残酷であるが故に、美しくもある。思索的SF文学の、紛れもない傑作

SF、サイエンス・フィクションの本質とはなんだろう。

未来への希望を喚起するもの。
科学技術や理論偏重の世界に警鐘を鳴らすもの。

そして、ある科学的な思想や技術から導き出される、人間と人間社会、その文明の本質を描き出すもの。

人間という存在の本質、普遍的な真実を描くことが文学の要件なのだとすれば、これは紛れもない文学であるはずだ。


ある日、自殺したわたし。
その人格を電子的に再現した‘わたし’
そして、奇跡的に蘇生し、その代償としてあるものを喪った“わたし”。


人間が人間たる本質はどこにあるのか?

近年では、ハヤカワSFコンテスト大賞作品の「ニルヤの島」、古くはフィリップ・K・ディック「ユービック」など、現代社会の科学技術や資本主義にまみれた生活の中で、その認識をアップデートしようという試みは、SF文脈の中で繰り返し行われてきていますが、この作品は間違いなく、その最新版です。


科学技術が「社会」と結びつき、インターネットを生み出した後、21世紀にはそれが個人の意識と結びつきました。それがソーシャル・ネットワーク。

それを踏まえればこそ、この作品は、個人の意識の問題につあて、過去のSF作品が踏み込み得なかった領域にまで踏み込むことに成功しています。



なんでこんなすごい作品がしれっと転がってるんですかw
現代日本のSF文壇の最高峰レベルですよ!!

この時代に生まれ、この作品にリアルタイムで出会えたことを感謝します。

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