10 ミナ
玄関に、妹の彼氏のオールスターが並んでいた。部屋から小さく笑い声や話す声がしていた。おばあちゃんの部屋からTVの音が聞こえた。
「ただいま」
照明が消えた部屋からは返事がなくて、おばあちゃんは眠っているみたいだ。点けたままのTVを消してドアを閉めた。
オフロは大好き。LUSHのバブルバーをバスタブに投げるとピンクが弾けて広がっていった。ローズジャムの香りのバスタブの中でジュンの言葉を思い返した。
『友達のままでおるのは無理』
ピンクの液体に閉じ込めるようにさっきまでのことを思い出していた。
ジュンは店の仕事のことをどう思っているんだろう。
自分の店の女の子たちのことは尊重しているみたいだけど
「どんなにかわいくても腹黒すぎてこわい」
と言っていた。
同じ店の美嘉ちゃんは自分や同業者のことをまとめて 「腹黒」 と呼ぶ。
自尊心と自嘲と、親しみを込めて。
オフロから出て、妹の彼氏を車で送った。日付が変わる頃、妹と二人で帰ってきた。
オーディオの光が消えてエンジンも音楽も止まったガレージに降りる。
暗い部屋に戻ると置きっ放しだった携帯のランプが点滅していた。
外を歩いているような音とジュンの声。
『さっき二回かけたんだけど……マジで寝とったの?』
ジュンは接客中の女の子を待つ間に店のチラシをポスティングしていた。
「今度の休み、予定決まった?」
『まだ、だけど……。遊んでくれるの?』
「あさってオジロとDSが来るんだよ。ミナは友達と行くんだけど、ひとり呼んで来ない?」
『オジロってオジロ何とかってやつら?』
「オジロザウルスとかって人たち」
『友達って男じゃねーよな⁉︎』
「女だよ。鶴舞のEXITってクラブなんだけど」
『JRの高架下んとこだろ。相方がおるで連れてくわ』
OZROSAURUS "ROLLIN' 2000"
5.19[FRI] @EXIT TSURUMAI, NAGOYA
DOOR 21:00 START 22:00
CLOSE MID
ベッドの上の雑誌をとる。美嘉ちゃんと行く約束をしているライブのフライヤーがはさんであった。
そういえば。まだ本当の歳を言っていなかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます