穢島-アイランド-

白神紫狼

穢島-アイランド-

プロローグ

心の走馬灯


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 楽しいキャンプのはずだった。

 何故僕達があんな目に合わなきゃならなかったのか。今でも分からない。

僕達が――

 僕達があんなわがままを言わなかったら、あんな事にはならなかったのに。

 意識が消えて逝く。僕が僕ではなくなっていく。

 本当に、もうダメだ。ダメなのだ。どうして、どうしてこんな事になったんだ。

 夢だと思いたかった。でも、真実だった。

 もう、僕は心が消える。

 楽しかった思い出も、懐かしく優しい愛情の記憶も、僕を支えてきたクラスメイトとの友情の記憶も――消えないが、無くなってしまう。

 それはまるで、昔はとても楽しかったゲームが、日が経つにつれ飽きて大人になって、最終的にはなんでもないただの鉄の塊同然になった時のような感覚。そんな感覚だった。

 僕は普通の高校、県立才桜さいおう学園に通う高校生だった。

 今は二年生で、友達も程よくいるし、優しい母さんや父さんもいる。

 本当に過去いまの生活を、なに不自由無く過ごしていたし、僕もその生活をなんとなく何の文句もなく感じていた。

 ただ、いまは違う。

 僕のなにもかもが違ってしまっているんだ。

 もう昔には戻れないと確信しているし、もう僕には何も無くなったのだと悟ってしまった。

 頭も体も冴え冴えしているその中で、心の中には全てをかき消してしまう霧が覆っていく。

 ぼくの心が、消えるのだ。そうだ。僕はそれがいま一番怖いんだ。

 そうだ。僕の中の思い出を一度思い出しておこう。そうすれば、絶対僕の心の中に思い出が、心の欠片が残るはずだ。

 だから、僕は僕の心の走馬灯を記憶の。いや、心の隅の奥に遺しておく事にしよう。

 きっとそれが、未来の僕の救いになると思うから――

 もう僕は、戻れないし帰れない。今まで楽しかった、そしてありがとう。


 ――さようなら。

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