まるでギャグにも思えるようなタイトル。
百人にも満たぬ限界集落の中で起こるゾンビ騒動という内容。
「なんだ、変則的なゾンビ物か」と思わせるようなキャッチコピー。
だがそこから想像される、ともすれば一般人が「ゾンビ物」と聞いて想像するパニックホラーとは一線を画した良質な一作。
それがこの「限界集落・オブ・ザ・デッド」。
1話において「留人(ゾンビ)」となった老人の姿は物悲しさすらあり、それを処理する「送り人」である恐山の姿は、淡々としながらも胸にくるものがありました。
限界集落でありながら、出て来る爺さんたちが格好いいんだ。
「留人」の存在を受け入れ、それでも生きていく人々の姿がそこにある。
ケイの存在もまた、(出て来たときは、「ああ、若い人も出るのね」という感じだったのですが)物語の中でいい感じのスパイスとなっていました。
老人たちの中で、若さや理想といったものを体現するケイ。そんな彼が祖父であり「送り人」である恐山の背中を見て何を思うのか。ネタバレになってしまうので避けますが、これはエピローグまでぜひとも読んでいただき、個人で感じていただきたいものです。
余談ですが、ゾンビである「留人」や「叉鬼衆」などの単語にグッときました。留人となったものを殺す「送り人」が使う道具も独特で、リアルです。
短い話なので、個人的には、短編集やゾンビ系のアンソロジーあたりに、ちょっと変則的なゾンビものとして入っていてほしい一作。
死とは常に、傍に寄り添う影のようなものだ。
ぴったりと背後にいて見えないときもあれば、自分の進む先で長く長く伸びて道のような姿をとることもある。
死は命の終着地点であると同時に、自分が進む道なき道の一生において、灯台のように指針となりうるものなのかもしれない。
パニックホラーとエンタテインメントの融合として、1968年のロメロ映画作品以来、ゾンビものは脈々と進化を続けてきたジャンルの一つである。
そこには死と生の間で揺れる人々のドラマがいくつも生まれ、多くの観客を恐怖させ、感動させ、魅了してきた。
幽霊や悪霊によるホラーとは全く異なる、生ける屍“リビングデッド”を相手にするがゆえに生まれる苦悩を見事に描ききった作品は、今日でも名作として支持を受けている。
さて。この作品はゾンビものとしては異色の設定を持ちながらも、前述したゾンビものとしてのエンタテインメント性を損なうことなく、むしろ新しい可能性を提示しながら展開していく。
年老いた人々を物語の中心に据えるという、一見すれば華も何もない設定は、こと生死のドラマにおいては納得のリアリティを与えるスパイスとして機能している。
見事、と言わざるをえない。
“送り人”と呼ばれる職人の存在も物語に深みを与えており、読んでいる最中のハラハラもさることながら、読後に“命”について考えさせる役割も果たしている辺り、本当に素晴らしい。
ゾンビもののニュージェネレーション、として紹介することに何の躊躇いもない一本。ぜひ、ご一読あれ。
ゾンビとなった人々を再殺する老人と、彼の住む村を巻き込むゾンビの大量発生事件を描いた物語。
老人の郷愁やプロの誇り、そしてそれを目近にした老人の孫の成長や、家族の絆は一度読めば胸の中に深く刻み込まれる筈です。完成されたストーリーが魅力のA級ゾンビ物です! B級じゃないよ? だって作りが綿密で話としてレベルが高すぎるもの……。
と、レビューはここまでにして個人的な感想。実写化で映画とかスゴク見たいですね! 孫の役で佐野岳さんあたり嵌めたら絶対に似合うと思うんですよ! ネタバレなので言えない一部の登場人物についても色々妄想が膨らみます!
この世界観で別の話をぜひ読んでみたいです!
ゾンビ物の舞台は大別できる。
「学園」「病院」「商業モール」等の屋内型と、「世紀末」「孤島」「田舎」等の屋外型に分かれる。
両者に明確な境界線は無いし「豪華客船から孤島」みたいに複合されたりもする。
ゾンビという恐怖の曲がり角が何処に隠れているかを想像させる舞台選びはゾンビパニックの為の重要な装置に違いないはず。
そこに人口50余前後の限界集落を選んだ理由が気になってしまった。これが『介護施設・オブ・ザ・デッド』だったなら見向きもしなかった。
どうしてこの村でなければならなかったのか?それは読んで知るべし。読み終えて何を思うかは皆さん次第なので読みたくなったキッカケをしっかりと書いてみた。僕の場合はそれがそのまま面白かったんだ。
人が死ぬと留人(るじん)と呼ばれるゾンビになり人を襲う。
その様な世界観の中、とある限界集落で送り人として二度目の眠りを死者に与える主人公恐山。
普通のゾンビものは一風違った設定に興味を惹かれ、本作を読みましたが、大正解でした。
住人の殆どが高齢で総勢100にも満たない限界集落での閉塞した空気と、送り人と留人という哀れで救いが存在しない錯覚に陥ってしまう様な物悲しさ。
どこか人を惹きつける魅力を持った独特の雰囲気からこの物語は始まります。
もちろん話はそれで終わりません。
物語が動く頃に巻き起こる事件。僅かな住人はこの脅威に慣れないながらも立ち向かうことを強制され、事態は大きく動き出します。
無謀で蛮勇だけど人としての優しさを忘れていない若者。自らの役目を理解し、覚悟を持って使命に準ずる老人。
震えて逃げ隠れる人、なんとか抗おうとする人。
様々な人の生き様が魅力的で、彼らがこの後どの様な物語を紡ぐのか?と自然に感情移入させられました。
そして物語の肝となるゾンビ。
何が起こったのか? 何故この様な事態になったのか? これからどうなるのか? あれは何か?
まさに自分がそこに居る様な先の見えない恐怖とともに、続きが読みたいと強く惹きつけられページを読む手を止められませんでした。
もっと早くこの作品を読んでおくべきだったと後悔するとともに、よくぞこの作品を読んだと今の自分を褒めてやりたいくらいです。
"ホラー"を読みたい人。
是非本作を読んで下さい。恐ろしく悲しい、最高の恐怖体験をお約束します。
全体的に真剣に向き合う作者の心意気が感じられます。
人が死ぬとゾンビになってしまうという特殊な世界観よりも、
ただただ、リアルな現実を作り出す手腕に圧倒されます。
特に五感、嗅覚に関する描写が大変多く、
まるでその場にいるような空気感が伝わります。
なおかつ、送り人が常態化して、
平和になっていった日本というのも物凄くリアル。
だんだん危険に対して現実味がなくなっていく最中、
迫り来る緊急事態が半端なく、ぐいぐい読ませる。
そしてこれは私の個人的な趣味ですが、
爺ちゃんが!!!!
強い、いぶし銀の爺ちゃん達が格好良くてたまりません!!!!
それぞれの役目、それぞれの生きる場所、死ぬ場所、
そこを、自分の力の範囲内で最善に持って行こうとする。
年寄りにはやはり勝てない、経験こそ力だと、
そう思わせてくれます。
また、さりげなく「木」を「鬼」と読ませるのも見事。
マタギ衆をまさかまさか、そう読ませるとは…!!
町に古くから残るゾンビ対策の役目が継がれているのも、
熱い展開だと感じました。
爺ちゃんが好きなら本当にオススメです!!
死後、ゾンビ化するのが日常と化した世界で起こった非日常。
その正体は、ゾンビという「災害」だった。
ここまでならば、失礼ながら「よくある」舞台ではあるのです。
しかし「限界集落」という状況を持ってきただけで、ドラマが一気に色彩を帯びる!
寿命という形での「死」がぼんやりと見えてくる世代に、突如として突き付けられる「死の恐怖」
人生の盛りを過ぎ、ゆるやかに降っていく世代だからこそ、発せられる言葉にも加わっていく重み。
そこで活躍する、長い経験に裏打ちされた老ゾンビキラーの安心感と、老齢故の「もしかしたら…」と思わせる危うさ!
ゾンビパニックを勢いだけでない、静かな、じわりとした恐怖で書き出す良作とオススメします。