すれ違い
それから、更に数日……。
こいつは、新しい住処を探す気はあるのだろうか? ずっと俺のアパートに住みつきやがって。いや、それ以上に……。
「いい加減、次々とモンスターを合成するのは止めてくれないか!!」
「えぇ~! でも、体調が優れない子は使っても良いって……」
「そりゃ言ったけどよ、限度ってのがあるんだよ!」
ハムスターは郵送での入荷だから、店に来た時点で死にかけている子もいるさ、それを合成で復活させてくれるのはありがたいのだが……。
店の半分は、ハムドラ及びハムスターを主体とした合成もので埋め尽くされそうだ。
流石にネイアを調子に乗らせすぎた、このままではこの店がモンスター屋になってしまう!
「良いか、こっちの世界ではモンスターなんて居ないんだ。そこんところをもう少し考えてくれ! こいつらは売り物にはならないだろ? じゃあ、誰が面倒見るんだ」
「う~面倒なら私が……」
「あの家でか? 無理に決まってるだろ! 店に置ける数も限られているしな。どうすんだ、こんなによ!」
俺は、店の奥でひたすらネイアに向かって怒鳴っている。
最悪なのは分かってるが、こうでもしないと奴は止まらん。恐らく、向こうの世界でもそうだったんだろう。やり過ぎなんだ彼女は。
店の奥は既に置き場が無いくらいに、合成されたハムスターやウサギ、デグーやインコ、更にはフェレットまでウルフ系のモンスターと合成されてしまい、見た目厳つくなってしまい、どうすることも出来ずに、店に置いている。
『グルルル……』
ネイアの肩に乗っているドラドが威嚇してくるが、俺は引かんぞ、怖いが引かんぞ。
「ドラド君落ち着いて。確かに沢山合成しちゃいましたよ。でも、それはそれだけの数死にかけてしまっていたり、怪我をさせたりしているんでしょう?!」
ほぉ……一端に反論してくるか。
確かに一般人からしてみたら、そんなに死にかける子が出るのかと、文句を言われそうなものだが、それがペット業界の闇と言うものなのさ。
俺だって心苦しいもんだよ、入荷しても次の日に死んでたりするとな。だけど実際、数多くのハムスター等のペット達が売れているんだよ、それだけの数が売れている。
だから、ショップはそれだけの数を用意しなければならない。当然問屋に頼むわけだ、それだけの数を用意してくれと、そうなるとどうなる? 問屋も繁殖場に急かす訳だ、早く数を用意しろと。
そうなると、繁殖場が適正な環境で飼っていても、小さい子を次々と送り込むわけで、そんな子が全国各地に長距離移動していくと、調子が悪くなる子が1匹や2匹は必ず出てしまうのさ。
ペットブームの裏では、そんな事が起きているのさ。それでも、人は愛玩動物を欲する、癒やしの為にな。いつの時代もこうなんだ。
俺はその事をネイアに伝えると、顔を俯かせ黙り込んでしまった。
「こっちの世界は、こんな状態なんだよ。だから個人でやっていても、数日で2~3匹の死にかけの子が出ている、大手になるとその数はもっとだ」
「こっちには、動物を保護する法律があるのに、何ですかこの矛盾は」
その気持ちも分からなくも無いが、だからと言って、新種を考え無しに沢山作られても、困るわけなんだよ。
それと、法律には必ず穴がある。そして、その法律が守られているかと言われたら、グレーだな。市の職員が確認に出向いている訳でも無い。あくまで、それを見た客からの通報だよりだ。
しかし通報があっても、電話で聞くだけという状態だがな。だが、それは自治体によって変わる。そう、この愛玩動物の法律は、自治体によって違うのさ。
要するに、全国共通の項目もあれば、その自治体にしか無い項目もある。自治体の動きも、それによって変わっているのさ。
「さて、ここまで説明して分かったか? こっちの世界で、お前の望みを叶えるのは、無理だ」
「っ……そう、ですか」
ようやく分かったのか、ネイアはそれ以上反論してこなくなった。
しかしその後、ネイアはゆっくりと口を開き、俺にある事を聞いてくる。
「信也さんは、今のこの状況を良しと思ってるのですか?」
「良しと思ってる訳ないだろう」
「じゃあ、変えようとはしないのですか?」
異世界の住人だからか? 安易にそう言う事を言ってくる。
「数年前までは、そう思っていたさ。だけど、店をやり出して利益の事を考えると、これ以上法律がキツくなると、閉店せざるを得ないさ。それは、他の所もそうだ」
「だから、このままで良いと?」
ズケズケ言ってくるなこいつは。ネイアの顔は真剣そのものだし、この世界の可愛いペットをどうしても使いたいんだろうな。
「このままで良いとは言ってない。しかし、色々な壁がある。それに、こう言う背景が一般人にも知れ渡っているのか、ペットショップを嫌う人達も増えている。そいつらが本腰入れたら、ペットショップは日本から消えるかもな」
俺が言ったのは極論にすぎないがな。
それに、実際海外ではペットショップの無い国もあるくらいだ。しかし、その国は世界で唯一、ペットを大切にしている国でもある。
つまり、犬・猫を飼うのに審査をしたり、飼い主をテストしたりするわけだ。
ならば、日本もそうすれば良いんじゃ無いかと言うだろう。だが、ペット業界が大反対するだろうな。
「ネイア、元の世界に帰れ。もう分かっただろう。いや、分かっているはずだろう」
「でも、でも!」
「キツい事を言うけどよ、そうやって次々と合成していってるけど、お前はこいつらの事を考えてやってるか?」
俺はそう言って、膝に乗せた
「こいつらの姿形を変え、生態を変えてしまってよ。いつも通りに生活出来なくなってるかも知れないだろ? そこに少なからず、ストレスを感じてるはずだ」
「そんな事は無いです! わ、私は、いつだってこの子達の考えて、少しでも生活が変わってしまわないようにって……」
「本当に出来てるのか?」
「うっ……」
「見る限り、失敗している気がするぞ」
ハムスターはドラゴンの性質をつけられ、肉ばっか食ってブクブク太ってきているし、ウサギも羽を付けられたはいいが、猛禽類の性質も付けられ、肉を食べてしまっている。
これだけでも、正直生態系が狂ってるんだよ。ネイアが居たら、確実に地球の生き物の生態系が、狂わされてしまう。
「もうちょっと、この世界の事を考えてくれないか。そもそも、異世界の住人がめちゃくちゃして言い訳では無いだろうが」
「そう、ですよね……ごめんなさい」
ネイアはそう言うと、フラフラと立ち上がり、店の出入り口に向かい、そして出て行った。
その時、肩に乗っているドラドが低く唸るが、俺の考えを理解しているのか、それ以上は唸っては来なかった。
しかし、ドラドの目は何かを訴えている様にも思えた。「このままで良いのか?」そう訴える様な……。
「いや、考え過ぎだ……そんな訳無い。さて、奴も向こうの世界に帰るんだろうし、この数日間の事は夢だと思って……って、待て、あいつ置いていきやがった!!」
俺は振り返った時に気付いた。そこにネイアの持ってきた合成器や、合成した小動物達が残ったままであった。
「せめて、これ持って帰れ~!! ネイア~!!」
そう叫んでも、その日はネイアが帰ってくる事は無かった。
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