とても面白く、読み応えたっぷりの物語でした。

この作品の特徴は何と言っても二つの物語が並行して進んでいくところです。
絡み合いそうで、掛け違えたボタンのように付きまとう違和感。
それでも二つの物語は容赦なく謎と不思議な深みへと突き進んでいきます。

『全』のパートではカルト教団を思わせる不思議な村での生活が描かれます。
『一』のパートではディストピアに彩られた近未来の生活が。
およそ接点の離れたこの二つの世界、でも徐々に絡み合っていく様が素晴らしい。
そして二つ世界の接点が明らかになった時、物語はさらに加速し怒涛のラストへと雪崩れこんでいきます。

根底には少子化で緩やかな死を迎えている人間社会の問題点があり、家族の在り方、社会の在り方についての深い問題提起があるように思えます。
そんな深いテーマを物語という形できっちりと描くあたりに作者のすごさを感じました。

と、こう書くとなにやら硬派な作品を思わせるかもしれませんが、魅力的なキャラクターと次々に展開するストーリーに引きこまれることでしょう。
とにかく文章も読みやすく、語り口もよく、読み手をつかんで離しません。

これだけの作品、本当に書くのが大変だったと思います。
でもその価値がある作品だったと、読み終えた今、素直にそう思いました。

本当に面白くて素晴らしい作品です。
ぜひ読んでみて下さい。

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