和菓子屋の娘である鈴本杏は、なじみの本条家へおはぎを届けに行く道中、本条の嫡男だという克哉に出遭った。彼は使いの褒美だと言い、見知らぬ菓子をくれて……初めて味わった濃厚な洋菓子の甘みは彼女の心を捕らえて放さず、しかして5年の後に再会。そこから杏の新たにして甘い人生が幕を開けるのだ。
文明開化な風情匂い立たせる和風世界を舞台にしたこの作品、ひと言で語るならば「ロマンス」でした。和菓子しか知らなかった杏さんが洋菓子と出遭ったこと、そして彼女に出遭いをもたらし、甘味の供給源にして歳の差恋愛のお相手・克哉さんと出逢ったこと。どちらもけして飾り立てられているわけではないのに、著者さんの筆が書き起こして掻き起こすもの――杏さんの自分へ対するマイナス感情や甘味への思い、克哉さんへの想いが風情として匂えばこそ、読者の心の真ん中に「ああ、これは運命だ」と刺さるのです。
とはいえ物語は直ぐに進みません。まるで朝のドラマのように山あり谷ありな杏さんの物語、甘いロマンスと共にどうぞお楽しみください。
(「その恋はお腹から」4選/文=髙橋剛)
おしゃべりが大の苦手で引っ込み思案な性格の杏ちゃん。和菓子店の娘である彼女がおつかいに出た先で迷子になってしまったところからこの物語ははじまります。
迷子の彼女に手を差しのべてくれたのは、おつかい先である本条家の子息、克哉でした。
舞台は文明開化の真っ只中。激動の時代はときにあらがいようのない悲劇を運んできます。
それでも、美味しいものを食べれば元気になれる。
登場する人々がみなとてもあったかくて、こころが自然とほどかれていくような心地がする物語です。
そしてなにより、お菓子づくりの描写が! ほんとうに美味しそう! 必見ですよ!
お菓子を通じて人の心が通い合う……これはいつの時代も、どの方にも経験あるのではと思います。
あら、そこの可愛らしゅうお嬢さんは、おうちのお遣いですね。偉いお宅にいらしって素敵な殿方とあい見えたやうです。
でもこのお嬢さん、お喋りはとても苦手で、緊張してしまいがち。
若い青年は手を差し伸べ、甘いお菓子で心も溶かします。
たゞ西洋の小洒落た菓子は馴染みのない日本でございます。初めて聞く名前の響きや初めて口にする菓子の感動が、近代文学で目にするやうな趣ある書体で綴られ、読み手も共に味わひ……
温かな登場人物のそっと寄り添うような振る舞いも一つ一つ、心に灯りを点すお話し、ひと皿貴方様も如何でしょうか。
文明開化、新しい文化がどんどん取り込まれている時代の活気ある世界観です。
主人公の杏は和菓子屋の娘。人とのお喋りが苦手でどもってしまう事があり、悪循環の結果、引っ込み思案で臆病でおどおどしている女の子になってしまっています。
和菓子を届けている本条家子息の克哉と出会う事により、杏の世界も文明開化していくように広がって行きます。克哉が作ってくれる洋菓子の珍しさ、親切にしてもらい、お菓子作りを通して気づく事もあったりして、彼女はゆっくりですが確実に自分を成長させていきます。
まだまだ手に入りにくい素材がある時代の洋菓子作りを通し、精一杯頑張っていく少女の成長と、周囲の人の温かさ。ほっとするエピソードがたくさんの、優しい物語です。