掟に絆されて閉ざされた『村』、ゆっくり死んでいく少子高齢社会

決定的な少子化によって政府の統治が崩壊した未来の日本。
圧倒的な高齢社会は、地方自治によって辛うじて存続する。
そんな緩やかなディストピアを舞台に描かれていくのは、
交互に語られ、やがて真相を明らかにする2つの物語だ。

掟に従って、静かで素朴な暮らしを営む『村』がある。
家族や血縁という概念は存在せず、『単家』毎に住み、
日がある時間に働いて夜は眠り、『外』を知らない。
禁断の『森』があり、そこに『追放者』が住んでいる。

一方、現代日本の延長線上にある高齢社会の現実では、
当然ながら若い働き手の不足がさらに深刻化している。
分断された老人の暮らしには孤独死の問題が付き纏い、
労働可能な世代の多忙ぶりも生半可ではないようだ。

物語の鍵となるのは、アリスになぞらえられる少女。
13歳の美しい少女は、『豊穣祭』の夜の秘密に触れ、
禁じられた『外』との繋がりを得ることとなった。
失った記憶を少女が取り戻すとき、物語は大きく動く。

巧みに隠されたバラバラのピースが加速度的に繋がり、
一気に真相を明らかにして、物語世界を大きく揺るがす。
その見事な構成に引っ張られ、目を離すことができず、
ほのかな希望が胸を打つラストまであっという間だった。

7歳のユウマと13歳のチィ姉ちゃんの結び付きと、
その体験に起因するユウマの人間形成が素敵で。
負けるな、まっすぐに進め。
と、ユウマの背中を押してあげたくなった。

小さな社会を描くことで提示される大きな物語。
面白かったです。

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