"花葬り"は、言葉を絶たれた死者の、汲めども尽きぬ想いを咲かせる――

なんの変哲もないただの高校生がよくライトノベルでは活躍しているような印象が持たれがちだし、実際そう供述している主人公は少なくなさそうだが、この桜庭灰慈少年は決してそういうことではなく、花咲かじいさんを祖先とする第15代花咲師で、なんと人間国宝だそうだ。

では花咲師はなにができるのか。
昔話を紐解けば推測もたやすいが、灰を花に変える能力を持つ。

ではそれを用いてなにをするのか。
彼らのもっとも大きな仕事は"花葬(はなはぶ)り”。
火葬されて残った遺灰を美しい花に変えるのだ。

だがその花は常に葬儀にふさわしく、適切な美しさで咲くわけではない。
弔いの気持ちを持たず、死を冒涜する人間関係では、どんなに艶やかに咲いた花も、単なる溢れた絵の具のようなものでしかない。

単なる灰を咲かせるのではなく、そこに残る人の気持ちを咲かせようとする 灰慈と、彼を取り巻く人々の息遣いが、繊細な文章とともに伝わってくる秀作である。

(必読!カクヨムで見つけたおすすめ5作品/文=村上裕一)

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