夜空の星になれ

 俺は、ゆっくりと近付くネイアを攫った男と相対する。


 スーツだから体格は分からんが、そこそこ強いだろう言うのは雰囲気で分かる。だが、こちらも怯える訳にはいかない。

 女性にこんな扱いをする異世界の奴等をこのまま放っておけば、こっちの世界で何をするか分かったもんじゃ無いからな。


「いやぁ、中々の作戦です。これは、完全に油断していました。そうだ、あなたお名前は?」


 何故か敵は冷静になっている。さっきまで怒りで顔が真っ赤になっていたのに、何があった?


「瓦木信也だ」


「そうですか、瓦木さん。私は、マモン・ディレル。レーベ国の王をさせて貰っています。そちらの方が王女を務めるバハート国とは、敵対関係にあります」


 そう言って、そういつは頭を下げて一礼してくる。


 よし、色々と突っ込むか……先ず何だ、王様が自ら異世界に来てるんじゃね~よ! それと何だって、ネイアがバハート国の王女?! おいおい、こんなお転婆な奴が王女?! 国が潰れてないか?


「まぁ、あなたが何も聞かされていなければ、混乱するでしょうね。今みたいに、ハトが豆鉄砲くらったような顔をしますね」


 まさしくその通りだ。しかし、それは後で良い。今は、こいつがいきなり俺に攻撃してこない理由を知りたい訳だ。


「あなたは何も聞かされていない。それならば、大人しく私の言う事を聞いてほしい。アンダースタン?」


「おいおい、いきなり人に銃を突き付ける奴の言う事なんか、聞きたくね~な」


 俺はそう言うと、そいつから一歩下がり、ネイアを連れてここから脱出する術を模索していく。

 窓から飛び降りても、銃の餌食になるだけかもな。だったら、せめてこいつの足止めをしなきゃな……。


 ネイアを縛り付けていたロープは、既にハムドラ達が噛み切っている。後はタイミングか……。


「オゥ、シット! ベリーシット! そこは申し訳ない。あなたは全てを知っている者かと思いまして。しかし、あなたの頭を覗いた所、何も知らないこの世界の人間だと分かり、怒りを収めた次第なのです」


「なっ! お前、何で俺の頭の中を?」


 普通にサラッと気持ち悪い事を言いやがって。だとしたら、俺が考えている事は全て筒抜けかよ!


「おっと、分かるのは今日より前の事、当日の事は分かりません。その辺りはまだまだ調整が必要ですね。この悪魔は……」


 そう言うと、そいつはネクタイを外し上着を脱ぎ、シャツまで脱ぎ始める。悪いが素晴らしい肉体を見せつけ様としているなら、勘弁して欲しいな。

 しかし助かった……今日の事が分からないとなると、戦闘向きでは無いな。だが、そいつが上着を全て脱ぐと、その体には何か紋様の様なものが、所狭しと刻まれていて、そして見る見るうちに体が筋肉が盛り上がり徐々に姿を変えていく。


「さぁ……これが、最後の通告です。一般人のユーは、これから合成機をここに持って来て、そして明日からはいつも通りの生活を送りなさい」


「その合成機で、どうしようって言うんだ?」


 正直、一般人なら腰が抜ける状況だ。目の前の奴は、正しく悪魔の様な姿に変貌していたからな。悪魔の角に、悪魔の羽、胸には目玉も出て来て、もうラスボス感満載だ。


 だけど聞かなきゃならない、こいつの目的を。そうしないと、こっちの世界に害を加える気でいるなら、何とかしなくちゃいけない。


「私達の開発した合成機は、モンスターを合成するのみ。別の生き物、ましてやここ別世界の生き物とモンスターを合成するなど出来ません! 数日様子を見ていましたが、改めて彼女の合成技術が素晴らしい事に気付きましたよ!」


 そいつは、そう言いながら天を仰ぐ様にして手を広げる。


「バッド! しか~し! ネイア、あなたの合成機は人間と合成させる事は出来ない。だが、私のは出来る。それでも、あなたの合成技術があれば、この世界の生き物達と合成し、より強いキメラに、私はなる事が出来る!」


「馬鹿馬鹿しいです! 私の合成技術は、そんな事の為に使うものじゃありません!」


 ここで、ネイアが我慢出来なくなったのか、声を荒げてそいつに反論する。

 確かに聞く限り、このままじゃあこっちの世界の生き物達が、変な人物に使われる事になる。


「あなたの考えはどうでも良い、戦闘力の無いあなた達は、私には敵わないのですよ」


 そう言うと、そいつは手を俺達に向けてかざす。すると、急に体中に激痛が走り立って居られなくなった。

 どうやら、奴は悪魔と合成しているようだな。しかも、能力を見る限り1体では無い。キメラだと? 悪魔を使ってたらキメラと言えるのか? いや、どうでも良いな。今は、この状況を何とかしないと。


「……げて……さい」


「ん?」


「逃げて……下さい。この子達を連れて……って言うか、何で来たんですか?!」


 良く見ると、一緒に連れて来たハムドラ達小動物も苦しがっている。人間以外にも通用するとは、相当な力だな。

 しかも、ネイアの方は涙目になっていて、強がっているのが分かる。こいつは、この数日間ここに捕らえられていた。その間、まともな飯も食わせて貰えてない。それなのに……。


「おい、お前! ハモンだか、マモンだか言ったか? お前は、人間以外の生き物達をどう思っているんだ?」


「何を……そ、そんな事より、逃げて……!」


 ネイアは俺の行動に驚き、とにかく必死に俺に逃げろと言ってくる。だけどな、そうはいかないんだよ。に頼まれたからな。


「ふっ、変な事を聞きますね。アンサー。私以外の生き物等、私を強くしてくれる道具みたいな物。いえ、食べ物? いえいえ……肉体の一部、そんな物です。どう扱おうと私の勝手です」


 そいつは、まるで俺の考えを馬鹿らしいと、そうあざ笑うかの様にして言ってくる。


 その瞬間、俺はもう逃げる事を止めた。こいつをぶっ倒す。その思いが俺の中に湧いてきた。


「タイムアウト。私は結構短気でしてね~もう結構です。あなた達を殺し、この世界の警察とやらが動けば、あなたの住所を簡単に発表しちゃいますからね。その後、ゆっくりと探せば良いだけですよ。ベリーイージー」


 そう言った次の瞬間、目の前から奴が消え、そして俺の後ろに現れたかと思うと、思い切り殴られ、俺は前方に吹き飛び壁に激突、更にその衝撃で建物が壊れ、瓦礫が俺にのしかかって来る。


「グッドバイ フォーエバー」


「あ~そうかい。その言葉、そっくりそのままお前に返すよ」


「ホワッ?!」


 全くダメージになってないな。今の俺は普通じゃないからな。

 そして、俺は瓦礫を退かして立ち上がると、ゆっくりと奴の元へと歩いて行く。


「ウェイウェイウェイ!! 待て待て! 何故だ、何故生きてる! 即死のはず!」


「そうだな、確かにそうだったろうよ、だけど……っ?!」


 俺が話している途中に、また攻撃してくるな。まぁ、今度は真っ正面から殴ってきたから、片手で受け止めたけどな。


「ホワッ?! だから何故、何故だ!」


「……ったく、こっちの話を聞けっての。ネイアが持ってた、この杖だ」


 俺はそう言うと、折りたたみが出来るようになっていたその杖を取り出し、そいつに見せる。

 勿論、ネイアもその杖を見て驚いている。そりゃそうだろうな、自分じゃ使えなかったのに、俺が使ってたら驚くよな。


「こいつのおかげで、俺はある特殊能力を開花したのさ」


「な……それは、いったい?」


 返事をしたのはネイアだったが、まぁいいや。目の前の敵は口をパクパクさせて呆然としているしな。


「モンスターフュージョンだ。俺は、モンスターと融合する事が出来る様になった。そして、俺は今ある奴と融合している」


 そう言って、俺は徐々に力を込めていく。敵の拳を握りつぶすようにしながら。

 そうすると、徐々に俺の手から腕にかけて龍の鱗が生え、更には爪も龍の様に鋭く伸びていく。


 俺はゆっくりと体が熱くなる中、自分と融合した奴と気持ちを1つにしていく。「こいつを許さない!」


「あ、あぁ……あなたまさか……ド、ドラド君と?」


「こいつの意志だ、言っとくが俺は止めたからな。開花したての能力だ、もしかしたら戻せないかも知れないんだぞってな。それなのに、こいつの意志は固かったよ」


 そんな中、敵が必死で俺から抜け出そうと藻掻いている。だが、俺の方が力が強いのかビクともしていない。


「クソ! クソ! たった、ドラゴン1匹と融合した所で、悪魔10体と融合した私に敵うはずが!」


「10体? 馬鹿じゃね~かお前? そんなに大量に融合してしまえば、意識統一が出来ず、力がぶれるだろうが」


 実際に俺は、融合しているドラドの気持ちが分かる。力の使い方も、頭に流れ込んでくる。

 だが、10体近くの奴らの考えが頭に流れ込んでいたら、それを纏める事が出来ず、力をどう使えば良いか分からなくなる。聖徳太子でもない限り、不可能だ。


「そんなお前に、良い事を教えてやろう。シンプル イズ ベスト。力は単純な方が強いんだよ」


 そして、俺はお返しと言わんばかりに、右手にドラドの力を惜しみに無く込める。そして、左手で掴んで捕らえているそいつ目がけて、殴りにかかる。


「ちょ! ストップストップ!! 分かった、私はこの件から身を退く、だから……」


「シャラップってか、もうお前は黙れ。そして、夜空の星にでもなっとけ!!」


 そう叫びながら、俺は更に自分の渾身の力も込め、そいつを殴り付け、そしてその先の窓まで吹き飛ばし、更に外にまで飛ばすと、そのまま遥か遠くへと吹き飛ばす。


「ノオォォォォ……!!」


 まるで漫画の様に、夜空の向こうへと奴は悲鳴と共に消えていった。


「ふぅ……意外と何とかなったな。おい、ネイア大丈夫か? って、おい?」


 奴を吹き飛ばした後、ネイアの様子を見ようとすると、彼女はこちらに駆け寄り、そして俺の龍の様になった手を掴み涙を流してくる。


「くっ……うぅ、ぐす。ドラド君のバカァ! 私を助ける為だからって、何で、何でこんな事を……」


 そう言いながら、ネイアはその場にへたり込んでしまう。俺は、正直どうしたら良いか分からず無言になってしまう……が、ちょっと待て、何故か体がムズムズする。


「ドラド君~」


「ギィィ!!」


 なんか俺の体がムズムズするなと思った瞬間、こいつと合成した時の様に俺の体が光輝き、そしてドラドが俺の体から飛び出して来やがった~!


「そっちからも融合解けるのかよ!」


「ド、ドラド君!! よ、良かったよ~! わぁ~ん!」


「ギィィ!!」


 あ~あ、抱きしめ合って全く。種が違っても、お前等は強い絆で結ばれてるんだな。だけど何だか拍子抜けだ、くそ。


 しかし……今思い返すと、俺凄い事言ってたし、やってしまっていたな。今更恥ずかしいと言うか、この場を即刻去りたい。


「あ~なんだ。ネイア、向こうの世界に帰るなら、忘れ物なんかするな。ほら、杖とそいつらちゃんと連れ帰れ。じゃあな!」


「えっ? あっ、ちょっと。信也さん?!」


 ネイアには悪いが、これでお別れだ。

 何せ、少年漫画よろしくすっごい格好つけてしまったし、それに帰れと言っておきながら、俺の店の従業員とか言ってしまったんだよ。だから、早くお別れしないとこいつが着いてきそうで、怖い。


 そんな訳で、俺はその場から逃げる様にして、夜の街の中を自分のアパートに向かい走って行く。ついでに夜風にあたり、火照った体を冷やしながら。

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