第10話 実況検分
○翌朝 火事場 実況検
ほぼすべてが焼け焦げた焼け野原で、哲治郎がしゃがみ込む。
同心姿のハチが、帳面に丁寧に書き記している。
× × ×
哲治郎、ハチからかなり離れた場所。
龍之介がボランティアの町人達に混じって焼け材の搬出作業を手伝う。
りさ、休憩中の男達に、にぎりめしを配っている。
× × ×
ハチ、火事場の炭を拾い上げる。
哲治郎「ハチ、お前、この火事、どう思う?」
ハチ「家人がお勝手の火を消し忘れでもしたんでやすかねえ」
哲治郎「赤蛇の話は知っているな?」
ハチ「当たり前です。荒くれたガキ共の集団でさあ。中には、うちの弟のツレもいやしてね。何をしてんだと叱りつけたばかりでさぁ……」
ハチ、哲治郎に向き直る。
ハチ「ねえ、ダンナ……いつまで……赤鼠だった頃のこと、引きずるおつもりです?」
ハチの言いたいことがわからず、首をかしげる哲治郎。
ハチ「すべての現場に哲治郎あり……。ダンナが以前のご自分を恥じて、こうしてあっしら岡っ引きや町方火消しと同じく、いや、それ以上に江戸の町のためにかけずり回ってらっしゃることは、存じておりやす。ですが、もう、いいじゃないですか。町の人間のことを考えて下さる、そのお心はありがたい。ですが……身近でお心を痛めてる人がいることも、お忘れになっちゃあいけませんよ」
哲治郎、ハチの方に顔を向ける。
哲治郎「……足りねえんだよ。俺が、盗んだ品物が……。全部の盗品を見つけて、奉行所に届け出るまで、俺は赤鼠を忘れることはできねえな」
ハチ、書き物をしていた帳面を閉じ、哲治郎を見上げる。
ハチ「若旦那。くれぐれも申し上げますが、岡っ引きでもねえ町人が、この事件のことに口を出さねえでくださいまし。紅葉の頃には、お子様がお生まれになるんです。若旦那にもしものことがあったら、あっし、お嬢さんにも妹御のお華様にも顔向けが出来やせん。若旦那の背中の般若は、赤蛇とはなんの関わりもございやせん。よろしゅうござんすね」
哲治郎は返事をせず、ただ、ハチの顔を見つめている。
哲治郎の耳を思い切り引っ張るハチ。
ハチ「よ、ろ、しゅ、う、ご、ざ、ん、す、ね!」
ハチ、哲治郎の耳元で大声を出す。
哲治郎「は、はい!」
× × ×
龍之介、大きな木材を抱き抱え、大八車の上に乗せる。
人の気配に気付いて、焼け焦げた塀の方に歩き出す。
○同 火事場 塀の裏
二人の少年(14)(12)が、塀の影に隠れて震えている。
少年たちと目が合う龍之介。
龍之介「なんやお前ら」
龍之介の問いかけに、ただ、震え続ける少年たち。
龍之介「この火事……やったんは、お前らか」
少年達が、震えながら頷く。
龍之介「背中……見してみぃ」
着物をはだけ、肩の般若の刺青を見せる少年達。彫られた般若はひどく不細工である。
龍之介「(舌打ち)……いらんことすんなや」
うなだれる少年たち。
遠くで火事場を検分している哲治郎とハチがいる場所を確かめる龍之介。
哲治郎とハチは龍之介には背中を向けている。
龍之介「(低く)今のうちや、
驚いて、龍之介を見上げる少年達。
龍之介「(低く、強く)聞こえんかったんかい。去ね!!」
弾かれたように立ち上がり、走り去る少年達。
男性の声「手代さん、そろそろ休憩はおしまいにして、続きを始めようか」
龍之介「(商売用の声で)へえ、はじめましょうか」
声のした方に走る龍之介。
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