救出作戦開始

 それから1時間程たった現在、戦闘準備を終えた俺は、ドラドの記憶を頼りに雑居ビルの前に来ている。大通りから路地に入ってちょっと進んだ所だ。俺の店からものの10分程の距離じゃ無いか……。


 そこそこ年月が立っている雑居ビルで、外壁が剥がれ怪しさが増してしまっている。いや、こんな雑居ビルには必ず悪い会社とか、悪い奴らが拠点にしているって訳では無い。


 ただ何というか、時間も時間だから明かりなんか付いていなくて、夜の闇の中に佇むそれは、中で待ち受けている敵の事もあってか、ダンジョンか何かを想像させられてしまう。


「ふっ……やっぱ来るんじゃ無かった」


 ポツンと呟いたのだが、奴らには聞こえた様だ。

 俺の背負っている大きめの鞄がゴソゴソ動き、中で抗議しているのが分かる。


「分かった分かった。これでも一般人だから、いざこれから悪人と戦うってなると、すげぇ怖いんだよ。分からんか?」


 そう呟いてみても、小動物のこいつ等には分からんか。考えているのは命の恩人を救いたい、それだけか。


「分かったよ、ほら」


 観念した俺は鞄を降ろし、そこから数匹の合成された小動物を出す。狭い空間から解放された子達は、思い思いに体を伸ばしたり歩き回ったりしている。


 ハムドラだけは、問屋から仕入れる時に使う、長方形で全体が黒いプラスチックで出来たケースだがな。


「おい、お前等あんまりウロチョロするな。良いか、作戦は分かってるよな」


 俺は自分の目の前にそいつらを集合させると、全員に向かって話しかける。

 しかし、今が夜中で助かった。こんな所を人に見られたら、動物と話す頭がおかしい人になっちまう。


 今は能力の副産物の様なもので、こいつらと会話が出来るようになったんだが、何だかこうしていると、子供の時に見た映画ドクター・ド○トルを思い出してしまうな。


「よし、良いか。雷の能力を持ったデグー、お前が先ず電気系統をショートさせるんだ。場所はわかるか? 分からんかったら、餌の沢山ありそうな所で放電しろ」


「チィッ!」


 何、敬礼してんだ。可愛いぞ。


「そして、ハムドラ達。お前達は、壁の隙間から侵入しネイアの場所を特定、そして俺に教えろ。その後は待機しててくれ」


「キィッ!」


 お前達も敬礼するんかい。俺は軍の司令官とかそんなじゃ無いからな! と言うか、芸達者だなこいつら。いつの間にそんな知恵を……。


「よし、羽付きウサギ。ネイアの居場所がわかり次第、俺を上げてくれ。決して無理はするなよ。他に方法を考えるからな」


「……」


 ウサギは鳴き声が無いんだった。ちょっと期待してしまったが、ウサギには声帯が無いから当たり前だ。ブゥブゥ言うけど、ありゃ咽をを鳴らしているだけだ。基本的に威嚇する時に出すのが多いな。


「さて、では。作戦開始! 行け!」


 そして俺は小動物達にそう言うと、ハムドラが数匹入っているケースの蓋を開け、ビルへと向かわせた。


 後は待つだけ……頼むぞ。


      ―― ―― ――


 待つ事数十分。思いのほか早くネイアの場所を特定出来する事が出来て、俺は早速行動に移している。

 そして、この雑居ビルはとっくに取り壊しが決まっていて、テナントが1つも入っていなかった。だから勿論、電気系統等もその殆どが死んでいた。


「拍子抜けだな、くそ」


 何故分かったのか、それは普通に待っている間に、ビルの周りを回って確認していたからだ。

 そして、工事をする為の看板が掛けてあるのを見つけ、作戦を開始する前に、先ずは事前調査をする事が大事だと、痛感してしまう結果となった。


「よし、ご苦労さんここで良い、降ろしてくれ」


 その後、俺は羽の付いたウサギに運んで貰い、屋上に着いた。

 乗る事は出来ないから、前脚を掴んでな。後ろ脚は駄目だ、こいつらは腰が弱いから、後ろ脚を強く引っ張っただけで腰が外れてしまう。


 更に、ハムドラ達が調べた結果。ネイアは1番最上階の部屋に居ることが分かった。つまり、ここから直接ダイナミックに突入させて貰うと言う訳だ。その方がインパクトあるし、相手もビックリするだろうな。


「だけど、その前に……敵の位置を……と」


 俺は屋上の床に耳を付け、その内側から聞こえる音を聞き取ろうと集中する。

 これも、あの杖の効果によって開花された俺の能力の、副産物だ。すると、俺の耳にネイアと他の男の声が聞こえてくる。更に数人の足音も聞こえ、敵が数人居る事も確認した。


「どうですか? いい加減分かってくれましたか? アンダースタン?」


「そんなの……お断りです!」


「やれやれ、まだ強情を張りますか。良いですか? 貴方の合成技術と、私達の合成技術があれば、あの世界の全てを牛耳るのも夢では無いのです!」


「だからって、国を裏切る事は出来ません!」


 ん~? 政治的なものか? 何だろう、俺が関わって良い案件なのか? そして相手は外国人か? 何だか微妙な英語を使うな、発音がなってないのと、使い所が時々おかしいぞ。


「Oh……そうじゃない。国を裏切るのでは無く、戦略的に考えて尽くす国を変える。分かりませんか?」


「何を言っているか、分かりませんね!」


「そうですか、残念です。これはショックですねぇ……それでは、せめてこの世界の何処かにある貴方の合成器だけでも、持ち帰らせて貰いましょうか。もうあなたには……死んで貰いますね。ゲームオーバー」


 ちっ! やっぱ駄目か。撃鉄を起こす音まで聞こえた。時間が無い、作戦通りに突入するしかない。ハムドラや他の合成された小動物も、全員俺の元に戻っているし、相手を怯ませれば勝機はある!

 そして俺は拳を作り、思い切り腕を振り上げると、力任せに屋上の床を殴り付け、その部分を破壊し大きな穴を開ける。


「ホワッツ!! 何事ですか!!」


 大きな衝撃音と瓦礫が崩れる音、そして敵が驚いている声が同時に聞こえてくる。そんな中、俺は敵の本拠地へと降りたった。

 その前に砂埃が凄いなこれ……ネイアはどこだ? 声の位置からして、真上では無かったはずだぞ。


「あ~、迷子になってる自分の所の従業員を迎えに来たんだよ」


「し、信也さん?!」


 すると、後ろからもう一つ驚いた声が聞こえてくる。何だ、後ろにいたか。

 声のする方を振り返ると、そこには椅子に固定されているネイアの姿があった。


「ったく、勝手に捕まるな。こいつらの世話が思った以上に大変なんだよ。それと、向こうの世界に帰るつもりなら、せめてこいつらと合成機も持って帰れ」


「えぇ……あの、私帰るつもりは……」


「だろうな。それだったら合成機なんか置いていかないわな」


 俺は、若干文句を言いながらもネイアに近づき、そしてロープを解こうとする。


「あっ、あっ! 信也さん、ま、待って下さい」


 すると、ネイアは顔を真っ赤にして俯いてしまうが、なるほどそう言う事か……女性の扱いがなってない奴等だな。


「これは、これは。良い情報をありがとうございます。サンクスです。合成機は、あなたの家にあるんですね? 案内して貰いましょうか?」


 そう言いながら、そいつは俺に銃を突き付けてくる。そして、他にも俺の周りには数人の男達が、銃を突き付けて取り囲んでいる。これは完全に悪の行動だな。目的を達成するには手段を選ばないタイプだ。

 まぁ、そう言う奴に限って詰めが甘いんだよな。今だって、俺が1人で来たと思っている。甘いな、俺には強い味方が居るんだよ。


「おい、お前等。やれ!」


「ホワッツ? な、何ですかぁ! それはぁ?!」


 俺の陰から出て来たのはハムドラ達。俺の服の中に潜んでいたんだよ。要するに、不意討ちをする為にな。

 そして、外からは猛禽類と合成されたウサギが飛んで来て、怪我をしない様ににしながら、器用に後ろ脚で窓を割り侵入してくる。そして、そのまま俺を取り囲んでいる男達をその爪で引っ掻いていく。


「うわぁ!」

「な、何だこいつ等! くそ!」

「アヂィ! 火吐いたぞ、このネズミ!!」

「いや、こっちは放電してやがる!」


 デグーは、部屋の入り口までたどり着いていたが、一旦待機しろと命令していた。

 そして、さっきの「やれ」と言う司令で、部屋に侵入、次々と男達を感電させていく。


 ハムドラ達は、勿論火を吐いたり噛み付いたり、その新たに得た能力をふんだんに使い、敵を倒していく。


 そして気付くと、目の前には1人の男性のみとなった。そいつは派手なスーツに身を包み、オールバックに金髪、青目でもあるのでぱっと見は外国人に見える。

 だけど、今は怒りに震え、白い肌が少し赤みがかって来ている。あんまり怒ると血管切れるぞ。


 しかし、男はゆっくりと俺達に近づき、殺意を露わにする。やるしかないのか……。


 勝てるか分からないが、せめてネイアだけでも逃がせたら良しとしよう。

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