フォルカスの倫理的な死

作者 枕目

3,527

1,270人が評価しました

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★★★ Excellent!!!

個人的にはこの作品はホラーであると感じた。

作中においての価値観の差、今の我々との乖離。
だがそこに気味悪いリアルさを感じてしまう。
現実でも似たような思想があり、ひたひたと浸食を開始しているから。
良い悪いの問題ではなく、思考の違い。あまりに異なるものであれば、狂気にも見える。
本作は短い時間でその片鱗を味わえる……かもしれない。

是非、読んでみて。

★★★ Excellent!!!

当たり前だったことが
いけないことになってしまう。
似て非なるものに置きかわる。
静かに静かに。
価値観が変わっていく。
大事なものが失われていく。
でも、どうすることもできない。
ついていけない、猫。
そして、私も。

あまりにも現実的に描かれていたので
悪い冗談とは思えない。
…どうか読んでみてください。

★★★ Excellent!!!

主人公の女は生きるための殺生を禁忌とする世界の流れに翻弄される。

この世界の倫理観は海の干満の様にゆっくりと、打ち返す波の様に小さく変化し、その変化にのまれるもは悪とされていく。

主人公の愛猫、フォルカスの登場からの展開は、悪とされ波にのまれた者たちの魂の主張を感じることが出来ます。

激しい口論では無く、冷たく淡々と語られる様子は、ホラーのようで目が離せません。

★★★ Excellent!!!

視点が素晴らしい作品。

この作品から伝わってきたのは、批判でもなく、肯定でもなかった。

命のあり方や、魂的な存在の有り様に、人間がどう向き合うのか?何も感じませんか?

そんな疑問を投げかけられているように感じられた。

成分としては何も変わらない両者を区別するのは何か?

それは愛着や想い入れではなく、やはり個人を個人たらしめている魂なのだと思う。

★★★ Excellent!!!

ネット上でたくさんの名作に出会いました。アイデアが優れているもの、文体がセンス抜群のもの、とにかく執筆速度が速くて、どちらかというとストリートアートに見惚れている感覚になるもの等々。

ですがハードコピーして何度も読み返したくなる、自分の投稿作品に決定的な影響を及ぼす、それほどの作品にはなかなか出会えません。本作に出会えた感動を正確に伝えるのは難しいですが、頑張ってみます。以下はあくまで私見、私が感動した点を述べます。

人工肉や生命の複製など、本作にちりばめられた倫理学的なモチーフは、すべて演出上のギミック。本作で本質的に語られているのは、ひたすらにこの世界を生きる主人公の「まなざし」だと感じました。

では世界設定が空虚なものかというと、そこの演出も非常にうまい。人工肉にしろ、それにまつわる(今の私たちから見ると)グロテスクな社会倫理の変化にしろ、私たち読者が生きる現実が抱えつつある要素です。

近未来という、私たちにとって「見えそうで見えない射程の、延長線上の世界」という舞台装置の中で、そういった倫理上の要素を巧みに先鋭化しています。あまりに巧み過ぎて、私も当初、本作は社会風刺の作品なのだと思いました。

主人公は私たちと同じいわゆる平凡な感性の持ち主で、超人ではありません。だから眼前の違和感に「こうしよう!」という解明の動機を持たない。ただ違和感だけがある。そんな主人公を行動に駆り立てたのは飼い猫にまつわる出来事。「猫が餌を食べない」と「猫にあげる餌がない」という、主観(日常)と客観(社会)を同時に問う演出に「上手いなぁ」と読みながら思わず口にしてしまいました。

社会に所与された条件の中で生を重ねつつも、ちょっとした違和感の表明を行った主人公(このあたりの演出も上手いです、ぜひ一読を)の姿。

私も当初レビュータイトルを「~を考えさせる」と書こうと思いましたが、… 続きを読む

★★★ Excellent!!!

この作品は『食べる』ということを通じて、生きることは何か?と問いかけます。更には、生命とはなにか?と問いかけます。その問いに答えようとしたとき、その答えに『覚悟』はあったのだろうか?と悩ませます。
旨い珈琲を飲みながら、じっくり考えたくなる名作。・・珈琲豆も、生命体だな。

★★★ Excellent!!!

動物解放論、というのがある。
著名な倫理学者ピーター・シンガーによれば、あらゆる苦痛は取り去らわれなければならない。そして動物にも苦痛を感じる能力がある。だから、あらゆる動物は苦痛から開放されなければならない。動物解放論はそういう理論だ。

確かに。と思うかも知れない。

実際この議論は倫理学の中でも強力な立場で、ヴィーガン論争などの中心にある議論の一つでもある。
僕らは肉を食いたい。けれど殺して肉を食うことの倫理的悪さの論証も理解できてしまう。

人工肉は科学技術による然るべき応答なのかも知れない。僕らは肉を食うことができ、動物は開放される。
いや、果たして本当にこれで万々歳なのか?
しかしフォルカスは死んでしまった。肉食家たちは逮捕されてしまった。
フォルカスの死は本当に倫理的だったのだろうか?
肉食家たちは自分の欲望を押し殺すべきだったのだろうか?

『フォルカスの倫理的な死』は近未来SFだが、現在の倫理的な問題とも接続している。やさしい筆致で描かれる物語は、それ自体の魅力以上に現実の問題へとつながる可能性を秘めている。

★★ Very Good!!

人と動物との関係性を「肉」にSFを盛り込んで描かれた作品。

以下ネタバレ注意
食べる肉としての動物と愛玩対象としての動物。
両者が違法となっていった世界で自分が少しでも愛した動物には人口ではなく本物の肉がついてた。自分が愛したものとは何だったのか。けれど、本物と偽物の違いを主人公は最後になってもわからない。
言葉遣いや最後になってこそやっとわかる彼女の真相と物語の結果が気になり、一瞬で読み終わりました。
15分程度で読み終わるのでぜひ読んでみてください。

★★★ Excellent!!!

近年研究が進められている「培養肉」を題材としたこの短編の中には、短い文の中に、「ハーモニー」や「アンドロイドは電気羊の夢を見るか?」などを想起させる、ディストピア的な不穏な世界観が垣間見え、非常に興味をそそられました。

同じ世界観の、他の作品が読んでみたいと強く思います。

★★★ Excellent!!!

他の生物を捕食することは、生命活動において最も基本的な消費行為だと思います。
この作品では生命の「消費」がさまざまな形をとって表現されています。

※以下、若干のネタバレを含みます。

作中ではフォルカスという猫の死について語られますが、私はペットもまた人間によって消費される存在なのではないかと思いました。
猫のフォルカスもまた生命を消費する存在であり、培養肉を拒絶して衰弱していくフォルカスになんとも言えない感情がこみ上げてきました。

人類は長い歴史の中で、様々な動植物(人間自身も含め)を管理することで社会を維持し、発展させてきました。
科学技術の発達は社会に変化をもたらす。そうすると消費のあり方も変化し、やがて歪みや問題がでてくる。

最後まで読み終えた時、タイトルの『フォルカス倫理的な死』が示しているのは何なのか、深く考えさせられる作品でした。

★★★ Excellent!!!

誰もある意味ではきっと間違ってないのだけれど、誰もかれもがなにか間違っている。
じわじわと心に忍び寄るSF作品には、どこかで、必ずそんな感想を抱きます。もちろん、この小説も。
作中、動物を飼っている身としては本当に心がキュっとなるのですが、それでも「どこがダメなのか」は客観的に言葉で説明できない。苦しい。
心にどこか引っ掛かり続ける物語です。

★★★ Excellent!!!

読み物としても思考実験としても非常に興味深いSFでした。
技術の発展による倫理観の変化が生々しくて非常に現実感があります。
食肉と屠殺というすでに話題となっている倫理問題に始まり、哲学的ゾンビのようなものまで描いていくのが素晴らしい。
ラストも考えさせられる。

★★★ Excellent!!!

生きている、とは本来どんな意味なのだろうか。そもそも、生きる死ぬに本来的な意味などあるのだろうか……?
ミヒャエル・エンデの『モモ』という作品の真逆を行く作品なのかな、と感じました。
深く考えさせられる、良質なSFで、読みごたえがありました。

以下、ネタバレ・自己解釈・長文乱文含みます(すみません、自分の頭の中を整理する意味でも書いてみたくなりました。あくまで私はこんなふうに読んだ、というものですので……)。
まだこちらの作品をお読みでない方は、お気を付けください。










生きる、とは命がある、ということだろう。命が失われた、といえばたいていの場合は死んでしまったことと同意だから。

食事をするのは生きるため、命を保つための行為。
娯楽快楽目的の食事でさえ、生きるため、命を保つための行為といえるのではないだろうか。娯楽も快楽も一切合切失ってしまっては、何の楽しみもなくなってしまい、生きている意味がわからなくなってしまう人もいるだろう。

動物を殺して食べることを、命をいただく、なんていったりすると思う。生きている状態から、殺すことにより、奪いとった命をもらい受ける行為。それが肉を食べるということなのだとしたら、ノンカルマ・フードサプライの殺さない肉を食べるというのは、どういった行為になるのだろう。

命は単語だけど生きるは動詞。
命がある、という言い回しもできるから、なにがしの存在が独立してあるものなのかもしれず……例えば魂とか心とか、そんな言い方に置き換えることも、場合によっては可能かもしれない。

だからつまり、殺した肉を食べる行為は、体を動かすための充電、という意味に加えて心を取り込む、魂を補充する、という意味もあり、
殺さない肉を食べる行為は、ただ体を動かすための充電、という意味になるのではないか。

ノンカルマの食事は受け付けなかった黒猫の名前が… 続きを読む

★★★ Excellent!!!

最初のテーマから、様々なテーマが点と点で置かれ、最終的に結びついて題名に戻るという流れがスマートで好みです。

短いストーリーの中で作り上げられた世界観。
衛生的で清潔感な印象を受けるが、ディストピアという世界観が素晴らしい。
動物を殺さずに肉を食べる。というゾッとした描写がサラッと描かれており、様々なテーマをバラバラにせず、凝縮しまとめ上げた芸術品。

改めて、後日読んだらまた違った視点が見えてきそうなそんな物語。

★★★ Excellent!!!

 本当に久しぶりに、文句なしの傑作SFだった。これぞSF。
 食べるという原点を安直な倫理……『ハンニバル(トマス・ハリス著 高見 浩訳 新潮社 敬称略)』のレクター博士風にいえば、『道義用排泄パンツ』で無理矢理覆った社会。ディストピアそのものだ。誇り高い一匹の猫はそれに抗い続け、遂に戦死した。多分あれは、主人公への仁義を貫きつつも己の志を通す唯一の手段だったのだろう。野蛮な精神を放逐したはずの社会が極めつけに野蛮という、救いようのない逆説。残された(遺された)人間どもは、あたかも江戸時代の大富豪達のように、ご禁制を密かに破る仲間意識くらいしか正気を保つ術はない。
 それにしても、ガン細胞のごとく無限に増殖する細胞をもって支えられた人類社会は、いつか木っ端微塵にしたくなる。残虐さと向き合うのを黙殺して我(ら)こそ清純でございという連中をこそ食糧にしたい。野蛮な社会を彼らが食い物にしたように。

★★★ Excellent!!!

 自分が書きたいなと思うテーマの、ひとつの完成形を見せられた気分です。

 このノンカルマ・フードサプライを作った人間は、果たして自己満足以上の何かを望んだのか。その自己満足に付き合わされる人類の事を考えていないとしたら、それは最大級の邪悪であると思います。
 生命であり続ける以上逃れられない業から逃げない主人公たちの強さ、個人的にこういうのをやるとどうしてもすぐ感情を爆発させがちなのでそれを抑え込める作者の筆力にも感心しました。

★★★ Excellent!!!

見事…!!!
"実際にありえそうな"ディストピア感が素晴らしいです。直接的に感情は語っていないのに、主人公の様々な感情が伝わってきました。パッと見は凄くフラットなのに、行間にたくさん想いが詰まってる…。
おすすめです。特にディストピアや倫理学のテーマが好きな方はマストでお読みいただきたい。

★★★ Excellent!!!

私は犬派なので、犬だって……犬だって……!
と若干なりましたが、確かにこういう状況になったら犬は普通にバクバクしてるんだろうなと思ってしまったのも事実です。
猫だからこそ、でしたね。
意味はこの作品を読んでいただけると分かると思います。

物語の内容についての感想としては、非常によくできている短編だと思いました。
現代社会の合理性追求が持つ、一種の気持ち悪さ、それによって失われるものが実は大切であることを大半の人間が気づかないという皮肉、そういうものが描かれているのではないかなと。
おすすめです。

★★★ Excellent!!!

 何よりも先ず、ともかく圧倒されたと言いたいです。
 構成や筆致の素晴らしさは言うまでもなく、この強烈過ぎる――それでいて細を穿ったまでのメッセージ性。
 現代への皮肉と言い表すよりは、本当に現代への問題提起なのだと感じました。
 倫理――モラルとは誰が作るものなのか。
 あるいは人間の根底には結局そのようなものなど初めから無く、自らを騙し、律する為の方便なのか。
 作中の全ての言葉にすら余す事なく意味があるのではと、何度も読み返し、考察してしまいます。
 このような作品に出会え、感動でした。

★★★ Excellent!!!

美しい構造物を眺めているかのような精緻な構成力にまず引き込まれる。そこで綴られる物語は新技術の普及によって倫理のパラダイムシフトが起きた世界での出来事。倫理が変遷した世界における社会の様々な変化は、倫理が盤石で確固たる規範があった上で定義されるものではなく、むしろ曖昧な多くの人々のドロドロとした「気分」で形成され共有されるものであり、それが容易に暴走するものであることを淡々とした筆致で露わにしている。フォルカスの2度にわたる死はそんなディストピアな世界の犠牲者であり、生贄であり、悲劇の象徴として深い余韻を残す存在。文章に通底する乾いた抒情性、そして最後を締めくくる一文の筆舌に尽くしがたい美しさ、そして何よりも痺れたのは、作中の言葉を借りれば「自分の外側に悪いものを探して、それを叩くことで自分が倫理的な人間だと思おうとする」人々に対しての静かだが、鋭く辛辣な皮肉と怒りをここまで洗練された物語に昇華させ突きつけてみせたところにとても心を揺さぶられる。近未来SFであり、現代をカリカチュア的に描写した極めて批評性の高い同時代小説でもあるこの作品は何度読み返してもとめどもない魅力と啓示をもたらす優れた物語です。

★★★ Excellent!!!

 読んでていて、未来がこうなる可能性があると思い、怖くなった。
それでも多分、この主人公のように新しい時代の子供たちは、平気で暮らしていくだろう。何も疑問には思わず、日常を生きる。

だからこそ、今の時代だからこの話に心を動かされるだろう。
クローンや人工知能、万能細胞だと言われているips細胞だってそうだ。人間は新しく別のものを作る技術を着々と進歩している。

今だから、きっとこの現代だからこそなんだ。


私個人の意見では、こうなって欲しくはないですね。


★★★ Excellent!!!

現実に興りつつある、いくつものパラダイムシフトを、さらっと作品に落とし込む実力と感性。スピード感。
プレゼンも含め、著者の魅力や才能が凝縮された作品だと思います。もっと読みたい。

フォルカスや主人公が感じたような、切実な違和感の総体は、どんな未来を作るのか?

★★★ Excellent!!!

 もし仮に、人間がコピーしか必要としなくなったら、世界はどうなるだろう、と考えた。きっと、人間の必要性すらなくなるのではないか。
 現在、食品には「遺伝子組み換え大豆不使用」とか「有機栽培」とか自然なものが安全なものとして、表記されている。それが反転した世界に主人公がいる。
 主人公は「自然な肉」を食べたかった。それは人間が自然に生きることの意味を読者に問いかける。

★★★ Excellent!!!

他の方がおっしゃているように、何十年後かに読まれた時、どういう感想を抱くか。
まさかこんなことあるわけない。そう否定したくても否定できない。そういう恐怖がここにはある。
今この話に恐怖する人が、何十年後かには少数派になるかもしれない。
ぜひ、読んでほしい。そして今抱いた感想を、恐怖を、ずっと忘れないでほしい

★★★ Excellent!!!

小説の中にもタバコの件などで出てきますが、もう既に、こういう倫理の逆転がかなり起こっていますよね。今正しいとされている事が、以前はとんでもだったり。。民主主義って、多数派が正しいという概念ではないんですけど、錯覚しがちです。私は嫌煙家ですが、映画やアニメの中に出てくる喫煙シーンは好きです。真似して吸ってみたいと何度も思いました。でもきっと実際にタバコをコンビニで買ってきて、家で1人で付けてみても、やはりこの小説の主人公のように、「わからない」んだろうと思います。客観だからこそいいものもあるのかな、と。それでもタバコを吸うシーンはやはりいつ見てもカッコイイ。何が言いたいのか自分でもよく分かりませんが、とにかく、“これは私(全ての人類)のことだ”と猛烈に感じました。つまり、感動しました。読んでいたら、頭の中に映像が出てきました。中盤まで主人公が女性で若いということがわかりませんが、私の頭の中では、冒頭から主人公は若い女性でした。少しびっくりしました。きっとこれから何度か読み返したくなる小説です。色んな人に、薦めます。枕目さんの他の作品も、お金を出してでも読んでみたいです。