こっちの世界に来た理由

 とにかく、蛙の化け物の様な奴は元気を取り戻し、ネイアと名乗った少女も落ち着きを取り戻している。


「申し訳ありません……動揺してしまい、話が途中になってしまいました」


「いや、仕方ない事だったから良いよ」


 また謝られても困るからな、永遠にループしてしまいそうで恐いわ。


「とにかく、その前によ。何でこっちの言葉が分かるんだよ?」


 俺は再びレジカウンター内に行くと、椅子に座り直す。

 ネイアも俺に続いて座り、辺りをキョロキョロと見渡している。そんなにジロジロ見ても、面白いのは無いと思うぞ。


「言葉……ですか? それは私達の世界に、こちらの世界と同じ言語があるからなんです。私は転移する時に、『言葉が通じる世界』と付け加えて転移をしたので、言葉のコミュニケーションが取れるのは当然です!」


「と言う事は俺達の世界、この地球と全く同じと言う事なのか?」


 言語が通じると言う事は、そう言う事だってあるかも知れんからな。つまり、平行世界と言う概念だ。


「全く同じでは無いと思いますが、住んでる惑星の名前は同じですね」


 なるほどな、今の答えを聞く限りそれなりの文化水準だな。


 自分達の住んでいる惑星の事を知っていると言う事は、宇宙を調べる事が出来ると言う事。つまり、それほどの技術があるわけだ。


 その技術は魔法とかそう言った物だろうが、今はそんな事よりも、もっと重要な事を聞かないとな。


「まぁ、信じる信じないは後にして、だ。ネイアは何故ここに来たんだ?」


 やはりこれが1番重要だろうな。何故こちらに来たのか、その答えが曖昧なら、異世界から来たなんて信じ難いな。


 すると、ネイアは神妙な顔付きで、ポツリポツリと今までの事を話してくる。


「はい、私は父のお陰で、モンスター屋を作る事が出来たのですが……私の世界は平和でして、魔王の魔の字すら無いのです! 100年も前に倒されてるんです!」


 出た魔王。と言う事は、俺達と同じ地球と言う星の名前だが、大陸の形や歴史、その他諸々は全て違うと思った方が良いのか?


「モンスター何てね、それこそ挑んでくれる人が居なければ、存在価値が無いんですよ!」


「お前、今モンスター達に失礼な事言ってないか?」


 実際こんな話信じろと言う方が難しい。だけどな……見ちゃってるからなぁ。


「そこで、私は考えたのです! モンスターにも、新たな価値を付けないといけないと!」


 ネイアは立ち上がり、そして熱演してくる。いや、もう政治家の演説と遜色ないなその話し方。


「モンスターに付加価値を! 愛でるモンスター! 可愛いモンスターの時代です! そこで私が考えたのが、モンスターとモンスターを合成させ、可愛いくて強いモンスターを作る事なのです! その理屈は――」


 ネイアは息を荒くし、むちゃくちゃ力説している。そのモンスターを合成させる方法を。

 何言ってるかサッパリ分からないが、モンスターを合成させる技術が、1人のエゴによって生まれたのは分かった。


「あのさ、力説は結構だから、何でこっちに来たの?」


 すると、ネイアは顔を真っ赤にして焦った様子で椅子に座り直す。


「す、すいません。脱線してしまいました……」


 そうやって、真っ赤な顔をして俯く姿はかなり美少女で、正直目を合わせるだけで緊張してしまう。だがな……中身がどうも、危なそう。


「とにかく、私がこっちに来たのは、色んな人達から逃げて来たからなんです」


「ほぉ……誰から?」


 また胡散臭さそうな理由だな……確か、指名手配もされてるんだって? 危険思想の持ち主かと知れないから、用心しないとな。


 そう思った俺は、目を細め怪しみながら彼女の話に耳を傾ける。


「う、疑ってるんですか? 手配されてるからもありますが、私が狙われている1番の原因は、多分このモンスター合成の機械を奪う為なんです!」


 そう言うと、ネイアはレジの台に少し大きめのカプセルケースを取り出し、頭のスイッチを押すと、中央に穴が空きそこから天秤の形をした変な物が出現する。


「うぉう! こ、これが?」


「はい! モンスターを、正確には生物を合成させる機械です! 私が発明したんですよ!」


 そうやってふんぞり返っていると、胸が強調されて目のやり場に困る。

 しかし、何だコレは? 天秤の形をしているが、実際使い方は重さを量る為じゃないよな。


 中央には、お子著(こちょ)の様な形をした受け皿みたいな物があり、左右には何か卵の様な物をはめ込めるようになっている。


「あ~まだ信じてない~」


 俺は、目の前のガラクタを凝視し疑いの目を向ける。だってな、こんなので合成とか……。


「じゃあ、その証拠に今ここで合成させて見せます!」


 ネイアは自信満々にそう言ってくるが、失敗しそうだな。と言うか、動かなくて泣き喚く姿が目に浮かぶな。


「そうですね~私の世界のモンスターを使っても、やらせだって言われたらそこまでですし……」


 そう言いながら、ネイアは再度辺りを見渡す。おい、何を見ている? 嫌な予感がするんだが。


 おい、ウサギに近付いていくな。そして、今度は階段上に二段になっている、台の上に目をやっている。

 そこに居るのはフクロモモンガだ、夜行性だから寝てる。起こそうとするな。


「可愛いのがいっぱい……こんなに可愛いモンスターが居るなんて、凄い世界ですね」


「モンスターじゃねぇ、愛玩動物だ!」


 すると、ネイアは首を傾げて俺の言った言葉の意味を聞き返してくる。


「アイガンドウブツ?」


「あ~、そっちの世界にはこの言葉が無いのか? 文化が違うと、単語も変わってくるのか?」


 俺は頭を掻きながら、ネイアに愛玩動物の事を教える。


「良いか愛玩動物ってのは、お世話をして愛でる為の動物だ。中には慣れてくれたり、懐いてくれたりするペットもいる」


「ペット……ほうほう。愛でると言う事は、戦闘はしないのですか?」


 物騒な事を言うな……そりゃ、モンスターじゃないからそんな事はしないさ。まぁ、噛みついたりはあるけれどな。


「その通り……だぁ?!」


 おい、待て! ハムスターの所に駆け寄っていくな!


「か~わいい~! わ、私が求めていたのは、正にこんな感じのモンスター何ですよ!」


 ネイアはそう言うと、キラキラと目を輝かせて見ている。こうして見ると普通の少女だよな……。


「ちょっと、この1匹を使わせて貰って良いですか?」


「そいつは商品だ。金は……ねぇよな。しょうがねぇ」


 ポーチから、良く分からんお札を出されたな。なんか巨大樹が描かれていた。

 う~ん、徐々に現実味が……いやいやいや、あり得んあり得ん。異世界は存在しない、存在しない!


 とりあえず、この目で奴の醜態を拝み、とっとと追い出すとしよう。

 確か奥の商品置き場の所に、体調が悪かったり、怪我をしたジャンガリアンハムスターを置いてある。どうせ売ろうにも売れないので、こいつを使って貰うとするか。


「ほれ、こいつなんかどうだ」


 そして、俺は奥からまだ比較的痩せてもいない、ノーマルの色の子を連れて来る。と言っても、こいつは他の子と喧嘩をして腹を怪我したんだよね。


「お~この子も可愛い~お腹の傷が戦士の証みたいです!」


「そ、そうか……?」


 どうもこいつとは価値観が合いそうに無いな……。


 すると、ネイアはそのハムスターをヒョイと手に乗せ、反対側の手に持っていたカプセルを、ハムスターに向ける。

 そして、カプセルの頭にあるスイッチを押すと、何とハムスターがカプセルの真ん中に出来た穴に吸い込まれていく。つまり、そのカプセルの中に入れたと言う事か?


「そして、こっちには~一般的なドラゴン君が入ってま~す」


 カプセルから出さなくて良い!! デカいだろうが、店が壊れる!!

 

 そして、俺は慌ててネイアの行動を止める。


「ごめんなさい、証拠を見せないとと思って……」


「外に一般人や客が居なかったから良かったものの、もうちょっと考えて行動してくれ」


 ドラゴンをカプセルに戻したネイアは、俯いて申し訳なさそうにしている。そんなに落ち込まれると、何だか怒りづらいんだが……。


 それよりも、証拠に合成を見せるって、まさかハムスターとそのドラゴンを?


「まぁ、お前がやりたい事は分かった。やってみろよ、出来るならよ」


「むっ? 分かりました! では、いきますよ~先ず、正面から見て左側に、ベースとなる生き物をセット! そして、反対側に付与する生き物をセット!」


 ネイアは、ノリノリで天秤型のその合成装置に、カプセルをセットしていく。


 なるほど、可愛いハムスターをメインにして、ドラゴンの能力を付与しようと言う訳か。

 まぁ、上手くいけばだがな……しかし待てよ。上手くいかなかったら、どうなるんだ? あのハムスター死ぬ? 


「あっ、ちょっと待て、その場のノリで……流石に、小動物を殺すのは――」


「スイッチオン!!」


 遅かった~!! ご、ごめんよぉ!! 尊い命を犠牲にしてしまった~!


 俺が止めようとした直後に、ネイアは中央の受け皿の下にあるスイッチを、いとも簡単に押してしまう。


 俺が後悔に打ちひしがれているにも関わらず、ネイアは絶対に成功すると、信じて疑わない顔をしている。

 これで成功しなかったら、マジで追い出すと言うか、警察に突き出してやる!


 すると、装置がモーター音の様なそんな音を響かせて動き出すと、セットされたカプセルが光り出す。


 そして、そのカプセルから光の粒子の様な物が出て来て、中央のくぼんだ受け皿の上に集まり出す。その後、しばらく粒子が漂っていたと思うと、徐々にハムスターの形を成していっている。


 お~良かった、この調子でしっかりとハムスターに戻ってく……れ? な、何じゃこれ?


「よし、成功です! どうですか!!」


 1つに集まった光の粒子が、一際輝いたと思ったら、受け皿の上に変わったハムスターが現れた。


 形はハムスターだ、毛もあるし、色もノーマルのジャンガリアンハムスターだ。

 でもな、耳が龍の形をしているんだよ。そして、目もつり上がっていて恐いし、腹の傷もバツ印になっていて格好良いし!


「うわぁ、思った以上に上手く出来ました~! 可愛いくて、そして強いモンスター! 名付けてハムスタードラゴン! 略してハムドラ!」


「略すな、生ハムで出来たドラゴンみたいだぞ」


 しっかし、マジか……マジなのか、これ? 生きてるの? えっ、合体したの? えっ? えっ?


 俺は近くに寄っていき、それをじっくりと観察しようとする……が!


「チキィィィイ!!」


「がっ?!」


 今、炎吐きませんでした? 俺、真っ黒焦げになってませんか?


「お~ドラゴンさんの炎袋をちゃんと持ってるなんて、凄いです!」


「あのな……少しは、人の心配をしろ……」


 俺はそのまま地面に倒れてしまう。


 もう何が起こっていて、どうなっているんだ? こいつは言った事をやってしまっている。つまり、本当に異世界から来たって言うのか?!


 俺は、ここでようやくその事実を受け入れた。受け入れざるを得なかったと言うが、とにかくネイアの言った事を、俺は信じるしかなかった。

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