命散り、花が咲く。

 冠婚葬祭、人生の節目を飾る行事には、往々にして花が捧げられます。
 時に、二つの人生を交える夫婦を祝うために。
 時に、一つの人生を終えた故人を送り出すために。

 古来より、土葬されたと思しき遺骨の周りには、大量の花が添えられていたと言います。
 遺体の保存や処理にとって種々有利な科学的要因を見出すことはできますが、それが本質だとは思えないくらいに、人と花の繋がりは深いものです。

 つまり、それは科学的合理性に裏打ちされた行為では無く、文化的に装飾された行為でもなく、むしろ人間が持つ原初的な――感情の根っこから湧き出す――衝動に基づく行為なのではないか。
 死や出会い、門出といったイベントに立ち会う時に、人は自然とそうしたくなるのではないか。

 一度、そんな風に考え出してしまえば、次にこう問わざるを得ません。
 ――――ならば、どうして人は花を捧げるのか、と。
 本作「御伽術師・花咲か灰慈」は、それに一つの答えを示している作品ではないでしょうか。

 花とは、植物が次代へ命を繋ぐために咲かせるモノ。
 一つの人生が終わった時、残された遺灰に花を咲かせる――――残された者が前に進む為の区切りとして”葬儀”を捉えるなら、その構図はあまりにも自然に、根本的に繋がるものでしょう。
 『花咲か爺』という誰もが知る題材を用いて、短い分量の中でそれを描かれたことは、ひとえに見事な着眼点・技量だと言わざるを得ません。

 命散り、花が咲く。
 その意味を問い直したくなったあなたに、オススメの一作です。

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