「怪物」(1)
5
廃墟で留守番となった残り31人は、これからの事について会議を始めていた。
「これからどうします?」
まずはじめにクラスの中でも小柄で小動物的な印象のある女子、
「とりあえずここで生活するしかねーだろ! ったく、なんでこんな事になんなきゃなんねーんだよぉ」 「俺だって嫌だよ……あぁ早く帰りてー」
その言葉に男子の
「弱音吐かないっ! 男の子だろっ、しっかりしろよ!」
横では、そんな二人を男勝りで快活な女子である
彼女はいつもそうだった。いつも余計なお世話だと言われつつも、何かをしなければ気が済まない性格だった。
「黒神くん達、大丈夫かなぁ……」
「大丈夫だと信じたいけど……どうなんだろ……」
話をするにつれ、その雰囲気は段々と沈んでいった。 命が助かるかどうかわからない状況にあるのだから、当然といえば当然ではあるのだが。
とその時、クラスの中でも特に目立つ髪色の男子である
「やっぱり俺、あいつらが心配だ。様子見てくる」
「ええっ、危険だよ! 行かない方が……」
と、三和の友人であり比較的おとなしいタイプではあるがやや強引なところがある男子、
「馬鹿野郎! 俺はみんな全員で帰りてーんだ! 一人でも欠けたくねーんだよ!」
「でも!」
だが、三和は自分の意志を曲げようとはしなかった。 音川はその行こうとする三和の腕を掴んだ。 皆で脱出したい。彼はそれだけを願って彼を呼び止めた。
しかし――
「うるせえ! 行くっていったら行くんだよ!」
三和は腕を掴む音川の手を振り払い、廃墟を飛び出していった。
「三和くん……!」
音川は森の奥へと走り出す三和の後を目で追うしかできなかった。 未知なる島の先へと進む事が怖かったからだ。
自分が怖いから、自分になにか起こるのが嫌だから、彼は友人の姿を追わず、友人の姿を目で追うしかしなかった。いや、できなかったのだろう。彼はそれを非常に後悔し、嫌悪した。そしてその後悔は、後に虚無の絶望として帰ってくる事を――彼はまだ知らなかった。
6
黒神達を追って森に入った三和は、食糧調達係の皆を探していた。道はなかなか入り組んでいて、いまにもなにかが出てきそうな雰囲気であった。
いうなれば、異世界のジャングルの奥深くに迷い込んだような。三和はまさにそんな気分であった。
「くそ……どこに行ったんだ……? 早くあいつらと合流して、戻るように言わなきゃなんねえ……
……え?」
その時、三和は有り得ないモノを見た。
三和が見たソレ。
ソレは、人間の未開に踏み込んでいて、生物学上から逸脱した遺伝子を持つ存在であり、まさに生物を通り越した生物。
そんなあり得ないモノであった。
それは虚構だらけの造本でしか見た事のないような。異様で威容で巨大で強大なその姿は――
まさに、「怪物」そのものだった――
「マジありえね……なんだよこ」
ブチュ。――そんな不快な音が鳴った。
当然、『ブチュ』という音は、肉が潰された比喩的な擬音である。
食べ物が潰れたとか、水が不自然に弾けたような、そんな音ではまったくなくて、それは体のできものの中の膿が溜まった水のような汁が皮を裂いて無理矢理飛び出してきたかのような。そんな音だった。
三和は怪物が振りかざした腕の重圧により、瞬く間にスーパーに並ぶ普通のミンチ肉のようになった。
骨は飛び出ており、肉は散乱し、血はもはや血と呼べるかも分からない液体になっており、それはもはや、元人間か分からないほどであった。
怪物はそのまま、元人間だったものを口に屠り、歓喜の雄叫びをあげていた。
この三和の死が、怪物の巣くう謎の島での生徒達の恐怖と憎悪に満ちた悪夢の引き金となるのである。
勿論、その惨劇を今の生徒たちは知る由も無かった。
いや、知る由など最初から無かったのだろう。
出席番号36番 三和一。彼は元気だけが取り柄の少年だった。
髪の色は派手で特徴的ではあった。
しかし三和一は毎日喧嘩をしているとか、授業に参加していないとか、そういう生徒ではなかった。単に年頃の色気であり、少し背伸びをしたお洒落という程度のものであった。
しかし、彼は頭がいい訳ではないし、おまけに不器用であり、無鉄砲で無節操だった。
だからこそ彼は皆を守りたかった。のだろう。
自分の身体はどうなってもいい。 自分よりも大切なものを守りたかった。
自分は頭があまり良くない事を自覚していた。だがそれをカバーする、有り余るパワーが自分の中に眠っている。だから――
守り、助けたかった。だからこそ、あの時彼は廃墟を飛び出していったのだろう。
しかしそれももう叶わぬ
そう、文字通り――
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