流転の令嬢、敢えてそれ以上語られない「その後」

上海を舞台にした哀愁漂う物語を多く書いておられる吾妻さんの短編です。
主人公はもともとは上海の人ではなく、北平(今の北京)の名家の令嬢です。
彼女が15歳のとき、婚約者、というよりは婚約していた家門から破談を告げられるところから物語は始まります。
そのときの彼女の心情の描写、また上海に行くことになった経緯……それらは決して長く語られているわけではないのですが、だからこそ逆に想像が膨らみ、引き込まれます。
想像が膨らむ、といえばこの物語のラストがまさにそうなのです。
人物や時代の空気をしっかり描いておいて、その続きがどうなるのかを託される。
気怠く頽廃感な美の中にスリリングなものがある、魅力的な作品です。