こうしてこの店はモンスター屋になった
翌朝、俺はいつも通り自分の店にやって来た。すると居るんだわ、あいつがな……。
「あっ、おはようございます~信也さん!」
そう、何とも眩しい笑顔をしたネイアがな。
「いや、何で居るんだ!」
咄嗟にそう言ってしまったけれど、昨日言ってしまったんだよな、それを覚えていたと言う事だ。
「うふふ、昨日言ったじゃないですか~私の事、従業員って~」
そうだよな。そうなるよな、自分の甘さに嫌になるわ……。
あ~またドタバタな毎日が始まるのか、頼むから世界を混乱に陥れる事だけは止めて欲しい。
「あっ、でもぉ。妻でも良いですよぉ」
「はぁ?! おまっ、何言って!」
おいおい、待て待て……何だか雰囲気が違うぞ、胸を押しつけるなこら!
「うふふ……あの杖はぁ、実はぁ……別名『伴侶の杖』って言いましてぇ。持ち主の伴侶となる者に、効果を与える杖なのです」
「はぁ?!」
そんな話は聞いてないぞ! 自分じゃ使えないって話だけで……って、そう言う意味だったのか、くそ!
「ネイアさん~終わりました~あっ、グッモーニング! 店主(マスター)!」
「って、な~んでお前まで居るんだ!」
何故か開いていた店から出て来たのは、昨日ネイアを攫ったマモンと、その仲間達であった。
そこら中包帯だらけだが、まぁ死んで無かったらしい。いや、それよりも何でここに居る?!
「ネイアさん~こう言うのはもう勘弁ですよぉ、私死ぬかと思いましたよ~」
「あ~ら、ごめんなさい。でも、私も驚いているわ。この人の力に」
ネイアは髪をたくし上げ、悪びれる様子も無く、マモンにそう言っている。待て、本当に雰囲気がおかしい。どうなってやがる?
「あは、ごめんなさい。このマモンは、私の国と同盟を結んでいる国の王なの」
「んっ? あっ……待て? どう言う事だ……」
同盟? それは、あの後結んだのか? いや、何かそんな雰囲気じゃ無い、最初からって感じだ。えっ、俺騙された?
「ふふ、ごめんなさい。実は私ね、もう一つ目的があってぇ、旦那様を探していたの。次期
最早、ネイアの顔は小悪魔の様に悪役感丸出しの顔付きになり、そして悪戯な笑みを俺に向けてくる。正直、背筋かまゾクッとしたが、それ以上に気になったのが、魔王と言う言葉だ。
「えっ? ま、待て。魔王って、倒されたんじゃ?」
「えぇ、そうよ。でも今、その魔王になろうとしている勢力が、激突し合っているの。その中でも次期魔王として有力なのが、私のお父様キング・マレット・バハート。そして、私はその娘ネイア・マレット・バハートよ」
俺は、気が遠くなりぶっ倒れそうにってしまっていた。何よりも悪の組織だったのは、こいつの国って事かよ! 信じられない、一瞬でも心を許した自分が情けない!
「くそ……マジか……全部嘘かよ。追われていると言うのも、モンスターを大切に思っているのも、全部! 兵器として見……」
「私は、彼等をそんな風には見てないわ。それだけは、嘘じゃないですよ。信也さん」
「くっ……」
この数日間に見せたネイアの笑顔に、俺は不覚にも安心してしまい、それ以上は言えなくなってしまった。
「それでも、昨晩マモンさんに演じさせた様な人達も居ます。ですから、私の伴侶は私と同じ考えの人が良かったの」
そう言いながら、ネイアは肩に乗っているドラドの顎を撫でる。すると、ドラドは嬉しそうにし始め目を細めている。ドラゴンって爬虫類だよな、喉を鳴らしたりはしないよな。でも、目を細めて嬉しそうなのは分かるな。
「そこで、一芝居打つことにしたんです。私と同じ考えを持つ信也さんが、私の伴侶に相応しいかどうか、テストさせて貰いました」
あ~なるほどな。それにも関わらず、俺はあんな事を……恥ずかしい、穴が合ったら入りたい。
「ふふ、ちゃんと数日間固定されていた事も再現する、この私の演技力の前には、誰もが騙されます」
「この悪女~」
「えぇ、魔王の娘ですから。悪女に決まってす」
開き直ってやがる。くそ! って、待て待て近付くな、再度胸を押しつけるな、止めろ!
「ですからぁ……私の伴侶として、これからも沢山可愛いくて強いモンスターを、作っていきましょうね~」
ネイアは、俺にくっつきながらそう言ってくるのだが、人差し指で胸をなぞる様にしてくる。やめろ、ゾクゾクする。そしてそこから横に動かすなよ、その先には男でもくすぐったくなるアレがあるんだ。
「くっ……お前、それが本当のお前か」
「そうですよ……あ・な・た」
「うぐ?!」
抵抗すりゃ良いんだろうが、正直言うとこんな俺に、絶世の美少女が言い寄ってると言うだけで、心が揺らいでしまうんだよ。
だが、ネイアはそれを見抜いているのか、不敵な笑みを浮かべ、話を続ける。
「それでぇ、是非ともあなたに一緒に来て欲しいのです」
「一緒に……? あっ、待て、まさか?! いや、行かんぞ俺は! 異世界になんか行ってたまるかぁ!」
「あら? ですがその力、こっちの世界の人間にバレたら大変なのでは?」
まさか、俺が得た特殊能力をネタに脅してくるか……だが、そんなもので俺は折れんぞ。
「ふん、そんなの使わ無ければ――」
「今朝のニュース、見てないんですか?」
そう言いながら、ネイアは俺のスマホを指差してくる。
何の事か分からず、俺は検索サイトのニュース欄を確認する。すると、そこには……。
『深夜のビルに竜人間現る! 風貌からして、近所のペットショップ店員か?!』
「……おい……」
「はい、写真付きでリークしました~」
「のぉぉぉお!! この悪魔~!!」
「はい、魔王の娘ですからぁ」
あぁぁ……この野郎! しっかりバッチリ映ってるぅ!! 何て事をぉ!
「もう、この世界では生活出来ませんよねぇ?」
「ま、待て……お前。だけど、転移能力を持ったやつ、復活してないだろ?」
「ご心配無く~ラーナ君~!!」
すると、店の屋根に巨大なあの魔法陣をお腹に刻んだ、転移能力を持ったカエルが3体現れ、その体が輝きだした。
「いつの間に増やしたぁ!!」
「信也さんが助けに来る数日の間に、色々と準備しました~小動物も、各5ペアずつ用意させて貰ったので。これで、向こうで同じ合成モンスターが作れますね」
いかん! このままじゃ、俺はこいつ等に! に、逃げねば!!
「アハァ、何処に行くんですかぁ? もう逃げられませんよ~」
ネイアがそうやって笑う中、俺は敷地内から出ようと走るが、途中見えない壁に激突してしまった。逃げられ無いってこう言う事か!!
「転移中は、魔法陣から出られませんから~」
ネイアにそう言われ、自分の足元を見ると、魔法陣が俺の店が立っている土地に張り巡らされていた。
そうか、その為に3体用意したのか……素材の片方は恐らくアフリカウシガエルの成体だろうな。あいつデカいし……とか冷静に判断している場合じゃない。
「た、頼む……ネイア。俺の店で好きな様にして良いから、異世界だけは!」
「ありがとうございまぁす。で・も、私の世界でね~」
「い~や~!!!!」
「アハァ、その顔そそりますぅ~」
俺はひたすら通行人に助けを求めるが、誰も気付かない。まさか、これも合成モンスターのせいか? 今、この辺り一帯は誰にも見えない様にしているとか?!
「さぁ、異世界へレッツゴー! 私のお父様に、将来の魔王にたっぷりと、その技術と能力を使って下さ~い。モンスター屋として!」
「あぁぁぁあ!!」
そして目の前は光の壁に包まれ、逃げられ無かった俺は、見事に自分の世界からその存在を消す事となった。
俺の戸籍、その他諸々、俺が存在していたという証拠は全て消して来たと、ネイアはそう言った。
これは俺が……いや、
そして、ここで俺が言いたい事はただ1つ――
異世界の人間には手を出すな。
それだけだ……。
ここはいつからモンスター屋になったんだ? yukke @yukke412
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