優しさが悲しさに耐えきれなくなる瞬間に捧げる歌

ナチスの支配下にあるユダヤの孤児院で暮らす、人魚の血を引いた少女の物語。

こう書くとファンタジックな設定ですが、作者の確かな知識の元、描かれるリアルな歴史的背景の上でそのファンタジーが美しく、そして悲しく描き出されます。

第二次世界大戦の情勢下、ユダヤ人である主人公やその仲間たちの置かれる状況は次第に悪くなっていきます。
しかし、そんな中にあっても主人公の少女は希望を失わず、歌い続け、子供たちに希望を与え続ける。


柔らかで優しい文章がその姿を紡いでいきますが、戦争と虐殺の惨状にその柔らかさが耐えきれなくなるかのように、悲劇が溢れ出る瞬間が印象的な作品でした。

しかし、この作品はただ戦争の悲劇を描いただけのものではありません。
その運命に向き合い、苦しみながらも前を向いた主人公の意思が丁寧に描かれる様は、「ホロコースト」という歴史の教科書に載った言葉の裏にあった幾万の人々の息遣いを感じずにいられません。
それはきっと、作者がこの時代を見る視線なのだろうか、とも感じました。


素晴らしかったです。
超おすすめです。