桜が咲く頃に

星 霄華

序章

 人間にとっての技術の革新とは、欲望と怠惰に従った結果に他ならない。知識欲、性欲、所有欲、食欲。そして、楽をしたい、手軽に楽しみたい。あらゆる欲望が努力を促し、技術を発達させてきた。

 だが、自然の脅威に勝てるはずもなく、いくつもの自然災害によって世界中の国々の国力は削られた。当然のごとく、限られた資源を巡って戦争が起きた。そこに今まで培った科学技術のすべてが投入されるのも、自然なこと。世界が荒廃し、国の勝敗が格差を生み、貧困が負の連鎖を生みだすのも、数えきれないほど多くの物語で語られた、ありふれた未来の姿だった。

 それだけでも、人類は困難に直面したと言える。だが世界は、人間という愚かな種にさらなる罰を与えた。

 生物兵器が投入された最後の戦争が終結し、結局は旧来通り、五大国とそれに追従する国々の構図に収まって十数年が経ってからのことだ。ある小国で、赤い斑紋が突如浮かびあがるようになり、やがて体中が腐敗して死んでしまうという事例が老若男女を問わず、相次いだ。

 初めはその国の大事として報道されていたが、やがて世界各地で同じ事例が報告されるようになったことで、各国はようやく対岸の火事ではないと気づいた。しかし時すでに遅く、病は科学者たちの懸命の努力をあざ笑うかのように、土地も人も問わず発症しては人々の命を奪っていく。原因も治療法も一切わからず、迫りくる死の大鎌に人々が怯えるさまは、さながら黒死病の恐怖を描いた“死の舞踏”様式の絵画さながら。住む者がいなくなるのに合わせて、多くの都市もまた死んでいった。


 まるで、自分たちがほろぼした数多の種族のように人類があっけなく数を減らして、五十年。人類は、世界にわずか二十万人しか残っていない。

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