3話 RE:Ga

 間切周介は、自分が見ているものが信じられなかった。

 どこから出てきたのかもわからない武装が、敵の胴を貫いている。

 それをおそらくは自分がやったのだと理解はしている。

 けれど、周介は一切、そのような武装を使うという操作も選択もしていなかったのだ。

 敵が迫り自分に死期が確実なものとなった瞬間、そのどこからともなく現れた槍が敵を貫いたのだ。


(助かったのか?)


 そう安堵の息を吐こうとした瞬間再び、怒号のような銃声が木霊する。

 回避出来ない事に死を悟る周介だったが、不思議と銃声はその全てが機体を揺らしもしない。

 先ほど敵を貫いていた槍が姿を変えて銀色の盾となり広がって自機の周りを防御していたのだ。

 それを見て、その射撃を行った強襲部隊の隊長を務めるジーベンは、舌打ちをする。

 スクリーンに映る白い機体は各部を展開させ姿を変えている。特に印象的な顔はバイザーが展開し、三つの瞳がめまぐるしく動くのが気色悪くなんとも生理的嫌悪感を催させた。

 そして、一番の違いは背中のバックパックからは四本の大きな銀色の触手なようなものが出ていることだった。


「隊長、あれは…。」


 ゼスト5から通信が入る。心なしか声に震えがあった。


「ああ、間違いないフロイドメタルアーム流体金属腕だ。」


 流体金属技術F.M.T。近年、発展しH.M.S.Tとして研究が進んでいる技術である。ゼウス戦役の後、異常気象によって作り替えられたサバナから採取された特殊金属オリハルコンを利用して精製されたゲル状の金属。

 この金属の最大の特徴としては通した電流によって硬度と形状を操作する事が出来るという点だ。この技術は、ランナーギアの足裏に使用されており、様々な地形を走破するにたる性能をランナーギアに与える結果となった。

 その後、流体金属の武器化転用の計画が立ち上がる事になる。

 その中で最も脚光を浴びたのが、フロイドメタルアームだった。この武器の構想は単純で、流体金蔵の可変性を利用した様々な状況で槍にも盾にも変形し運用利用が出来る汎用近接武装というものだ。


「しかし、あの計画は失敗に終わった筈では?少量ならともかく、武器としては大量のフロイドメタルが必要でそれを制御する術とプログラムの製作が難航して、結局大容量の流体金属の兵器運用は出来なかったと聞きましたが…。」


 ゼスト5が信じられないものを見たと語る。


「だが、実用化にこぎ着けたのだろう…目の前にあるものを信じないとな…それに、フロイドメタルアームの当初の制御プランは…。」

「―――脳波コントロール。」

「そうだ、コレで奴がもう素人かどうかなど関係がなくなった、奴は誰でも扱える武器を手に入れたのだ。ライフルのモードをグレネードに切り替えておけ、ただの弾丸ではもう奴に届かん。」


 そういって、ジーベンは機体を操作しプランを練る。

 敵の挙動からして、ランナーギアを操作した事がある人間なのは疑いようが無いが、兵士としては戦い方があまりに稚拙だ。

 そもそもあのような武装があるのならば最初の段階で出しておけば自身の機体が損傷する前にもっと早くこちらの機体を破壊する事が出来た筈だ。

 だまし討ちをする線で想定したとしても、数の不利がある状況で自機にダメージを負ってまでこちらを嵌める意味がない。

 ここから考えられるに、敵は競技用のランナーギアを制御した事はあるが、戦闘自体は初めてだ。あの武装も偶然使用したに過ぎず、まだ相手もあの武器の性能を把握しきれていない。

 ゼスト6を殺った攻撃とジーベン達の射撃から自身を守ったのは、搭乗者の防衛反応に脳波コントロールがダイレクトに作用したからといった所だろうか…。

 そこまで推測し、ジーベンはふと笑う。

 確かに強力な武装ではある。しかし、数の有利、戦闘の練度においてはまだ自分たちのが圧倒的に優位なのだという自負がある。

 白い機体はまるで動こうとしない。おそらくは白い機体の操縦者も、まだ自分がなにをしているのか理解していないのだ。


「お前みたいな素人には過ぎた機体だよ、それは!!」


 そう言って十分な勝算を持ってジーベンは機体を走らせる。


「私が特攻する!ゼスト5、貴様は奴に攻撃をし続けろ!」


 迫るジーベンのRG-20の姿を見た周介は戦慄する。

 次こそ自分にトドメを刺そうとしているのだ。というのがわかる。


「この武器の扱い方もよくわからないし…。」


 周介がレバーを操作してもフロイドメタルアームは思ったように動かない。

 脳波コントロールには意思の指向性を強く持たせる事を求められる。先ほど周介がフロイドメタルアームで攻撃と防御が出来たのは必死だったからである。

 迷いなどといった感情は、意思にジャミングが入るようなもので、フロイドメタルアームの制御を困難にする原因になる。

 アラームが鳴る。

 敵の攻撃、砲弾がスクリーンに映る。


(――直撃する。)


 思わず、周介は反射的に身を守ろうと身を堅くする。

 その防衛反応にフロイドメタルアームは反応して、4本の銀色の触手が盾となって、白い機体を守る。

 衝撃。

 衝撃。

 衝撃。

 衝撃。

 衝撃。

 矢継ぎ早に放たれるグレネード弾に白い機体が大きく揺れ、その揺れで周介は頭を強く打ち、連続した爆発音のロックンロールは周介の聴覚を吹き飛ばした。


「―――止んだか?」


 衝撃が尽き、周介は辺りを見渡す。

 スクリーンは砲弾が爆発した事で発生する煙で周囲の光景は既に見えなかった。

 頭を打った時にした出血をぬぐった手を見て周介は、はっと息を吞む。


「この武器、僕の意思に反応しているのか?」


 その答えにたどり着いた一瞬で既にジーベンは目の前にまで接近していた。


「虚を突くとは、こういう事だ!素人!!!」


 ジーベン・マスが敷いた手は大きく分けて3手である。

 1.目はグレネードランチャーによって敵のフロイドメタルアームを防御に専念させる。

 2.爆煙と爆音で敵の視界を奪い自機の姿を見失わせる事によって、敵に自機の接近を気づかせない。

 3.防御と視界の二手を封じる事でフロイドメタルアームの反応を遅らせて確実な接近戦での先手を取る。

 これら3手を全て成立させて、今、ジーベンは勝利に手をかける。


「零距離、取った!死ねい!!!」


 コックピットに銃口を合わせられられるのがスクリーンに映る。


「――っ。」


 周介はすぐに攻撃に転じようと念ずるが全てを守りに使ったフロイドメタルアームはまだ、遠い。

 不可避、絶対死のタイミングで敵は近づく。


(間に合え!)


 周介は必死に念じるようにして、フロイドメタルアームを操作した。

 そして、スクリーンの爬虫類顔の敵機は、その引き金を引いた。

 だからだろう、その時おこった事を誰もが理解できなかったのは――


(なんの冗談だ…。)


 とジーベン・マスは思う。

 体の半分以上が喪失し、あと数秒で死ぬという一瞬の走馬燈。

 その時間を全て、現状認識の思考に費やしても未だ理解出来ずに思う。

 完璧な3手だったと考える。敵の可能性の全てを潰した完璧な3手だったと…。

 何故、完璧な3手が破られるのか?

 何故、攻撃が届かなかったのか?

 何故、フロイドメタルアームは機体ごと自分の体を切り裂いているのか?

 可能性があるとするならば、自分が労した手を全て見切られて、予測されて反撃されたという線だ。

 しかし、敵は疑いようも無く素人である。そのような事が出来るのだろうか?


(ホロウ…すまん、祝勝杯を飲む約束は守れそうにない…。)


 そう今際の際に思い、ジーベン・マスは事切れる。

 爆発の煙が晴れ、しのぎを削った二機の姿は白日に晒される。

 周介の乗る白い機体はジーベンのRG-20はその搭乗者ごと機体を真っ二つに切断していた。


「なにが…起こったんだ…。」


 その言葉を発したのは、あろうこと間切周介だった。

 自身の刃が、自身の意思が、自身の殺意が確実に敵の命を奪ったというのに当の本人が、その事実を受け入れる事が出来ていない。

 周介の目から見てもそれは決して不可避であり、周介は必死にフロイドメタルアームを呼び戻そうとしたが、それが間に合わないタイミングだったと理解していた。

 そして間違いなく周介は目の前でトリガーを引く敵機を見たのだ。

 そして、その後に来るはずの死は未だ訪れず何故か、間に合った反撃が敵の命を奪った。

 敵の武器の誤作動に救われたのだろうか…?そう推測するも、周介は違和感を拭えなかった。

 その支援砲火する為に離れて見ていたゼスト6は仲間の死に唇を震わせていう。


「ば、化け物め!!」


 そう吠えて、機体を走らせた。

 グレネードの弾は先の攻撃で使い果たした。

 だとするならば、自分に残るのはアサルトライフルの弾だけである。

 その武器であの白い機体に挑むのは無謀の極みというべきだろう。

 しかし、彼はそうせずにはいられなかった。

 再び、失ったのだ。同志を仲間を兄弟を…『光臨者』の為に…。

 狂ったようにただ、ひたすらにライフルを発砲する。ランナーギアが破壊されるには十分な量だろ。

 しかし、その弾丸の全ては白い機体のフロイドメタルアームに防がれる。


「先刻承知!!!!」


 そういってアサルトライフルを投げ捨て、腰部から小さな短筒を取り出し、白い機体に向けて打つ。

 それは任務終了後に使う予定だった回収用の照明弾だ。

 その閃光は確実に白い機体の視界を奪い、脳波コントロールで動くフロイドメタルアームに致命的なダメージを与える。

 だが、その企みは叶わない。

 白い機体は、4本のフロイドメタルアームで地面を叩き、機体を宙に放り投げる事で回避していた。


「馬鹿な、一度も見せた事が無い手なのだぞ…何故それが読まれる!?」


 そう叫ぶゼスト5。

 その機影を空中から眺めながら周介は理解する。


「そうか、この機体が僕に見せてるのは現在なんかじゃない…これから起こる未来だったんだ。」


 そう悟る周介。それがこの白い機体の本当の力なのだ。

 各部センサーから様々なデーターを収集、カオスすら想定して、まるで未来が必然かのように予知する。

 そして、だからこそ、起こりえていない未来を今として感じ、遅れたと周介が感じた反応が現実では1手先んじた結果となる。


「僕はもう未来を掴んでいる。だから―――死ね。」


 白い機体は空中からフロイドメタルアームでゼスト6の機体ごと割断し、着地した。


 ――RE:Gaシステム:オーダーコンプリート

 ――RGX-01 Re:Ga-Xion全冷却システムを稼働します


 そうサブモニターに表示される文字を見て、周介は読む。


「リガジオン?」


 その前に型番号のような物が並んでいる事から察するに機体の名前だろうか?

 周介は、はっとし、バックシートに体を固定した少女を見る。

 戦闘で無理な機動をした、怪我をしている彼女がそれを受けて、症状を悪化させている可能性もある。

 バックシートの少女は顔が青ざめている。


「まだ、息がある…早く医者に…診せな…いと…」


 不意に意識が朦朧とする。先ほど頭を打ったせいだろうか…。

 流れ出した血は未だに止まっていないようだ。

 意識が消えそうになる周介の視界にサブモニターまた文字列が表示されている。



 ――あなたの欲しい未来は何ですか?


「僕は――僕は――彼女を――」


 そこで間切周介の意識は途切れた。


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