免許合宿紀行 5日目 「袋小路の男」 

2時限目(9時20分~10時10分)

技能教習第1段階2 【10時限目】

技能教習第1段階項目2 「信号に従うこと」


「信号に従うこと」では、信号の種類と意味、警察官及び交通巡視員による手信号の意味、停止位置についての教習が行われた。


信号の意味など、教わるまでもなく解っている。

そう考えていたのだが、教習が始まって間もなく、それが思い込みであることに気付かされ、はっとした。


例えば、原動機付自転車の二段階右折については、なんとなく覚えがあったのだが、 標識や車線数によって対応を変えなければならないことは、知らなかった。


人口の少ない地域の深夜帯に現れるという黄色信号の点滅、路面電車に対しての信号である黄色い矢印、 それらについては、意味以前に存在さえ知らなかった。


話になっていない。


第1段階の学科教習を規定時限受講し、免許の取得に一歩近づいた。

それは事実なのかもしれない。


だが、学科試験に合格さえすればいい、免許を取得できればいい、という話ではない。

身分証明を1枚手に入れたところで、事故を起こせば何もかも終わりである。


ただ資格を取るためではなく、事故を起こさないために、学ばなければならない。


運転している時には、悩んだり、考えたりしている暇などない。

教本に書かれている全てを常識として知っていて、はじめて及第点の運転ができる。

高い意識だとか、そんな立派なものではない。

それはただの事実で、そして、私は怖かった。

だから、学科教習が終わったからと、気を抜くことなどできなかった。


3時限目(10時20分~11時10分)

仮免許学科模擬試験(6回目)


点数は46点。

前回に続いて合格点の45点を上回ったが、運が味方した感は否めない。

自信のない問題が幾つもあった。

正解不正解に関わらず、迷った問題は全て確認した。


午前の教習を終えると、逃れるように、送迎バスに乗り込んだ。


バスが混んでいない時は、運転席の真後ろの席に座ることにしていた。

松江市内の道を憶えるため、そして、自分が運転しているつもりになって、運転をシミュレーションするためだ。

視えないハンドルを握って回したりはしないが、密かに足を踏ん張って、ブレーキやアクセルのタイミングの練習をしたりはした。


送迎バスの運転手の方々は、流石としか言いようがない。

狭い道であっても、危なげなく通り抜けていく。

何故、こんなに軽やかに巨大なバスを制御できるか解らない。

ぶつかるか、ぶつからないか、何をもって判断しているか解らない。


何もかもが参考になるとは言えない。

車の大きさが違うし、視点の高さも違う。

足下もよく視えない。

解らないことばかりだが、それでもベテランドライバーの運転に身を任せ、道路の流れに乗るということを体感することは、意味のない時間ではなかった。


送迎バスの運転手の方々は、陽気な人ばかりで、運転席近くの席に座ると声をかけてくれた。

どこから来たのか?

お約束の問いをきっかけにして、言葉を繋ぎ、話しを始める。

そして、話しを始めれば止まらない。


送迎バスの運転手は、毎日同じ方ではなかった。

なので、毎日話題は変わった。

観光、食事、教習、甲子園、親戚、昔話、東京、島根について、様々な方と、様々な話をした。


最初は、教官が送迎バスの運転手を兼務しているのではないかと考えていたが、どうやらそうではない。

教官は、教官。

運転手は、運転手。

ピンク色のポロシャツと砂漠色のチノパン。

それぞれ同じ制服を着ていたが、それぞれの仕事は独立しているようだ。


送迎バスの運転手の方々に共通しているのは、教官よりも一周りから二周り、齢を重ねているであろうことだ。

教官をしていた方が、定年後、再雇用され、バスの運転手になっているのかもしれない。


初めて運転席に乗ってから、自動車の運転を生業とする人に対して、強い敬意を抱くようになった。

それは一時のものではなく、免許を取得した現在においても、変わってはいない。


道路が動脈であるなら、人や物だけではなく、その流れを支える運転手もまた血液そのものであろう。

彼らもまた、日本の豊かな暮らしを支える存在であることは、言うまでもないことだ。


その運転技術に憧れ、そして、重責を背負いながらも、日々走り続けられる強さに感謝する。

運転への恐怖を拭えない私には考えられない。


だから、バスを降りる時には、感謝の言葉を告げた。

皆が言っているから、言うのではない。

私が言いたかった。


自転車に乗り、そして、また松江城周辺を巡る。


「鷹の爪団の松江ゴーストハンター」を道標とするか、「吉田くんと巡る怪談の地ラリー」を道標とするか、 それが昨日と今日の違いであり、それは大きな違いだった。


昨日は、チェックポイントに行き、パネルを撮影することにただ終始したが、 今日は、チェックポイントに行き、"吉田くん"を撮影するだけではなく、そこで観光していくことを目的としていた。


「鷹の爪団の松江ゴーストハンター」が、面白くなかったわけではない。


だが、一夜をおいて、行動を顧みれば、 そこに何があるわけでもない、何かをしているわけでもない商店に行き、 掲示されているパネルを撮影しているだけと言えないこともないことに気づかされた。


走り回る中で、得られたものはあったが、それでも、少し頑張り過ぎた感があり、頭を冷やした。


ラリーに振り回されるのではなく、ラリーを参考にして観光名所を巡る。

反省を踏まえ、そう意識することにした。


まずは松江城の南にある"千鳥南公園"へと向かった。


"千鳥南公園"は、松江城がある松江市、出雲大社がある出雲市、島根県の二大観光都市の間を隔てる、 "宍道湖"の東端北側湖畔にある公園である。


宍道湖は、東西約17キロメートル、南北約6キロメートル、面積79.1平方キロメートルを誇る日本で七番目に大きい巨大湖である。


公園に到着して、まず目に入ったのは、巨大な小泉八雲の文学碑であった。

小泉八雲は、宍道湖の湖畔から望む夕日を愛したことから、ここに文学碑が立てられているのかもしれない。

その文学碑の傍には、"耳なし芳一"の銅像があり、そして、"吉田くん"がいた。


それぞれを写真に収め、それから、それらに視線をやる。

それらとは、芳一の後方に立ち並ぶ、簡易トイレのことである。


何故、こんなところにと一瞬考え、そして、今日の夜と明日の夜に催される松江の夏の一大イベント"松江水郷祭湖上花火大会"のためのものであろうと、考え至る。

必要不可欠なものであることは解るが、一人の観光客としては、何も記念碑の目と鼻の先に並べなくてもという気になった。

何れにせよ、準備は着々と進められているようだった。


千鳥南公園から、遊歩道に入ると、湖岸沿いに並べられたビニールシートの群れが見えた。

観客の準備も万端のようだ。


歩いていた女性に声をかけ、花火がどの辺りから打ち上げられるのかを尋ね、その答えに驚かかされる。

女性が指し示した先には浮島があり、そして、その浮島はあまりに湖畔に近かったからだ。


火花が飛んでこないだろうかとか、耳は大丈夫なのだろうかとか、不安になる一方で、 ここから観る花火はさぞ迫力があるのだろうなと、この辺りに座るであろう人たちが少し羨ましくなった。


遊歩道を西に少し走り、それから、北へと進路を向ける。

松江市と出雲市を繋ぐ私鉄一畑電車北松江線の線路を越え、また少し走ると、間もなく、次の目的地"大雄寺"へと到着した。


小泉八雲の著書『知られざる日本の面影』で描かれた怪談"飴を買う女"の舞台となった墓地が、この大雄寺にあるということだ。

飴を買う女は、死してなお子供を育てようとする母親幽霊の姿を描いた怪談で、怖さより、儚さ、哀しさを感じられる作品である。


"吉田くん"を回収し、境内を覗く。

お寺というのは、神社よりも入りにくいという印象があるのは私だけだろうか?

お坊さんに説教されるという心配がそうさせるのかもしれない。

ただ言うまでもなく、現実に説教されたことはないので、酷い言いがかりでしかない。

とにかく、そろそろと特徴的な門をくぐり、境内を一周し、大雄寺を後にした。


私鉄一畑電車"松江しんじ湖温泉駅"の北、つまり、この辺りは、寺社の密集地帯であるようで、 あちらこちらに鳥居や仏堂の姿が視えた。


その中の一つ、ふと視線に入った神社の前で、自転車を停めた。

「吉田くんと巡る怪談の地ラリー」のチェックポイントというわけではない。

ただ、なんとなく、気になり、参拝していくことにした。


拝殿に掲げられた提灯に神社の名前が書かれていた。

どうやら、"阿羅波比神社"という名前らしい。


阿羅波比神社 の何が気になったかと言えば、それは注連縄である。

拝殿の正面には、太くしっかりとした注連縄が締められていた。


裏手へと周り、建築様式を確かめると期待通り、拝殿と本殿が別れた細長い構造をしていた。

これは山陰地方の社殿に多いとされる"大社造り"と言われる様式である。


太い注連縄に大社造り、神奈川では、あまりみられない様式である。

遠方に来ているということを、神社の様式からも、ふと感じさせられた。


感慨もそこそこに、阿羅波比神社を後にし、次の目的地である"清光院"へと向かった。


清光院は、芸者"松風"の怪談の舞台とされる寺院である。


ある夜、恋仲の力士の家から帰る道中に、松風は横恋慕する武士に襲われる。 松風は、近くにあった清光院へと逃れようとするのだが、長い階段を昇る途中で、あえなく斬りつけられてしまう。

それでも、松風は懸命に階段を昇り、なんとか、本堂へと入るのだが、しかし、その先にある位牌堂へと続く階段の上で、ついに力つきてしまう。

その後、位牌堂の階段からは、拭いても拭いても血が噴き出るようになった。


松風の怪談とは、そんな階段の怪談である。


"清光院"の前には、立派な階段が聳え立っていた。

この階段こそ、松風が恋慕に狂った武士に襲われた場所なのだろう。


私は寺社仏閣の前に立ちはだかる、長い階段が好きである。

現界から異界へと、境界を超えて踏み込んでいく、そんな錯覚が好きなのだ。


ただ一方で、長い階段が嫌いな人もいる。

長い階段はよくない、そう主張せんがために、松風の怪談がつくられたのだと考えてみると、面白くはないだろうか?


階段を昇り、境内を進んでいくと、声が耳に触れた。

何を言っているか、何を伝えているか、解釈できない音のような声。

本堂では、檀家であろう人々が集まり、読経を行っていた。


独特の音、独特の厳かさが、夏の寺に響き渡り、心を癒していく。


長い階段を降り、次の目的地"月照寺"へと向かう。

清光院と月照寺は隣接していたため、 自転車に乗っている時間より、自転車を停める場所を探したり、鍵をかけている時間のほうが長かった。

清光に月照とは、なんとも風流な寺院が並んでいるものである。


ちなみに、阿羅波比神社、清光院、月照寺は、それぞれ、松江市立第一中学校の南、西、北に隣接している。

寺社仏閣に囲まれた学校環境というのは、中々に趣があっていい。


入り口で"吉田くん"を撮影し、人のいない案内所を抜けて、境内へと入る。


月照寺は、松江藩主松平家の墓所として、そして、"寿蔵碑"と呼ばれる巨大な亀の形をした石碑があること場所として、知られている。

夜になると動き出し、人を食べたという大亀の伝説は、小泉八雲の随筆『知られざる日本の面影』においても紹介されている。

小泉八雲は、この寺をこよなく愛していたとのことで、こ墓所にしたいとも語っていたそうである。


細い道を行き、宝物殿の脇を抜け、少し歩くと視界が開け、本堂が現れた。

本堂の前には、拝観受付と書かれた看板が立っていたので、まずは立ち寄り、係の方に拝観料を払った。

まずは、本堂、そして、宝物殿を周り、それから、案内に従って、寺の奥へと進んだ。


月照寺は、深く広かった。

飛び石に導かれるままに、奥へ奥へと歩き続け、松江藩の藩主の廟墓を巡っていく。

それぞれの廟の前には門があり、そして、その中には、碑のような墓が鎮座していた。


月照寺は、奇妙な場所だった。

オカルトは好きだが、何かを感じたとか、そういう話ではない。


私が知っているお寺というものとは、何もかもが違っているように感じられた。

内と外を隔てる木々、延々と続く石の道、見事な細工が施された木の門、石の鳥居、奥に覗く巨大な五輪塔、 緑に苔むした石畳、廟を囲う無数の石灯籠。

広いのに狭く、透明なのに薄暗く、静かに朽ちている。

お寺というより、墓所であり、墓所というより、遺跡のような、そんな空気だった。


続いていく石の道と繰り返される廟墓の構造は、方向と位置を失わせる。

道があり、門があり、墓がある。

道があり、門があり、墓がある。

道があり、門があり、墓がある。

『三国志演義』で蜀漢の軍師"諸葛亮"が"夷陵の戦い"で敷いたとされる"石兵八陣"を想起させた。


歩き続け、歩き続け、歩き続け、そして、ようやく、"寿蔵碑"の下へと辿りついた。


寿蔵碑は、正に、大亀だった。

ただの亀ではなく、大亀だった。

巨大な石碑を背に載せた、巨大な亀の石像がそこに静かにいた。


大亀をぐるりと周り、その背に聳え立つ石碑を仰ぐ。

大亀だけではない、その背にある石碑も相当なものだ。

大亀の大きさ、石碑の高さ、それぞれに圧倒される。


だが、禍々しさは感じない。


威圧と知性と意志、それらの調和した姿。

神話や伝説に登場する高位の魔獣を想起した。


一巡りし、本堂へと戻ると、知らず、ため息が漏れた。

世界が広く、明るくなったかのように感じられ、ぐっと背を伸ばし、息を吸った。


月照寺を背に、北西へと視線を向ける。

松江城周辺に張り巡らされた小路を走り、次の目的地"児守稲荷神社"を探した。


松江城の外周には、解りやすく走りやすい道が走っていたが、敢えて、そこは走らなかった。

同じ道を何度も走っても面白くない。

だから、小路を走った。

小路はいい。

小路は、車が走り抜けていく道路とは、空気が違っている。

それがいい。

気が休まる。

思いがけない何かに出会ったりもする。

だから、小路が好きだ。


水路に阻まれながら、右に左に進路を変えながら、松江城の北西へと抜ける。

間もなく、目的地と現在位置が重なり、ペダルを回す足を止めた。


そこには公園があった。

滑り台、鉄棒、ブランコがあった。


公園の入口には鳥居があり、公園の一角には神社があった。

逆なのであろうことは解る。


本来は、神社ありきなのだろう。

だが、どうにも、公園の存在感が強すぎて、神社の存在が霞んでいる。

児守の名を冠する、この神社にとっては、おかしなことではないのかもしれない。

何れにせよ面白い。


児守稲荷神社は、子供の病気、おねしょが治るというご利益で有名な神社だそうだ。

現在も、信仰は息づいているようで、社殿の前には、おねしょが治るようにと書かれた、たくさんの願いや絵が掲げられていた。

絵馬もあったが、それほど数はない。

願いや絵を書いた紙を捧げるというのが、この神社でのやり方なのだろう。


小泉八雲は、この紙に書かれた願いや絵が書かれた紙に興味を示し、たびたび足を運んでいたとのことだ。

著書『知られぬ日本の面影』でも、児守稲荷神社のことを、紹介している。


児守稲荷神社の次の目的地は、松江城の北西、堀川沿いにある"普門院"という名の寺院である。

茶人"不昧公"こと、松江藩七代藩主松平治郷、縁の茶室"観月庵"があることで知られる寺院であるのだが、それだけではない。


小泉八雲の著書で紹介される怪談"小豆とぎ橋"の舞台である"小豆とぎ橋"がかつて近くにあった寺院であるのだ。


とはいえ、おどろおどろしい空気がないのは、小豆とぎ橋が既に失われているからであろうか?

"普門院"の正面にあるのは、"普門院橋"であり、小豆とぎ橋ではない。

小豆とぎ橋は、普門院の裏手にあったとのことである。


普門院の門前で"吉田くん"を撮影し、そこそこに境内を覗き、それから、南下した。

時間を気にしなければならない時間になっていた。


先日、入館した松江ホーランエンヤ伝承館に道中立ち寄り、撮り逃していた"吉田くん"を撮影した。

それから、付近の店舗を幾つか回り、「鷹の爪団の松江ゴーストハンター」のパネルを撮影しつつ、昼食を考えた。


写真店の前でパネルを撮影し、ふと振り返るとそこには、都合よく、らーめん屋さんがあった。

お店の外観は、如何にもな中華料理店風のそれではなく、木造の戸に白い布がかけられた日本のらーめん屋的な小洒落た佇まいをしていた。

期待できそうだと、勝手に期待した。

判断基準は我ながらよく解らない。

とにかく、入ることに決めた。


店内に入ると、先客が2組いた。

みたところ、テーブルの上に、らーめんはない。

がらんとしていれば、それはそれで不安になるとはいえ、時間が掛かるのは望ましくない。


やや考え、大丈夫だろうと判断し、席についた。

白湯ラーメンの大盛りを頼み、待つこと、そこそこ。

時計を凝視していると、器が運ばれてきた。


美味しそうである。


乳白色のスープに細麺。

中央には、真白いもやし、青葱、魚粉、そして、味噌玉。

手前にはチャーシューが2枚。


一瞥しただけで、こだわりが感じられる一杯だった。


まずはスープを一口。

あっさりしている。

あっさりではあるが、薄いという感じはしない。

麺をすすり、もやしをかじる。

美味い。


半分ほど、麺を食べたところで、魚粉を絡ませたり、味噌玉をスープにとかしたりして、味の変化を楽しむ。

これも美味い。


先日のお昼に食べた蕎麦と同様に瑞々しさを感じた。


食べ物に含まれている水が美味しい。

根拠はない。

だが、そんな気がした。


ごちそうさまを言って、店を出た。


大盛りだけあって、お腹はいっぱいである。

とはいえ、問題はない。

走れる。

問題があっても、走らなければならないのだが、とにかく、自動車学校を目指して走りだした。


7時限目(14時20分~15時10分)

仮免許学科模擬試験【7回目】


46点。

合格点である。

安定感はあるが、意外と伸びてくれない。

路線バスに関する問題で悩むことが多いことに気づき、重点的に復習した。


8時限目は空いていたので、自習室へと移動し、配布されていた問題集を終わらせた。


それから、運転教本で「狭路の通行」について復習する。

書いてあることは解る。

何を書いてあるかは解るが、どう運転すればいいかは解らない。


9時限目(14時20分~15時10分)

技能教習第1段階 【8時限目】

項目10 後退

項目11 狭路の通行(復習)


解らない。

解らない。

解らない。


そのつけがついに回ってきた。


MT車での「狭路の通行」は、解っていなければできない。

つまり、解っていない人間をふるいにかけるためのものなのだろう。


無様であった。

ごまかし、ごまかし、どうにか、ここまで来た。

そして、破綻した。


まず、半クラッチというものを理解していない。

こうすれば、半クラッチになってしまうということをただ知っているだけで、理解していない。

だから、速度を制御できない。

低速を維持できない。


低速が維持できないのに、「狭路の通行」をクリアできるわけがない。

できるわけがない「狭路の通行」を繰り返し、教習は終わった。


10時限目(14時20分~15時10分)

技能教習第1段階 【9時限目】

項目11 狭路の通行(復習)

項目12 通行位置の選択と進路変更

項目13 障害物への対応

項目14 標識・標示に従った走行

項目15 信号に従った走行

項目20 踏切の通過


まず行われたのは、「踏切の通過」であった。

これは特に、難しいことはない。

手順を覚えてしまえば、どうということはない。

シフトアップさえしなければ、エンストすることもない。


「狭路の通行」以外の項目は、自然な運転ができているかを問うといったもので、新しい何かを学ぶのではなく、 学んだことに磨きをかけていくための教習であった。

難しい操作はない。

だが状況の判断は難しい。


右折、左折する交差点を教官に番号で指示されるのだが、 交差点の場所と対応する番号を把握していなければ、まず立てられた看板を探さなければならず、 そして、発見が遅れれば、操作が慌ただしいものになってしまう。


教習コースを覚えてしまえば楽なのだが、果たして、それでいいのか釈然としない。


とにかく、「狭路の通行」で引っかかりながら、言われるがままに運転し、時間を終えた。


この2時限の教習で、かなり追い詰められた感があった。

気持ちは沈んでいた。

かなり、ぼろぼろだった。

「このままで大丈夫だろうか?」という不安が、確信に変わっていた。


糸口は見つからない。

教本を読んで、運転ができるようになるなら、教習は要らない。

教本を読む必要がないということではない。

読むことは絶対に必要だ。

だが、それだけでは運転ができるようにはならない。


そして、教官が指示するまま、操作しても、運転ができるようにはならない。

自身で考えて、自身で判断し、自身で感覚をつかまなければ、成長はない。


だが、一人で運転することはできない。

必ず隣には教官が座っていて、やることは決められていて、指示されるがままに運転しなければならない。

1日に2時限と時間も決められている。


出来ないままにしておくというのは気持ち悪い。

気分が悪い。

不安を克服するためには、できるようになる他ないということを知っている。

だが、身動きが取れない。

できることがない。


半クラッチができないことは解っていた。

やりたいのは半クラッチの練習である。


合宿でなければ、つてを頼って軽トラを借り、深夜どこかの駐車場で黙々と半クラッチの練習をするという手も考えられなくはなかった。

だが、現在の状況、現在の環境では、それを行うことは困難だ。


頭の中で、あれやこれやと考えながら、ペダルを回していたら、ホテルについていた。

ため息しか出ない。


夕食は、ホテルのレストランで食べることにした。

色々な店を回って解ったことは、ホテルのレストランは、悪くないということだった。


ウェイターに声をかけ、ソースカツ丼を頼んだ。

沈んだ気持ちをどうにかしたかった。


ソースカツ丼は、それはもう驚くほどに美味しかった。

さくさくだとか、じゅーしーだとか、そんなことは、どうでもいい。

美味しかった。


がつがつと食べた。

少し涙が出た。


部屋に戻ると、縋り付くように、オンラインゲームを起動した。

孤独と不安をまぎらわせるために、繋がりを求めた。


遠くで花火の音が響く中、彼方にいる友人たちと言葉を交わし合った。


■本日の支出■

月照寺拝観料(大人)

500円


白湯ラーメン大盛り

750円


合計

1250円


■本日のチェックポイント■

⑤大雄寺

⑥千鳥南公園

阿羅波比神社

⑩清光院

④月照寺

⑪児守稲荷神社

③普門院

②ホーランエンヤ伝承館

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