1話 連合の二人

 ノト基地襲撃事件から5日後の夕方。

 大和ノト連合病院の暗い通路を二人の男女が歩いている。

 二人は連合の軍服に身を包み、一人は頭髪がない強面の中年の男性、もう一人は栗色の髪のポニーテールと眼鏡が印象的な二十代半ばといった所の女性だった。

 二人はどうやら、上司と秘書官といったような立場のようで女性は手に持った資料を読みながら伝えている。


「はい、RGX-01のパーツの問題に関してはリガプロジェクトの機関から直接供給を受けなければならないようです。規格の違いから左腕の修復は不可能、バランサーのみはRG-20スクルージのものと規格が同一で互換が可能という事で破壊した敵機のものを急遽取り付け作業を行っています。」


 女性は無感情に書類に書いてある事項を要約して語る。


「ふむ、まったく実験機というのは面倒なものだな。金だけはかかって融通が効かん。」

「それに我々は救われたという事を忘れないでください、それより問題は我々の保有しているRGランナーギアの数です。」


 その言葉に立ち止まり顎に手を当てて考える男。


「残存している機体は半壊状態のRGX-01を除けば0か…まったく徹底しているというかなんというか…。」

「はい、こっぴどく重点的にRGランナーギア格納庫をまず破壊されましたからね……空からの奇襲……まさか喪失技術の使用をしてくるとは我々としても想定外でした。カントウに補充を要請しましたが、早くて一週間後になるとの事です。」


 それを聞いて乾いた笑い声をあげる男。軍服の内ポケットから写真を撮りだしてそれを見ながら語る。写真には軍服を着た長い髪の男が映っている。


「見たまえ、黒須くん、この私の頭を……ストレスというものはどうやら最初に毛根を攻撃するらしい。この楕円を描き、毛という毛が喪失し光を放つ頭部は私の心労を物語っているようだよ……いやぁ、どうしたもんかねぇ……この窮地。これではせっかくのダンディズムなイケメンも台無しだ。」

「それでも我々は生き残った計画責任者として計画を次の段階に進めなければなりません。大体ですね、天野少佐の髪の毛は先週酔った勢いでやった賭けポーカーですっからかんになった結果、身ぐるみと体中の毛をむしられたんだと記憶していますが……。」

「よく覚えてるね。君……。」

「後処理したの誰だと思ってるんですか、はぁ……。」


 そうポニーテールの女性、黒須くろすあんは少し睨むようにして男を見る。

 それに顔を引きつらせる男、天野太陽あまのたいよう少佐。彼は先のサバナ解放軍の連合ノト基地強襲において生き残った任官では最も高い位にあった為、臨時的に責任者の立場とっている。


「ごほごほ。それで、話を続けよう。それで統合本部から我々にはどのようなお達しが?変わらず『ダナン』を秘匿せよと言われても、どうも解放軍の頭でっかち共にもばれてるみたいだし?守るための戦力だって今ないわけだし?無理じゃね?と言いたいんだがなぁ…。」

「言ったところで仕方ないでしょう。まあ、実際問題として統合本部からはこの場所にこのまま居座るのは危険だという認識の旨の指令書が送られてきました。」


 そうやって指令書を取り出す杏から乱暴にとる天野。


「ふむふむ、えーとなに……『ダナン』輸送を目的とする任務に本日より貴官の任官を命ずる。貴官の任務は海峡横断大海道を通り、アメリア大陸まで……、これマジで言ってんのかな?」


 思わず頭に手を当てて、髪を搔こうとするが毛がない事に天野は気を落とす。


「ええ、こういう事を冗談で言えるのならば私は統合本部のセンスを褒め称えます。ビバビバビバ。」

「無感動にロボットみたいにビバビバ言うな、ホラーだぞ!それ!!」

「多少でも気が紛れればと思いましたが、駄目でしたか……。」


 そういう杏の視線は真剣だ。


「あ……うん、それ本気で言ってるんだよね。わかってる……わかってるよ、うん、顔怖い、勘弁して……黒須くん。」


 杏はあきれたようにため息を吐く。


「むしろ他にどう受け取りようが?」


 杏はそう訪ねながら、歩みを止めた。それにつられて天野も歩みを止める。


「ここが彼の病室か……。」

「はい、彼女も一緒にいるようです。」


 病室の扉横にある名札には『間切周介まぎりしゅうすけ』という名前が書かれていた。


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