重厚な世界観や設定資料集かと見紛うばかりの専門用語の羅列――そのような退屈な説明文は、継王蒼機ザナクトには存在しない。
描かれているのは、どこまでも青い空を穿つ、蒼の巨躯。
兵器が人型である理由を突き詰めた結果、セカイ系のストーリーテリングこそが最適解であると、筆者は思い至ったという。
必要最小限度さえ削ぎ落としてしまったかのような文章からは、極限まで研ぎ澄まされた鋭利な感性が迸っている。
物語構造もシンプル。セカイを再起動できる謎の銀髪美少女を軸に、主人公と敵が記憶や過去を巡って戦い、概念的資源を奪い合う。
彼らの交錯した人間関係が、三角関係の恋愛模様がロボットの仕様にまで接続されていることに気付いたとき、読者はセカイ系とは何たるかを知るだろう。
セカイ系が好きな人、セカイ系という異世界を覗いてみたい人、とにかくかっこいいロボットバトルシーンを読みたい人たちにオススメの一作。
「継王蒼機ザナクト」という物語は、事あるごとに"リソース"という概念を持ち出してストーリーを駆動させて行く。
それはエネルギー残量を厳密に管理しなければならない戦闘レベルでもそうだし、
そもそも登場人物たちが身を置く闘いの図式からしてそうだ。
既にあるリソースを消費する形で、物語は進んで行く。
あるいは元々在ったものさえ擦り減らして、後退して行く。
"既に滅んだセカイ"同士が喰らい合わなければならないという、壮大なゼロサム形式のバトルロワイヤル。もう新しい何かを造り出そうとする働きを止めてしまったセカイで、それでも少年と少女は出逢った。
出逢って同じ時を過ごし、共に肩を並べて戦った――――
もしもこの何もかもが停滞したセカイで積み上げられて行く何かが有り得るとすれば、それは二人の積み重ねて来た時間であり、経験であり、記憶かも知れない。
だからこそ
ただ、無常にすり減って行くセカイで出逢った二人の行く末こそが、きっとこの閉ざされたセカイの出す答えにも直結するはずなのだ。
何故ならこれはセカイ系なのだから!
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作品を形作る表面的な要素以上に、ストーリーとテーマこそがセカイ系としての濃度を高めていると感じる一作です。
是非、あなたも読んでみては!