捕らわれたネイア

 それから更に数日。奴が戻ってくる気配が無い。

 大事な物じゃないのか? この合成器とやらは……。


「しかし参った……この合成された奴等の世話、思った以上に大変だ……」


 だが、それ以上に苦戦しているのが、合成された子達の世話だ。


 ハムドラなんて肉を食うし、他の子達も餌が若干変わってやがる。

 1番ビックリしたのは、ボルトドラゴンとか言うモンスターと合成されたデグーだ。まさかの電気を食うと言う性質に、心底驚いたよ。


「あの野郎、こいつらほったらかして帰りやがって……」


 俺は文句を言いながらも、ネイアの置いていったこいつらを世話している。

 一応、生き物だからな。ほっとくわけにもいかないだろう。これで死なれでもしたら気分が悪い。


「はぁ……ったく、無責任な。っと、いらっしゃいませ~!」


 勿論、店を閉めとく訳にもいかない。こっちだって生活がかかっているんだ。


      ―― ―― ――


 そしてその日の営業も終わり、俺は閉店作業を進める。


「結局、今日もあいつは戻って来なかったか……静かなもんだな」


 いや、別に寂しいとかそう言うのでは無い。ただ、数日とは言えあれだけうるさい奴が居て、それが急に居なくなるんだ。その差で、少し物寂しく感じてしまう。


 だが、俺はふと考えてしまった。あいつは、何の為にあそこまで2体の合成のみにこだわるのか?

 モンスターを複数使った合成、キメラにしてしまえば、可愛くて強いのはいくらでも出来るだろうに。それをしないのは何故だ?


 それにあの行動力は、単に可愛いモンスターを作りたい、それだけじゃない様な気もしてくる。


 自分の人生をかけてでも、やり遂げなければならない事がある様なそんな目をしていたな。


「まぁ、俺にはもう関係ねぇよ」


 そして俺は閉店作業を終え、帰り支度をしていく。

 するとそんな時、鍵をして開けなくした店の入り口を、誰かが叩く音がする。


 たまに居るんだ……閉店ギリギリになって慌てて来る奴。ペットの餌を買い忘れて、閉店しているにも関わらず、餓死するからと言って必死になる人。


 気持ちは分かるがよ……それなら忘れるなと言いたいわ。まぁ、その人の都合もあるだろうから、俺はいつも開けて餌とか販売している。


「ん? 誰も居ない?」


 やれやれと思いながら店の入り口に向かったが、誰も居ない。おいおい、幽霊か? 勘弁してくれよ、その手のはバイトしていた店で十分経験したっての!


「ギィ! ギィィ!!」


「えっ?」


 すると、下の方から何かの鳴き声がしてきた。なので、視線を下にやると……そこには、ネイアが連れていたドラドと言うやつが、必死に扉を引っ掻いていた。キィキィと黒板を引っ掻く音が響く。寒気がするから止めてくれ。


 とにかく音を止めるため、俺は鍵を開けてそいつを向かい入れる。良く見ると、そいつの後ろに杖も落ちているではないか。しかも何か見た事ある杖が。


「んっ? おい、ネイアはどうした? 何でお前一匹だ?」


「ギィ! ギィ!」


「ぎぃぎぃ言われても分かんねぇよ。ったく、しょうが無いな。お前も置いて行かれた口か?」


 しかしドラドは首を横に振り、杖を咥えて何かを訴えてくる。

 その杖は、ネイアが大切にしているアーティファクトだと言っていた。どうも持ち主の潜在能力、もしくは隠された特殊能力と言うものを開花させる力があるらしい。だが、ネイアはこのアーティファクトを使えないと言っていた。持ち主が違うとか、何とか。


 だけど、父から贈られた物だから大切にしているらしい。改めて見てみると、杖の先に大きくて綺麗な水晶玉が付いていて、血痕も付着している。


「血? おいおい、まさか……あいつ。こっちの世界に来たのは、誰かに追われてと言っていたな……捕まったんじゃ」


「ギィ!!」


 俺のその言葉に、ドラドが一際高い鳴き声を放つ。つまり、当たりと言う事か……。


「くそ、あいつ何やってやがる! あ~警察……って、駄目だ。相手も異世界の住人、どうやって来たかは知らないが、日本の警察なんかじゃ対象出来ないか。あ~くそ、どうすれば!」


 しかし、そこである事に気付いた。俺、何であいつを助けようとしているんだ?

 だって、あいつは異世界の住人だ。こっちの世界とは関係無い、ましてや戸籍なんてある訳ない。しかも相手は異世界の住人だ、魔法とか剣術とか、こっちの世界ではあり得ないビックリ能力のオンパレードを前に、何の能力も無い一般人が勝てるかって事だ。


 結論は、無理だ。


「はぁ……あいつにはあいつの事情もある。俺みたいなパッとしない平凡な奴が、何物語の主人公気取りしてんだよ」


「ギィ? ギィ、ギィ!」


「悪いな、頼る相手が間違ってんだよ。異世界に帰る方法を探して、向こうの知り合いにでも助けを求めるんだな」


 だからズボンの裾を引っ張るな。破れるっての。

 そんなに必死になるくらいなら、急いで元の世界に戻って助けを求めた方が良いんじゃ無いのか?


 とにかく俺ではあいつを助けられない。それに、あいつには酷い事を言った。あいつにはあいつの事情があるにも関わらず、それを無視して怒鳴った。

 だから、俺なんか助ける資格は無い。せめて、置いていかれたお前達くらいは世話してやるよ。


 そして、俺は荷物を担ぎ再び入り口に鍵をして帰ろうとした瞬間。


「いでぇ!!」


 俺の指にハムドラが噛み付いてくる。しかも、作り出された何匹かのハムドラ全員がだ。


「いって……お前等何す……いだぁ!」


 更には、猛禽類らしいモンスターと合成されたウサギが、背中の羽で飛びながら、俺の背中を後ろ脚で蹴りつけてきた。


「な、何するんだお前! 脚が猛禽類の脚で鋭いんだから、普通に肉が抉れるぞ! 何なんだ……」


 そして気付くと、俺の周りにはネイアが合成した小動物達が、グルッと円を描く様にして俺を取り囲み、俺を見ていた。


「お前等……助けにいけと? モンスターと合成されて、全員ある程度の知能が付きやがって。お前等にとっては、あいつは命の恩人だもんな。ほっといたら死んでいた奴等を、あいつは……」


 分かっている。あいつは、可愛いくて強いモンスターを作ると同時に、死にかけている生き物を救う。その想いを持って行動していたんだ。

 実は、合成した小動物はモンスターの生命力を得て、弱ったり傷付いていたり病気になっていたりしていたのが、全て回復している。しかも寿命間近だった奴らも、その生命力を得て寿命がのび、復活しているんだよ。


 あいつの合成は、決して命を無駄にする様なそんな物じゃ無かった。


「お前等……俺だって助けに行きたいよ。だがな、相手が……」


「ギィ……」


「ん? 何だドラド? 装置なんか見て。おいおい、まさか……いや、無理だろう。外にもう1人スイッチを押す奴がいる。無理だ」


 こいつ、とんでもない事を考えやがる。俺と合成しようとしてやがった。危ない事を考えやがって、必死なのは分かるが、もうちょっと現実的に考え無いとな。


 そう思っていると、今度はドラドが俺の足元に杖を持って来た。いや、その杖でどうしろと……ネイアのだろうが。彼女が使えないとは言え、異世界の道具を俺が使える訳無いだろう。


「ギィ!」


「はぁ……あのな。潜在能力か何か知らないが、俺がこれを使ってそれを開花させろって? あり得無いだろうが、そんな漫画やアニメの様な展か――」


 俺がそう言って足元の杖を拾った瞬間、いきなり水晶玉が輝き出す。「ご都合主義展開キタ~!!」っと、心の中で叫んだのは言うまで無い。


 しかし異世界の物なのに、こっちの世界の奴にも有効なのかよ?! いや、頭が混乱している。あり得ない、あり得ない!

 だけど、これで俺の潜在能力が解放されめちゃくちゃ強くなったり、特殊能力が開花され魔法が使える様になったりするのか?!


 それならネイアを助けられるぞ!!


 輝く水晶玉を眺めながら、俺は胸が高鳴っていた。不覚にも、あいつを助けられると分かって喜んでしまったよ。


 全く、あのじゃじゃ馬……待ってろよ。今すぐ、助けに行くからな。

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