19 ミナ
昨夜からの雨は、勢いを変えずに降り続いていた。ナツを助手席に乗せて、清洲のレイタを拾った。シュウくんの車が中学生スケーターたちを乗せて付いてくる。ナツの誕生日。大阪のスケートパークを目指していた。名古屋西インターから東名阪自動車道に入る。ジュンとは一ヶ月くらい会っていなかった。大山田パーキングエリアに入って休憩した。携帯を見るとジュンからメールが来ていた。「会いたいよ。どこにいる?」きっと心もジュンの遠く。名古屋から大阪に向かうにつれてジュンから体も心も遠退いて行くような気がしていた。大阪。りんくうのスケートパークで着信があった。――ジュン。
『どこにおるの?』
「大阪……」
『大阪? 誰と……?』
「スケート友達と一緒にスケートパークに来とるの」
『そうか……会いたかったな……』
「あたしも。会いたいよ」
私はランプに入れない。ナツの今回の目標は私がドロップイン、R面に倒れこんでランプにエントリーする、を出来るようにすることだった。中途半端な体重移動だと、後ろ足に重心が残って摺り落ちてしまう。ナツは自分一人で擦り傷や怪我をしながらドロップインをマスターしたらしい。このスケートパークのランプには、私の練習用に怪我をしないような網の塊が置かれていた。そしてナツが私のスケボーを全力で支えていた。
「まだダメだね。もっと本気で体重を載せて。絶対支えるから」
ナツを信じて全体重を左足にかける。ナツはしっかりと両手で受け止めてくれた。
「オッケー。今の感じなら絶対大丈夫。Rにボードをぶつけるように入って」
それでもナツが支えていないボードの左足に全体重をかけることが出来なかった。私は右足に体重を残したままランプの頂上にボードを浮かせて腑甲斐なく立ち竦んでいた。小学生や中学生のスケーターが笑って眺めていた。私は一度もランプにエントリー出来なかった。
「今日は彼女は家族と予定があるんだって」
ナツが見せてくれたプリクラの彼女はストレートのボブヘアで、パルコの西館の雑貨屋にいた女の子に似ていた。
「ほんとかな」
「電話してみようか」
言ってはいけなかったと思った。本当に。投げやりにナツが調子を合わせてきても何も言えなかった。
「彼氏ってフォルダに番号が入っとるけど、これって消し忘れたんだよね」
運転しながら驚いて助手席のナツを見ると私の携帯を持っていた。
「うん」
「そうだよね」
ナツはスケボーの絵の上に「NATSU」と描いた。身を乗り出して、運転席側の曇ったフロントガラスに指でスケボーとその上に「MINA」と描いた。
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