。『喪失遺産』は交渉においても貴重なカードだ。あれ1基でランナーギア20機にしようとすれば出来る。なんせ失われた飛行技術だよ?飛びつく大金持ちの馬鹿はいくらだっている。だったら確かに最高の戦力であるジャック・リーゲンを送り込むのが正しい判断かもねぇ?彼こういう任務好きだろうし、あはは。」


 クッキーを口からまき散らしながら怜里は笑う。

 それに厳めしい顔をしながら、ホロウは少し天井を仰ぐように見た後、意を決した表示でマグナスに告げた。


「でしたら、私が行きます。」

「ほう、君がかね?慕うという意味ではジャック・リーゲンより貴重な存在なのだがな、君は……確かに操縦者としての技能は彼に劣るかもしれないが、統率指揮に関しては君は我らの中でも指折りだろう。」

「だからです、我々が司令から求められているのは『ダナン』の確実な殲滅と心得ました。ジャック・リーゲンは卓越した技能を持ちますが、どういう人物かはあなた方もご存じの通りです。でしたら私が部隊を率いて『ダナン』を倒しましょう。」

「例のH.M.S.Tハムスター搭載機はどうするかね…フロイドメタルアーム搭載機というのは中々に興味深いものであったが…。」

「既に対策は講じています。それと怜里、スラスターモジュールは全て使わせて貰うぞ……。」

「えぇー。さっきの話を聞いてた?貴重なカードだって…。」

「確実な殲滅の為です……貴様はそれ以外の手段で工面しろ……よろしいですね?司令。」


 そう訪ねるホロウにマグナスは、その決意をのぞき込むようにして瞳を覗く。


「いいのだな?」

「ええ、私はサバナで全て失いました…復讐の機会をお与えください。」

「――許可する。ゆけ、隻眼血鬼よ!貴様の牙で奴の喉元を食いちぎれ!」

「はっ!!」


 そうしてホロウは敬礼して会議室を立ち去り、アルバートと怜里も会議室を後にした。

 一人残るマグナスは誰もいなくなった部屋でうめくように言う。


「私は勝つさ…勝利の未来を人類にもたらしてみせる。」


 その視線は、ここではないどこかを見ていた。

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