図々しい居候

 結局その日は俺がダウンしたので、早めに店を閉め、小汚いアパートに帰ってくる。


「お~汚いですね」


「うるせぇ」


 ネイアはそのアパートを見た瞬間そう言ってくる。

 俺が住むアパートは、1Kしか無いが、1人暮らしなら寧ろこれで十分だろ。だが、部屋に入ったネイアは再び失礼な事を言ってくる。


「狭いですね~これじゃあ、ハムドラちゃんを置く場所が無いですね」


 ネイアは、ハムスター等を運べる小さなキャリーケースを手に持ち、その中を覗いている。

 そしてその中には、先程合成したハムスターとドラゴンの合成体、『ハムドラ』が入っている。その前に、名前はそれで良いのか?


「てめぇ、文句を言うなら今日泊まらせないからな」


「あぁぁ、ごめんなさいごめんなさい!」


 ネイアはまた必死で謝ってくるが、あまり激しく頭を下げるな、胸が揺れてるぞ。


 それにしても、性格にはちょっと難があるが、容姿は悪くないどころかめちゃくちゃ美少女なんだよな。

 今まで女を泊めた事が無いもんだから、正直俺は緊張している。


「あっ、そうだ。お礼に晩御飯、私が作りましょうか?」


「なっ! あっ……待て、材料が無いんだわ、すまん」


 一瞬喜ぶ所だった……。


 残念だが俺は料理なんて出来ない。だからいつもコンビニ弁当なんだよ。男の1人暮らしなんてそんなもんさ。


「では、私が向こうから持って来た材料で作りますね」


「えっ? いや、待て、とんでもない物が出てきそうな気がするんだが」


 俺がたじろいでいると、ネイアは自分のリュックサックを降ろし、中を見せてくる。

 するとそこには、俺達の世界と何ら変わらない食材が入っている。


「言いましたよね? 私が来た世界とこっちの世界は似た世界だって。文明が違うのでお金は違いますが、食べ物、言語、科学技術等、同じ部分が沢山あります」


 なるほど……こいつはこれでもその辺りを考えている訳か。

 転移した先で食べ物に困ったり、言語が通じずに危険な目にあったりしていたら、逃げた意味が無いよな。


「では、居候させて貰う代わりに、ご飯を作りますね」


「んっ? ちょっと待て、今なんつった?」


 何だか、今不吉な事を言ったような……。


「はい? だから、居候させて貰う代わりにご飯を作りますって」


「居候だぁ?! っと、やっべ隣に聞こえる。1泊じゃないのか?」


 ついつい叫んでしまったが、その後は何とか声を押さえ小声でネイアに確認をする。


 と言うか、ここは単身用のアパートだから居候なんざ無理なんだよ。

 俺はネイアにそれを伝えると、ガッカリした後に何かを閃いた様な顔をする。そして、手にモンスターの入っているであろうカプセルを持って、どこかに行こうとする。


「待て待て、何処へ行く気だ」


「何処って、ここの管理をしている人の所に。あっ、その人の住所教えて下さい」


 襲撃する気だこいつ!!


 俺は、慌ててネイアの肩を掴み引き止めると、そのまま部屋へと引きずっていく。


「ちょっと、ここに居候するのに他の人の許可が居るなら、その人の所に言って説明しないと」


「アホか、どんな理由があっても契約でそう決まってんだよ」


 そう言うと、ネイアはショックを受けた顔をし、そして頭を下げて項垂れてしまう。

 全く、その辺りは向こうは違うのか? それとも、こいつもしかしてお嬢様とかじゃ無いだろうな?


「そう言えば、お手伝いさんも居ませんでしたね。そっか、そう言うところか~しょうが無いです。じゃあ、1泊だけで良いので、せめて晩御飯は用意しますね」


 確実にお嬢様だこいつ。

 

 冗談じゃない、そう言うキャラは確実に料理が下手と相場が決まっている!

 だからって、今更俺が作るわけにもいかないしな。どうせ1泊だけだ、ものは試しで食ってみよう。


      ―― ―― ――


 そしてしばらくすると、俺の前に置いてある小さなテーブルに、ハンバーグが置かれる。


 まじか……手作りハンバーグ何て、何十年ぶりだ。母親が、ハンバーグを作るのだけは苦手だっからな。形が変になったり、焼くと縮んでしまい、お弁当用のハンバーグの様になっていたからだ。


 しかし、俺の目の前には今、完璧なハンバーグが置いてある。問題は味か……どれ。

 俺は、覚悟を決めてハンバーグを口に運び、恐る恐る食べると……。


「うめぇ!!」


 火加減は抜群、肉汁も溢れ、溶けたチーズがソースと合い非常に旨い!


 何だこれ。こいつお嬢様かも知れないなのに、変な発明するのに、料理は普通に出来るなんて。何て奴だ……。


「お口に合いましたか?」


「あぁ、合うどころじゃ無い、めちゃくちゃ旨いよ」


 ちゃっかりエプロン姿になっているネイアが聞いてくる。ここは素直に、嘘偽り無く褒めておかないとな。


 すると、ネイアは少し頬を赤く染めはにかんでいる。

 何だ、その反応。おい、待て俺の心臓落ち着け。高鳴ってんじゃねぇ。


「美味しければ、良いんです。あっ、そうだハムドラちゃんにもご飯上げないと」


 ネイアも俺の視線に気付いたのか、慌てて顔を逸らすと、ハムドラの入ってるケージに目をやる。


 ご飯って、そう言えばハムドラは何を食うんだ? もう、そいつの種類名ハムドラになっちまってるな。

 それよりも、そいつが普通のハムスターと一緒なら、野菜の切り屑でも今日一日なら持つだろう。


「あ~歯が牙になってる。じゃあ、お肉で良いかな?」


「おい、待て。普通に野菜の切り屑で――あぢぃ!!」


 こいつ、普通に俺に向かって火を吐いてきやがった……。


「お肉じゃないと駄目みたいですね~」


 何ニコニコしているんだ。まぁ、ハムスターでも肉は食う。しかし、太りやすくなるし勿体ないからな、あまりお薦めは出来ん。

 だけど、こいつが普通のハムスターで無いのなら、問題ないかも知れないな。


「お~凄いがっついてます」


 ネイアが、そう言いながらそいつの様子を見ている。どうやらステーキ用の肉を、適当な大きさに切って上げている。

 贅沢な奴めと思って見ていると、彼女が続けてとんでもない事を言ってくる。


「やっぱり、最高級のお肉だと食いが違いますね。美味しいですか~?」


「ん? おい、待て。最高級だと? いくらのだ?」


「値段ですか? こっちの世界の値段でしたら……えっと……グラム500円位、ですかね」


「んなっ?!」


 ハムスター如きに、グラム500円の肉だと! いや、モンスターが混じっているから、主食が肉になってるんだろうが、それでもその値段の肉はやり過ぎだ。


「あっ、因みにそのハンバーグに使ってるのは、グラム120円くらいですかね?」


「んがっ!」


 要らん情報でトドメをさすな。ち、ちくしょう……こいつが最高級の肉で、お、俺は……。


 いや、旨いから完食しますよ。ありがたいですよ。でも何なんだ、この納得いかない気持ちは。


「ふふ、旨そうに食いやがって……」


「ですよね~ちっちゃなお手で持って食べてます。あ、頬袋もちゃんとありますね。パンパンになっちゃって可愛い~」


「やり過ぎんなよ。ハムスターがメイン何だろ? だったら、やり過ぎたらあっという間に太る。肉も一切れ――」


「チキィィイ!」


 何か、不満でもあるのか? 火を吐きやがって。と言うか、人の言葉理解してんのか?! 何気に知識まで付いてやがる!


「ほら~ハムドラちゃんも、文句言ってますよ~上げられるだけ上げた方が良いですってば」


「あのな、これだけは言わせて貰うがな。そいつの寿命を縮めたくいなら、飯の量は考えろ。人間とは違うんだろう」


「うっ……」


 流石に、モンスターを扱ってた事があるのか、この言葉は効いた様だな。ネイアは俯いて無言になっている。


 全く、近頃の奴等はそれが好きだからって、人間の食べ物ばかり上げるからな。

 まぁ、寿命を縮めたければ好きにしろ。ただし、体調が悪くなって泣きついても、「飼い方が悪い」と一刀両断されるだけだ。


 そして、それはモンスターだろうと何だろうと当てはまるだろ? 人間とは違う生き物を、人間と同等で捉えるな。気持ちは分かるが、気持ちだけにしておく事をお薦めする。


「チキィィイ!」


「あっつ!! この野郎。文句でもあるのか?」


 やはり不満か? ドラゴンの性質が入ってるから、それだけじゃ足りないのか? まぁ、確かに普通のハムスターと同じ様に捉えても、駄目かも知れんが……くそ。


「ネイア、5切れまでだ。今日はそれで様子見ろ。お前も俺も、こいつの生態は分からんからな」


「あっ、は、はい!」


 俺の言葉にネイアは、さっきまでの暗い表現が消え、嬉しそうにしながらハムドラに切った肉を上げ始める。


 さて、明日からどうしよう……まてよ、こいつをこのまま放って置いたら、色んな生き物を合成しだすんじゃ……や、やべぇ。

 と言うことは、しばらく俺が面倒見なきゃならないのか? 幸い店に色んな小動物が居るから、こいつの研究ははかどるだろう。


 やはり、世界中をパニックにさせない為には、俺が注意をしなきゃいけないか……あぁ、面倒な事になってしまった。

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