合成、合成、また合成
あれから数日。ネイアは俺の言う通りにしてくれており、お客に合成したやつを見せてはいない。
そして、今日も今日とてお客が来ない……。
いや、人は来ているんだが、冷やかしと言うか、見て帰るだけなんだよな。無料動物園かここは。
何故なら、その人達の言葉がこれだからだ。
「うわ、あんまり種類無いんだね」
「な~んだ、残念。もっといっぱいいるかと思ったのに」
「え~蛇いないの?」
それならば動物園に行けよ。ここは、ペットショップだアホ! と、心で叫んでも虚しいものだな。
「あのぉ、信也さん。ここって、動物園じゃ無いですよね?」
ネイアまでこんな事を言う始末だから、一般の人がそう言う判断の元来ているのは、まず間違いないだろうな。
それならばどうすれば良いか。俺は宣伝やセール等、可能なものは全てやっている。律儀にスタンプカードまで作ってよ、500円以上買ってくれた人には、スタンプ1個付けて、10個貯まれば500円引きとかしているぞ。
「う~ん、皆さんこの子達に興味が無いんですか?」
不思議に思ったのか、ネイアがそう聞いてくる。まぁ、こちらの社会情勢が分からなければ、そう思うよな。
俺はレジ内の椅子に腰掛け、天井を見上げながら呟く。借家だから汚い天井だな。
「不景気だからしょうが無いんだよ」
「えっ? でも、今の政治家のトップの人でしたっけ? その人のおかげで、ちょっとは景気良くなっているんでしょ?」
良く勉強してんじゃね~か。
まぁ、しかし上っ面だけ見て判断している様だな。
「まぁ、一部の奴等はそうだろうよ。しかし、やはりこの不景気の波からは、中々脱せない状況なんだよ」
「ふ~ん、何だかこっちの世界の方が大変そうですね」
ネイアの世界はどうかは知らないが、今の発言から察するに、不景気とかそう言うのとは無縁らしいな。羨ましいねぇ。
「じゃあ、私達の世界に来ます?」
「ん? 口に出てたか?」
「はい、最後の『羨ましいねぇ』だけ」
それは失言したな。異世界は異世界で、また大変そうだからな。今は行きたいとかそんな気分では無い。
「いや、今はそんな気分じゃないな。せっかく、俺は自分の夢を叶えようとしているんだ。異世界なんか、行きたくね~な」
「そうですか。分かりました」
ん? 何故ネイアは機嫌が良くなっているんだ?
「あっ、そうだ! 裏で、足を怪我しているウサギが居ましたよね?」
「ん? あぁ、そうだな。それが?」
「合成して、凄いウサギになりましたよ!」
嬉しそうに言ってくるが、嫌な予感しかしないぞ。火を吐くウサギは勘弁してくれよ。
「アウィスのアッキピテルと合成してみました!」
また、ややこしい名前のモンスターだな、おい。
あのトカゲみたいなモンスターと合成したんじゃねぇだろうな。
すると、俺の頭に何かが降りた感覚がすると、いきなり髪の毛をむしっている気がする。気がするじゃないなむしってるな、やめんか!
俺は、急いで頭に乗ってるそいつを掴むと、その正体を確認する。
だが確認する前に、その体の形や感触からウサギなのは分かった。いや、話の流れからしてウサギなのは当然か。
「いや、何だこれ……」
しかし、そいつを見た第一声はそれだった。
ウサギだ、ウサギなんだよ。だがな、背中に羽根が生えてるんだよ! バサバサ羽ばたいて暴れてるよ!
「おおい! これは、どんなモンスターと合成したんだ!」
「ですから、アッキピテ――」
「こっちの世界で似てるやつ!」
「えっと、それなら……あの目が格好良くて、爪と嘴が鋭くて体も大きな鳥ですね」
「猛禽類か!! 何てやつと合成したんだ!」
しかも、良く見ると脚まで猛禽類の脚になってやがる! どうりで痛いと思ったよ。
その前に、こいつ可愛いと思うか? ここまで来ると、もはやキメラと言っても過言では無いような気がしてきたな。
「おい、今思ったが、これはキメラと言わないか? 可愛いか、こんなのが」
すると、ネイアは目を見開きカウンターに手を置くと、激しく抗議してくる。
「キメラは、複数のモンスターを使っています! 私のは2体の生体しか使いません! あんな、力だけを求めた物と一緒にしないで下さい! それに、その子も可愛いでしょう!」
「いや、しかし……いでぇ!!」
「ほら、その子もそう言ってるでしょ?」
猛禽類の爪で思い切り引っ掻かれた、肉が抉れるわ……。
咄嗟に回避したからそこまではいかなかったが、俺の顔には綺麗に爪痕が付いてしまった。
とにかくそいつを離すと、俺は一旦冷静になるべく、外に出てタバコを吸いに行く事にした。
「あっ、何処に行くんですか?」
「タバコ吸いにだよ……ちょっと1人にさせてくれ」
そう言うと、俺は店の外に出てポケットからタバコを取り出し、ライターで火を付ける。
1人で店をやっていると、色々とストレスが溜まるんだわ。クレーマーの対応とかな。
まぁ、今のストレスの原因は主にあいつだがな。
「フー、さてどうしたものか、追い出すのはまた問題だしなぁ」
そうやって煙を口から吹き出すと、煙は正面から斜めには向かわず、真っ直ぐ垂直に上がっていく。
待て待て、タバコの煙はこんな上がり方はしないぞ。風に流れるから、垂直は殆ど無理だぞ。
気になって顔を上げると、そこには見なれない生き物が居た。
「何だ、これ? 体が雲で、そこから蜘蛛の手足に、蜘蛛の顔が……まさか、ネイアの奴か」
そして、そいつが俺が吐き出したタバコの煙を吸っている。いや、食べているのかこれは?
「ンマ、ンマ」
「ンマンマ、じゃね~よ。おい、ネイア! 人目がつきやすい所に、モンスターを出すな!」
「ご、ごめんなさい。どうしてもその子が、その煙を食べたそうにしていたので」
まさか、こいつはネイアの居る世界で普通に存在する奴か? 良く見ると、どうも違うような……。
「あっ、その子も、私が向こうの世界で合成したものです」
やっぱり合成ものか……。
何でもかんでも合成、合成。それで良いのかね? 生態系とか、色々崩れてしまうだろう。
「で、こいつは何時までタバコの煙を食べているんだ?」
「あ~その子は毒ガスとか、そう言う汚い空気を食べて、綺麗にしておしりから出す性質があるので、それででしょうね~」
何ともエコなモンスターだな。どっかの国に100匹程放り込んでやりたいな。地球温暖化とか、一気に解決するぞ。
「なるほどな、そう言うのを作ればもしかしたら……って、いやいや無理だ。その前に、どうやって生み出したかの説明がいる。そこでアウトだろうが」
良い案だと思ったけれど、そう上手くはいかないもんだ。
そして、俺はタバコの吸い殻を地面に擦り付け、火を完全に消すと、携帯灰皿にそれを入れて自分の店に戻る。
とにかく、今は自分の店をどうにかしないと……って、待てよ。ネイアが、何か見た事あるのを持ってるが……。
「おい、ネイア。そいつはまさか……」
「あっ、はい。裏に変わったのが居たので、ハイドラゴンの亜種、ソードドラゴンと合成してみました!」
のぉぉお~!! そ、そいつはハリネズミじゃ無いか! 商品として仕入れて、餌食いとか、体調とかを見るために、裏に置いていたんだよ。まさかそれを使われるとは~!!
「あっ、えっと……もしかして、使っちゃいけない子でした?」
ガックリと項垂れ、地面に両手をつける俺を見て、ネイアが気まずそうにしながら聞いてくるが、そもそも俺が言うのを忘れていたんだ、ネイアは悪くない。
「いや、言わなかった俺が悪いんだ、気にすんな」
あ~あ、ハリネズミの硬い毛が小さな刀剣に変わり、ビッシリと敷き詰められているよ。
ヤマアラシじゃ無いから、刺さる事が無いハリネズミのハリが、刺さるどころか斬れる物になっちゃってるじゃないか。
とにかく、俺は気を強く持って立ち上がると、それに合わせてネイアが新たにもう1体を見せてくる。
「あ~良かったです。実は、もう1匹使っちゃってしまってたんです」
そう言いながらネイアが取り出したのは、モルモットの親戚に近い種類のデグーで、見た目ドブネズミだが、実はこいつは懐く。
勿論、そいつも仕入れて裏で体調を見ていた子だ。ハリネズミだけじゃなく、デグーも使われたのか……。
そいつは、体が帯電しているのかバチバチと放電しているではないか。どちらも触れなくなっている。ネイアだって、分厚い革の手袋で持ってるからな。
「因みにこいつ、何と合成した?」
「同じくハイドラゴンの亜種、ボルトドラゴンです!」
「そ、そうか……」
再び地面に手をつき、落胆したのは言うまでも無い。こいつ早く何とかしないと。
俺の店がモンスター屋になっちまう!!
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