限界集落の魅力的なジジイたち

 まるでギャグにも思えるようなタイトル。
 百人にも満たぬ限界集落の中で起こるゾンビ騒動という内容。
 「なんだ、変則的なゾンビ物か」と思わせるようなキャッチコピー。

 だがそこから想像される、ともすれば一般人が「ゾンビ物」と聞いて想像するパニックホラーとは一線を画した良質な一作。

 それがこの「限界集落・オブ・ザ・デッド」。

 1話において「留人(ゾンビ)」となった老人の姿は物悲しさすらあり、それを処理する「送り人」である恐山の姿は、淡々としながらも胸にくるものがありました。

 限界集落でありながら、出て来る爺さんたちが格好いいんだ。
 「留人」の存在を受け入れ、それでも生きていく人々の姿がそこにある。

 ケイの存在もまた、(出て来たときは、「ああ、若い人も出るのね」という感じだったのですが)物語の中でいい感じのスパイスとなっていました。
 老人たちの中で、若さや理想といったものを体現するケイ。そんな彼が祖父であり「送り人」である恐山の背中を見て何を思うのか。ネタバレになってしまうので避けますが、これはエピローグまでぜひとも読んでいただき、個人で感じていただきたいものです。

 余談ですが、ゾンビである「留人」や「叉鬼衆」などの単語にグッときました。留人となったものを殺す「送り人」が使う道具も独特で、リアルです。

 短い話なので、個人的には、短編集やゾンビ系のアンソロジーあたりに、ちょっと変則的なゾンビものとして入っていてほしい一作。

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