モルモット小隊の帰還

第2話 基礎動作習熟訓練その1（レッスンワン）

〈俺〉は、〈女先生（ドクター）〉に続いてドアをくぐる。

白い無味乾燥（むみかんそう）な部屋。

特徴（とくちょう）がないのが特徴（とくちょう）といった案配（あんばい）だ。

壁の一面が、鏡面（きょうめん）となっている以外は。

〈女先生（ドクター）〉が壁面のパネルに触（ふ）れると、鏡（ミラー）だったその1面が透過（とうか）した。

マジックミラーだ。

そこに映（うつ）し出された光景（こうけい）に〈俺〉は目を疑（うたが）った。

均整（きんせい）の取れた裸身（らしん）の少女……。

だが、何か違和感がある。

〈俺〉は、その違和感がどこから来るのか気づく。

少女の裸身には、乳頭（にゅうとう）も陰毛（いんもう）もない。

まるで、マネキン人形のようだ。

そして、何より動きが滑（なめ）らかではない。

どこか、ぎこちない。

そうか、これが新しい〈AIユニット（かのじょ）〉の身体（ボディ）。

「ある意味、最先端」とはこういうことか……。

なるほど、イベント会場に〈四脚（よんきゃく）〉は馴染（なじ）まない。

火力（ファイヤパワー）や大出力（ハイパワー）は必要ないが……。

とにかく、会場で目立たないモノ。

そいつが、今回の任務（ミッション）にはふさわしい。

なるほど。

二足歩行の〈二脚（にきゃく）〉タイプならば、会場に溶（と）け込むことができる。

そして、〈俺〉はそのとき、顔の向きが変わってチラリと見えた〈二脚（それ）〉。

〈二脚〉の身体（ボディ）に載っている顔が、さっき見たファイルの笑顔とそっくりなのに気づく。

そのとき、壁の端に取り付けられたスピーカから声が響（ひび）いた。

「きゅうけい（休憩）しよー」

「解（わか）った。

　15分インターバルを入れよう」

「おさんぽがイイ」

「外へ？」

うなずく、〈AIユニット（かのじょ）〉の〈二脚（にきゃく）〉の身体（ボディ）。

「ちょっと待って。

　許可を……」

そう言うと〈若手男性医師（サージョン）〉は、壁のインタフォンを手に取った。

プルル、プルルと、こちらの部屋のインタフォンが鳴る。

〈女先生（ドクター）〉が受話器を取った。

「〈女先生（ドクター）〉？

　聞いていましたか？

　付き添いは自分が……。

　ええ……」

「〈隊長（チーフ）〉！

　そこにいるんでしょ？

〈隊長（チーフ）〉といっしょがイイ」

「え？」

「……」

「……」

地獄耳というのか、地獄目というのか……。

〈AIユニット（かのじょ）〉の辞書に「秘密」の文字はなさそうだった。