15 カオリ
どこかで微かな音が響いてる。
眠っていたのか、目を閉じていただけなのか、はっきりしないまま時間が過ぎていた。
砂利の上を歩く音が聞こえて目が覚めたのかも。
誰かが車に近づいて窓を叩いた。天井から張られた大きな布をめくって外を確かめる。
フロントガラスの向こうの空は少しだけ明るくなってる。
フロントガラスを叩いていた警備員ぽい人に、車を移動させるように言われていると、ジュンが起き上がって何も言わずに運転席に移った。
ジュンは眠っていたのかな。
ミニの隣に車を動かして中の二人を起こす。
ケイタは半分寝ている感じでジュンと話していた。
「おはよ」
美嘉ちゃんはまだ毛布の中で眠そうな目をしていた。
「うちら十一時から仕事なんだよね」
「じゃあ今日は仕方ねぇで解散か。家までは、おまえが運転してけよ」
ジュンは嫌がるケイタを無理矢理ミニに乗せて、私にアストロに乗るように言って運転席に戻った。
「着くまで寝てていーよ」
空はさっきよりも白くぼんやりと一九号線の上に広がっている。
せっかくだし目を閉じたけれど、眠れなかった。運転しているジュンの横顔にたまに話しかけた。
ジュンはいつもの笑顔じゃなくて黙って運転し続けていた。
まだ眠いんだろうと思っていた。
ケイタの家の近くだって言う大きな電器店の前に車をとめて、寝ぼけているケイタと入れ替わってミニの運転席に座った。
スピーカーからMACCHOの声がまだ車が少ない通りに溢れた。クラクションに手を振って、Uターンして行くアストロを見送った。
美嘉ちゃんの家に向かってハンドルを切る。
「ケイタが『ジュンたち絶対やっとるで見に行かん⁉︎』って言ってたし。行かないし!」
「絶対とか。やっとらんし。少し話してから寝たよ」
「そっか。ケイタはフェラしてって言ってきて。ま、いーかってしてたんだけど。向こうも触ってきたけど酔ってたし寝た。付き合うってかしたかっただけ? それか財布にしたかったか? あいつもういらねー。……ケイタがさー『ジュンは高校んとき百人斬りだった』って言っとったよ」
本当に何もしていないし、そんな雰囲気さえなかった。
百人斬りとか学校の全部の女とやった話はしなかったけれど高校は一年の夏休みで辞めた、とジュンは言っていた。
給料日前の土曜日の店はのんびりで、昼は少し眠ったり常連が来たり夕方まで過ごした。
三人目の接客が終わってから携帯を開くとジュンから何件か着信が入っていた。
五時過ぎに『今起きたよ』ってメール。少し前の着信に『空いたら電話して』ってジュンの声が残っていた。
メールを返して、メイクを直しながら煙草を吸っていると返信が届いた。
『聞きたかったことがあって。俺たちって本当につきあってる?』
返信の途中で、メール画面が着信に切り変わった。
「いま、返事しとったのに」
『気が合うが。……店、忙しいか? 土曜だし』
「今日はそれほどでもないけど、もう少ししたら行くから。次入った後はご飯食べるし、そんとき電話する」
『何時くらい? もう仕事始まっとると思うで出れんかったらごめんな』
「じゃあ店が終わってからにするよ」
『暇だったら電話して。出れたら出るし、俺も空いたら電話するわ。……あまり寝とらんし。無理すんなよ』
朝のジュンとは違う。
見えないけれど笑ってるような声で。
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