ふたつの全く異なる世界でそれぞれに繰り広げられる物語。
全の章で語られるのは、不気味ですらある『村』の存在とそのしきたり。それは概念に凝り固まって行き過ぎた世の中を見せられるようで恐ろしい。
一の章で展開するのは現代的なミステリー。
この二つの話が交錯するとき、読者は思わず唸ることでしょう。
其処此処へ仕掛けられた巧みな伏線と、読者を迷路へと導く筆致。
そこには森へ迷い込むように物語の中へ迷い込む快感があります。
家族とは、社会の在り方とは、その中で生きることとは、何のためか、誰のためか。
生き続けることにどんな意味があるのか。
ストーリーの面白さだけでなく、ひとの根源のところに繋がるテーマも深い。
独特な世界観にどっぷりと浸って欲しい、できればまとまった時間で読み切って欲しい、手応えの強い作品です。
一見、別軸に感じられる二つの物語。
しかし、少しずつ干渉しあい、もはや切り離せないほど強く絡み合っていく……。
子供たちの視点で語られていく価値観と、現実に生きる大人の視点。
これらが相乗効果を生み、読者をどんどん引き込ませてくれます。
なぜその世界はそうであるのか。
散りばめられた伏線と登場人物たちが抱く感情の起伏、とても冷静な状態では読めません。
読者を確実に世界へ引き込み、感情移入させられるため、常にハラハラどきどき。
こんな完璧なミステリー、筆者の力は無限なのだと感じさせられます。
連載途中のレビューとなりますが、もちろん最後まで(あとがきまで)追っていきます!
少子高齢化が進行し、政府が崩壊した近未来の日本ーー。地方自治体の自警組織『治安警察局』に勤める二十代の女性・一ノ瀬千幸は、同僚の佐伯とともに、貴重な若手の一人だ。ある日、二人は記憶のない少女を保護した。彼女の身元の調査を始めた矢先、佐伯は失踪してしまう。
一方、場所も時代も判然としないある『村』では、家族や結婚という概念のない暮らしを、村人たちは送っていた。子ども達を含む集団は、『協会』に決められた『単家』で暮らす。『教師』達に指導された穏やかな村の暮らしは、掟に縛られたものでもあった。村の少年ユウマは、大好きなチィ姉ちゃんと一緒に、子どもには禁じられた村の『夜の祭』を覗き見てしまう。その時から、穏やかな村の暮らしは変わってしまった。
ユウマ達サイドの『全の章』、一ノ瀬サイドの『一の章』。二つのストーリーラインがクロスカットする構成の物語です。物語が進むに従い、謎がひとつひとつ解け、人間関係が明らかになっていくさまが楽しく、読むのを止められなくなります。ストーリーが収束し、彼等が新しい希望に向かって歩み出す結末は、素敵でした。
ミステリー要素を含むSF、ディストピアものがお好きな方に、お薦めします。
この作品を見て全てを差し置いて言いたいこと、それは俺のバカ野郎!ってことだ!何でこれを一気読みしなかった!そしたらもっともっと感動を味わえたのに!解けていく謎、地の文から溢れる作品の空気!一気読みなら絶対もっともっと楽しめたんだ!バーカバーカ俺のバーカ!時間置いて読んでもすっごい楽しかったけどな。とにかく、まだこれを読んでない人!お前は俺になるんじゃねえぞ!だから一気読みするんだ!あっという間に12万字なんて過ぎちまうぜ!
失礼しました。
さて、正直困っています。ストーリー解説をしたいのですが、何を書いてもネタバレになりそうな気がしているからです。ミステリのネタバレをするというのは、ともすればボコられても文句が言えないレベルの代物です。なので2点だけ、言わせてください。
・この物語は主に2人の人物の視点で話が進んでいきます。
・最初はつながりが分かりませんが、読み進めていくうちに
「あれ……?」
となっていくでしょう。
これ以上は言いませんし言えません。気になった人、是非とも読んでください。ただし、読むときは一気読み推奨ですよ!でないと私みたいになりますから(笑)
「全の章」と「一の章」という、大きな二つの物語がそれぞれ動き、絡み合っていく。異なる二つの物語がどう関わっていき一つの物語となるのか、がこの作品最大の魅力だと思う。
掟に従って人々が暮らす、「結婚」「家族」という概念の存在しない村。この村を舞台とした、ユウマを軸として進む物語、全の章。
カメラや携帯端末と言った現代の機器が登場する近未来。自警組織「治安警察局」に所属する一ノ瀬を軸とした、保護された一人の少女をきっかけに始まる物語、一の章。
一見すると全く縁のなさそうな二つの物語が、時の流れに従って少しずつ関わっていく。この過程は読んでいて驚きを隠せない。物語の真相を知った時、あなたは何を思うだろうか。
きっと普段は気付かない、大切な何かに気付くことが出来ると思う
全の章・一の章と二つに分かれて進む当物語。
それらはお互いに歩み寄って一つの話へと昇華されていくのですが、交わる瞬間に物語は新しい驚きを見せつけてくれます……!
日本政府崩壊後というディストピアを舞台に繰り広げられますが、なんと言っても注目は全の章で語られる異様な村社会。発展途上国のようでもあり、民族レベルまで後退してしまったかにも見える不思議な光景。
一の章では携帯電話まで登場するのに、なぜ同じ国でこのような集落が存在してしまったのか? そんな好奇心が抑えられず、悔しくも一日ですべて読まされてしまいました(笑
国の有り様、そして家族の有り様について考えさせられることも多く、構成力・伏線も絶妙。その完成度の高さもさることながら、十二万字程度でそれらを読後感よくまとめ上げた作者の力量に感服です。
カクヨムでは比較的ライトな物語が多いですが、こちらのお話はやや正当ミステリ寄り。本格が読みたい方こそ是非手に取っていただきたい作品です。
決定的な少子化によって政府の統治が崩壊した未来の日本。
圧倒的な高齢社会は、地方自治によって辛うじて存続する。
そんな緩やかなディストピアを舞台に描かれていくのは、
交互に語られ、やがて真相を明らかにする2つの物語だ。
掟に従って、静かで素朴な暮らしを営む『村』がある。
家族や血縁という概念は存在せず、『単家』毎に住み、
日がある時間に働いて夜は眠り、『外』を知らない。
禁断の『森』があり、そこに『追放者』が住んでいる。
一方、現代日本の延長線上にある高齢社会の現実では、
当然ながら若い働き手の不足がさらに深刻化している。
分断された老人の暮らしには孤独死の問題が付き纏い、
労働可能な世代の多忙ぶりも生半可ではないようだ。
物語の鍵となるのは、アリスになぞらえられる少女。
13歳の美しい少女は、『豊穣祭』の夜の秘密に触れ、
禁じられた『外』との繋がりを得ることとなった。
失った記憶を少女が取り戻すとき、物語は大きく動く。
巧みに隠されたバラバラのピースが加速度的に繋がり、
一気に真相を明らかにして、物語世界を大きく揺るがす。
その見事な構成に引っ張られ、目を離すことができず、
ほのかな希望が胸を打つラストまであっという間だった。
7歳のユウマと13歳のチィ姉ちゃんの結び付きと、
その体験に起因するユウマの人間形成が素敵で。
負けるな、まっすぐに進め。
と、ユウマの背中を押してあげたくなった。
小さな社会を描くことで提示される大きな物語。
面白かったです。