異世界から来た少女

「ご、ごめんなさい」


 俺の顔面に降って来た少女は、ひたすら謝っている。

 とにかく周囲の目が気になったので、一旦俺の店に入って貰い、不可抗力である事を説明、そしたらずっとこんな状態だ。


「まぁ、命に別状は無かったし、君みたいな少女にずっと謝れても、何か悪い事した気分になる。だからもう良いよ」


 レジカウンター内で、俺の対面に椅子を置きそこに座らせているが……正直、良く見ると美少女何だよな。


 シルバーブロンズでウェーブのかかったロングヘアーに、二重まぶたのパッチリした目でかなり整った顔付き。更には、右目が赤で左目が緑のオッドアイでかなり綺麗な瞳をしていて、女性と付き合った事が無い俺は、内心ドキドキしている。


 だけど、服装と言うか身に付けている物が問題だ。

 裾にレースの付いた膝丈のフレアスカートに、靴はロングブーツか? そんな感じの、革製で何かの模様の入った物を履いている。


 そこは良い、問題は上だ。胸元が開けていて、若干大きめの胸が強調されていて目のやり場に困る。上は革のジャケットの様な物を着ているが、中はコルセットか? そんな感じの服を来ている。


 そして極めつけが、そのジャケットにベルトで色んな物をぶら下げているんだよ。

 杖みたいな物が3本と、良く分からん小さなカプセルの様な物が沢山あって、腰にはムチかそれ? 後は大きめのナイフか? 銃刀法違反だな……。


 そして、肩にはさっきの羽根付きのトカゲが乗っている。


「あの? 何でしょうか?」


「それ、本物か?」


 俺はそれをじっくりと見ながら、彼女に質問をする。


「当たり前です! ハイドラゴンのドラド君ですよ!」


「ギャァァア!」


 そのトカゲが凄い雄叫びを上げるもんだから、俺のペットショップのペット達が大暴れ。


「あぁ……ご、ごめんなさい。驚かせるつもりは無かったんです!」


 迷惑千万だな、それ……。

 それよりも、いったいどこの国の極秘研究か知らんが、そんなの連れて日本に来て欲しくは無かったな。


「はぁ……とにかく、警察に連絡して保護して貰うか、いや下手すりゃ逮捕か? ん~しょうがねぇか……」


 俺はそう呟くと、ポケットからスマホを取り出し、レジカウンターから出て外で連絡をする事にした。抵抗されると面倒だしな。


 しかし、少女は首を傾げながら俺に向かって言ってくる。


「ケイサツ?」


 ちっ、聞こえてたか。逃げられて後で報復……なんて面倒な事になりそうだなぁ……どうしたものか。


「いや、まぁ……日本は武器の所持は違法だしな。保護と言うか、捕まえて貰うというか」


 俺は、少女がどう言う手段を取るか見る為に、敢えてそう言って見る。いつでも、警察に連絡出来るように110の数字を押しておいてな。


「捕まえる……? それ、どうなるんですか?」


 何だこいつ? 日本の事が分からんのか? いや、見る限り本気で分かってない……。


「いや、どうなるかは知らない。でも、拘束されて色々事情を聞かれるだろうな」


「事情、事情を……そんなのどうやって……でも、そうこうしている内に、あいつらも……」


 ん? 何か真っ青になってるな?


「こ、ここは、別の世界ですよね? バハートなんて国は無いですよね?」


「何だそりゃ? 大丈夫かお前、ゲームのやり過ぎか?」


 だけど、少女は俺の言葉なんて聞こえていないのか、ほっと胸を撫で下ろしていたが、また真剣な顔でブツブツと呟き出す。


「良かった……とりあえず転移はうまくいった。だけど、あいつらもその内に追ってくる。それまでに……となると、捕まって身動き取れなくなるのだけは」


 とりあえず、俺は外に出て警察に連絡しに行くか。


 少女が、ブツブツ呟いている間に連絡してやろうと思い、出入り口に向かい歩いて行くが、途中でカチリと何かのスイッチを押す様な音がする。


「待って下さい、私の話を聞いて下さい」


 少女がそう言った瞬間、俺の首元に大きな鎌の刃が当てられる。


「OK、分かった。話を聞こう」


 情け無い事に、冷たい刃が首元に当たった瞬間、これが現実だって悟らされたよ。


「イ、イカしてる奴連れてるな。誰だそれ?」


 この鎌を少女が持っているのかどうか見る為にと、後ろを振り向いたのがいけなかったな……。


 少女の隣から半歩前に、トカゲ人間が立っているのが見える。正確には、二足歩行してるトカゲの様な化け物だな。いや、進化した恐竜に見えなくも無いぞ。重厚な鎧まで着て、何なんだこいつは。


「お目が高いですね。この子は、レプティリアのラケルターナ。その中でも戦士のスキルを持ってるの」


「レプ……なんだって?」


「さっ、私の話を聞いて下さい」


「無視かい!!」


 良く分からん事を言われて半ばパニックだわ。だけど、言葉はこっちと一緒だし、日本語話してんだよな。どうなってる?!


      ―― ―― ――


「では、改めまして。ネイア・マレットと言います。歳は17です。私は、あなた達で言う所の異世界で、モンスター屋を営んでいました」


「異世界? モンスター屋?」


 いかんな、最近そう言う小説ばかりが目立つからか、遂には現実世界でなりきる奴が――と思った瞬間、またトカゲみたいな奴に鎌を当てられて硬直してしまった。


「何か、今失礼な事を考えていませんでした?」


「考えて無い、考えて無い。だからそいつどっかやって、さっきから睨んでて怖ーよ」


 再びレジカウンター内で、椅子に座って話を聞いてるが、狭いからそいつと近いのが恐ろしいと言うか、マジで襲われそう。


「大丈夫ですよ、この子温厚ですから」


 見た目温厚そうじゃ無いんだっての。


 俺がそれでも不安そうな顔でいたからか、ようやく少女が納得したようで、ベルトに付けてあるカプセルを取る。


「しょうが無いですね」


 そして少女はそう言うと、そのカプセルの上部に付いてるスイッチを押す。すると、そのカプセルに向かって隣にいた、レプ……何とかって奴が吸い込まれて行く。


「な、ななな……」


「これは、見て分かる通りに『モンスターカプセル』と言って、捕獲したモンスターを手懐け、そして戦闘で使える様にする為の物です。私は、世界中のモンスターをこうやって捕まえて、冒険者に販売するのを生業としていました」


 少女は、呆然とする俺を他所に説明を続ける。


「そんな中で、私ちょっと失敗しちゃいまして。新事業をやろうとしたのですが、それを即刻国中が危険だとして禁止にしたのです。だけど、私は諦めきれずにその研究を続けていたのですが、遂には世界中で指名手配されてしまいまして……命からがらこっちの世界に逃げて来たのです」


 ほぉ……最早何言ってるかわっかんねぇ! でも、1つだけ言える事はある。


「良く異世界であるこっちの世界に来られたな」


「ふっふ。それこそ私の考えた新事業、そして研究の成果なのです」


 いったいどう言う事だ? 研究の成果って事は、異世界に転移する事だよな? じゃあ、新事業って異世界に行く事? 異世界旅行ってか?


「ふっふっふ、分からないですよね。そう! モンスター合成です!」


「……」


「あれ?! 驚かない?!」


 いや、期待ハズレというか。異世界に転移できる技術を作ったのならば、ちょっとは凄いと思ったのだがな。


「むむ、馬鹿にしてますね! ならば見て下さい、合成で生み出したこの転移能力を持った究極のモンスターを!」


 そう言うと、少女はまた新たなカプセルを取り出し、上のスイッチを押すと、隣に何か見た事ある物が現れた。いや、それよりも――


「何かグッタリしてるぞ?」


「ぬぁ?! ラーナ君! 大丈夫ですか?! 能力を使い切っちゃった?! やっぱり、異世界転移は無茶があったのでしょうか……」


 少女の隣に、弱って死にそうになっている、青くて半透明の蛙の様な生き物、と言うか化け物が現れたんだよな。


 大きさは人の腰の辺りまであって、口元の髭がメチャクチャ長いし、腹に見た事ある模様も刻まれている。あぁ、この少女が現れた時、空中に現れたあの魔方陣だな。


 あ~あ、必死になって今にも泣きそう。


「あぁぁ……ラーナ君、死なないでぇ、私帰れなくなっちゃうよぉ」


 何かこっちの蛙とは違うし、モンスター何だよな? だけど見た目蛙なら……。


「……ったく、見てられないな。貸せ」


「えっ、あっ、ちょっと!」


 とにかく、俺はその蛙を担ぎ上げる様にして持ち上げ、奥の洗い場に連れて行く。

 暴れないし大人しいから良いが、別に痩せてそうでも無いし、死にそうでは無いな。ただちょっと乾いている様な……。


 普通の蛙じゃ無いし良く分からんが、生態系は蛙で合ってるはず。


「よっと……この大きさならいけるか?」


 そして、予備として用意しておいた、大きめの底の深い水槽の横に一旦そいつを置くと、水槽の底に湿らした脱脂綿を大量に置き、その上に再度そいつを担ぎ上げて置いてやる。


「ふぅ……こいつ重てぇな。後は……霧吹きで体をっと。で、こいつ餌何食うの?」


「えっ、あの。ミミズのモンスターとか」


 そんなもんこの世界には無いな。


 しょうが無い、爬虫類用に大きめのミミズみたいな餌がある。足りないだろうが、それで我慢して貰うか……と思ったら、少女がカプセルからさっき言っていた、蛙よりも少し小さいミミズのモンスターを出して、その水槽の中に入れやがった。


「持ってんのかい」


「あっ、はい。しばらくは大丈夫な様に用意をしてました。ラーナ君の顔色が良くなって来たので、上げようと思って」


 すると、その蛙のモンスターの目が見開き、巨大なミミズを舌で捕らえて食った。そう、迫力満点のグロテスクな映像で……。


「良かった~元気になった! ありがとうございます! そっか~体の水分が無くなってただけなんだね。転移能力を使う時に、大量の水分を使うんだね。要改善か……って、どうしました?」


「いや、ちょっと……」


 同じ小動物のペットショップでバイトしてた時、その店には爬虫類もあったし色々見てきたよ。でも、流石にこんな巨大なのは……。


 とりあえず、早めに元の世界に帰って貰おう。

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